第16話 猫のふみふみ

「ただいま」

「ただいまティア、良い子にしていましたか?」

「お父様! お母様! お帰りなさい!」


 晩秋の涼やかな風の吹く中、他領に紅葉デート兼、お茶会社交に行ってた両親が戻って来た。


 てとてとと、小さい体で両親に駆け寄る私。


「あ!」

「おっと」


 つんのめり、うっかり転びそうになった所をお父様がキャッチ。


「危ないぞ」


 幼児は頭でかくて、バランス悪いんだよ、多分。


「えへへ、寂しかったの」


 ぎゅっとお父様に抱きつく私。


「そうか、寂しかったか」

「今夜はお父様とお母様と一緒に寝たいです! 私を真ん中に挟むようにして寝て下さい!」


 川の字で寝たい。


「怒涛のように要求が出て来たな」


 すみません。 


「ティアは甘えんぼさんだな。良いよ」


 お父様は笑顔で許してくれた。


「しょうがないわね」


 お母様も苦笑しつつ許してくれた。


 貴族の子ってとっとと自立を促そうとするのか、あまり甘えさせないようにするみたいなのよね。

 でも私は限界まで甘えたいの。


「はい、お願いします」


 可愛らしい笑みを作る私。

 せっかく推しが両親なんだ、小さいうちは全力で甘えさせていただく。

 

「旦那様、奥様、お帰りなさいませ」


 姿勢の良い家令がナチュラルに進み出て紙を取り出す。


「お留守の間の使った予算の報告書です」


 ギクリ。

 別に悪い事はしてないけど、結構買い物したせいでちょい焦る。


「行商人から結構買い物をしたのだな」

「大変美味しい、良い買い物をしたので、後でご確認下さい」


 にこりと笑顔を作って言う私。

 

「美味しい物か。


美味しい物と言えば、持たせて貰ったパイ達は一種ずつは我々で食べた。

しかし、交渉に使った方が上手くいくだろうと、シルヴィアの進言で相手方に食べさせてみたら好評で、

話もスムーズだったぞ」


 パイがうちの商品の売り込みに一役かったのですね。

 お土産に使った訳だ。


「せっかく私達の食事にと用意してくれてたのに、ごめんなさいね。ティア」

「謝る必要なんてありませんよ。お母様、賢い選択です。


私も新しく精米機を作らないといけなくなったので、お金出してくれる

友好的な貴族が増えるのは喜ばしいです」


「…なんて? セイマイキ?」


 お父様はまた何か作るのかとやや引き攣った笑顔になった。


「後で説明します。まず、馬車移動の疲れをゆっくり癒して下さい。

その後、紅葉デートの様子を詳しく教えて下さい」


「紅葉は見事だったぞ」


 お父様が一言感想を言った。


「まさか感想は一言で終わりなんですか!?」

「他にどう言えばいいのだ。父は詩人ではないぞ」


 そんな事を言わずにレポート3枚分くらいはお話しして欲しい。


「紅葉はよく、色付いていたわよ。赤と黄色が混ざってて綺麗だったわ」


 お母様が見かねてフォローをして下さったけど、やはりこの目で見たかった。

 ぐぬぬ。せめて動画で撮って来てくれてたら〜。カメラが欲しい。


「そういえば、お土産が有るぞ」


 お父様が亜空間収納からすっと差し出す。


 いちじく、銀杏、スダチ、赤紫蘇だった。

 わーい!

 銀杏て茶碗蒸し作れるじゃん。


 赤紫蘇のジュースも色がとても綺麗で好きだから作ろう。

 スダチはお魚料理に合わせる。


 いちじくはコンポートにしたいけど良いお酒あったかな。

 日本酒が欲しい。リキュールでもいい。

 やはり有る物で作るなら白ワインかな?

 まあそのまま食べても美味しいとは思う。どうしようかな。


「美味しそうなお土産いっぱい嬉しいです! ありがとうございます!」

 私はニコニコとしてお礼を言った。


 * * *


 精米機の企画書と設計図を書く。


 4歳児のやる事じゃないけど、お米をスムーズに食べたい欲に負ける。


「ティアは本当に賢いな」


 物語で知識チートキャラを書く為に集めてた知識ですよ。

 実際考えたのは地球の賢い人達ですよ。

 人の手柄なのにすみません。


 * * *


 鯛飯を作ろうとして、料理酒も日本酒も無い事を思い出した。

 ……慌てるな、代用品だ。

 そうだ、白ワインはある。


 ワインの白は皮や種を除いて果実だけ発酵させたもので、

 魚介類の料理や淡白な素材の料理に使用するのに向いている。

 ちなみに赤ワインは肉料理に合うと言われている。


 醤油の代用品は、味噌の上澄み液だ。

 前世で読んだ本の知識を使ってみよう。


 昆布は先日ゲットした。


 鯛飯! 調理完了! いざ実食!


「セレスティアナ。あなたが私の娘で本当に良かったわ」


 そんなに!? お母様のお口に合ったようだ。


「ティアの夫となる男が料理をする事を許すなら幸せだろうな」


 良い声していて、性格が良くて、立派な胸筋をお持ちで、それを思う様、触らせてくれて、猫好きで、ライリーの城の近辺(できれば徒歩圏内)で一緒に住んでくれる男前なら結婚してもいいかもしれない。


「とりあえず王族には嫁ぎたくないし、ライリーに来てくれる方以外の婚約の申し出は蹴って下さいませ」


「そうなのか?」


「お父様とお母様のそばを離れたくないのです。

できれば婚姻以外で領地に貢献していきたいです」


 政略結婚は嫌。


「まあ、ティアの発明品は優秀だしな、まだ幼いし、今しばらくはどうにかなるだろうが……」

「お顔が天使の様に可愛いので、社交界デビューしたら婚約の申し込みは殺到するでしょうね」


「理想の男性がお父様なので生半可な男は無理だと言っておいて下さい」

「いやあ……」


 男前のお父様が照れ笑いをした。


「いやあではありませんよ。相手の身分が高い場合、断るのは大変です」


 呑気な雰囲気でいる事をお母様にたしなめられるお父様。


「ははは」


 お父様も思わず苦笑いである。


「そもそも瘴気で大変な土地の娘を容姿だけ評価して、嫁に貰おうとするのはいかがなものか」


 私は不利な条件を論う。


「家柄、家格はそれでも高いのですよ。持参金など不要な領地も有るでしょうし」


 お母様も憂い顔になってしまった。


「よし、今はせっかくの料理を堪能しよう。婚姻の話はまた今度」

「そうですね!」


 お父様の意見に全力でのっかる。


 * * *


 日課のお祈りを自室で済ませてから、夜の添い寝タイムへ。


 お父様のベッドが一番大きいのでお父様の寝室に来た。


 そこで川の字になって寝る。

 両手に花、どっち向いても天国。

 かたや、おっぱい、かたや雄ッパイ。


 どうする? どっち向く? 青い天蓋付きベッドの天井を見ながら思案する。

 お母様のたわわには前回顔を突っ込んだ。


 そしてお父様に今我慢させてる状態で私がお母様のたわわを満喫するのは悪い気がする。

 

 お父様は私の方、横を向いて片腕は耳、頭の下に置いて寝そべっている。

 もう片方の手では私の頭を撫でたり肩をポンポンと軽く叩いて寝かしつけようとしてる。


 お父様の白いシャツの胸元は大きく開いていて、立派な胸筋が見える。

 前世知識だけど、上質な筋肉は柔らかいと聞く。


 猫の肉球に感触が似ているらしいのだ、夢のようなお話。


 めっちゃ触りたい。揉みたい。

 猫の肉球大好き、でも猫は肉球触られるの大抵嫌がる。


 相手が父でも揉むのは無理だわ、動きがちょっと…アレな感じになる。

 今の私の見た目が幼女だけど、それでも厳しい気がする。

 隣にはお母様が寝てるし。


 では押すのはどう?猫のふみふみの様に、あの様子は全くエッチではなくて、

むしろ愛らしい。押すのはセーフでは?。


 私は意を決してお父様に手を伸ばして、猫のふみふみの様に胸筋を押す。

 ぷに、ぷに、ぷに。


 おおおおおおお!


「何してるんだ?」


 父、当然のツッコミである。


「猫のふみふみです、お気に入りのものにやります」

 毛布とか。


「猫……飼いたいけど、まだ治癒魔法も出来ないし優秀な獣医も

見つからない、つまり飼えないから自らが猫になるしかないんです」


「そんな……」

「ええ……?」

 あっけに取られ困惑する両親。


「それは分かったが、何故私の筋肉で?」


 分かってくれたのかこんな無茶苦茶な言葉を。

 懐が深い。


「猫のアレは毛布とかにやるものでは?」


「上質な筋肉は柔らかく、猫の肉球に感触が似てるらしいのです。

私は猫のプニプニの肉球も大好きなのです。でも猫はいない」


 目を閉じて「肉球…………」と呟きつつ父の胸筋を指の腹で何度も押す私。


「肉球の代わりにされていたのか」


 耐えられずに笑い出すお父様。


「くっ、あはははははは」


「猫が飼いたくても飼えないなら……仕方ないわね」


 お母様も呆れつつも納得してくれて、もう寝ようとばかりに目を閉じた。


 ゆ、許された。

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