第14話 行商人来訪

「お嬢様。

旅の商人が品物を見て欲しいと謁見許可を求めて来ておりますが」


!!


「旅の商人が!?

会うわ、お父様が留守中だもの、私が対応するわ。

城の敷地内に入れるなら悪意は無いって事だろうし」


 この城は悪意有る者は入れない結界に守られている。


「新任の騎士達五人とアシェルさんを謁見の間に呼んで、立ち会って貰うわ」

「はい、かしこまりました」


 行商人だわ! ワクワクする! ファンタジー系作品でよく見るやつ!

 そうだ、お父様の不在の間はここでは私が最高権力者。

 代理として高貴な令嬢プレイしちゃお!


 高貴な色と言えば紫よね! 今着てるのはくすみカラーの落ち着いたピンク色のドレスだけど、紫のドレスに着替えてから行こう!



「その方が品物を見て欲しいと申す行商人か。名を名乗るが良い」


 謁見の間で偉そうに座って声をかける私。

 周りには騎士とアシェルさんが控えている。メイドのアリーシャもいる。


「お初にお目にかかります。当方行商人のハンツ・エーサンと申します。

ライリー辺境伯令嬢におかれましては、ご機嫌麗しゅう…」


「挨拶はそこまでで良い」


 長そうだったので途中で終わらせる。


「面を上げよ」


 ちょっと某将軍様みたくなってしまった。


「は……っ」


 茶髪に琥珀色の瞳が驚きに見開かれた。30代くらいの男性。

 幼女過ぎてびっくりしたのかも。あまり気にしないで。


「おそれながら、領主様はどちらに?」


 防犯面で不在だとは言いたくない。


「両親ともに今手が離せぬゆえ、私が対応を任されている。

布を広げて、商品を見せるが良い」


「は、ただいま」


 急いで支度をする商人とお付きの二人。


 ──!! 土鍋が有る!

 視界には確かに土鍋が有る。


 色んな袋や箱や布などを並べて置かれている。

 土鍋が有るなら米もあるのでは!?


「食べ物、調味料の類いを優先して説明を」


 私は米と醤油を探している。


「は、これはエンリ伯爵領産の良い岩塩でございます。

こちらはソーハ男爵領産の豆でございます」


 次々に商品の説明がされていたのだけど、豆‼︎


 ガタン。

 私は豪奢な椅子から立ち上がって豆を近くで見る事にした。

 カツカツと靴を鳴らせて商人、いや、豆に近寄る。


「大豆?」

「おっしゃる通り、ダイズなる豆でございます」


 やった…! 大豆だ!!


「こちらは乾燥させた海藻です」

「昆布?」


 この黒い海藻は昆布でしょ!?


「はい、コンブでございます」


 やったわ。


 アズマニチリンがワカメとアオサを送ってくれるから、被ってない。


 こちら、家畜の飼料でございます。

 大きい袋に入っていたのは…。


 ああああああああああ!!!


「米!!」


 精米前の米!


「これが家畜の飼料と申したか!?」

「はい、ファイバスと言われる家畜の飼料です」


 食べ方、正しい食べ方を知らないの!?


「美味しくないので人用ではないかと」

「……は……?」


 思わず素がでた。


「え?」


 困惑する商人。


「いや、良い、この飼料の値段は?」

「家畜用なのでお安く、一袋で銅貨10枚でございます」


 安い!


「在庫有るだけ全部買おう。そこの土鍋も5個。大豆も昆布も在庫全て」


 大人買い!


「あ、岩塩は一袋で良い」


 塩は一応あるので。


「お嬢様はこのファイバスの正しい食べ方とやらをご存知なのですか?」

「知っているが、其方は土鍋が有るのに知らぬと申すか」


「は、こちらの土鍋は煮込み料理に使うものですが」

「……そうか」

「教えていただけますか?」


 商人が目を光らせる。


「定期的にファイバスをこの城に卸せるか? ならば教えよう」

「定期的に!?」


 驚く商人に向かって、私は内心で眼光を鋭くするイメージで言う。


「かような辺境では無理か?」

「……いえ、何とかします」


 ──脳内でそろばんを弾いたかしら?


「もみすりと精米の手間がいるが、商人、時間はあるのか?」

「はい。それは十分に」

「では誓約書を」

「お嬢様そこまで!?」


 メイドがびっくりしたようだ。

 米の為だもの。


「必要」


 キッパリと言い切る。



 道具を揃えよう、すり鉢とか。軟式野球ボールが欲しい。

 無いものは何かで代用、く、精米機欲しい。

 家庭用サイズのでも良い。


 その後、使えそうな道具を探して何とか精米した。

 手順はちゃんと商人に見せて、土鍋で炊いてみせた。

 完成した白米を、まず、そのまま食べさせる。


「…あれ…!? 美味しい…!」


 驚く商人。

 しかし当然である。

 おかずにハンバーグも出してやる。


「これをおかずに食してみるがいい」

「…!!! お、美味しゅうございます!!」


 米が霞んだみたいな顔してるけど、まあ良いわ。


「それでは、定期的に卸しに来るように」

「はい」


「良い取引だった。其方に感謝を」


 ほんとに感謝感激して私は言った。


「有り難き幸せでございます」


 商人は恭しく礼をした。



 商人を帰して一息つく。


「──はあ、高貴な令嬢風演技、楽しかったわ!」


 私はご機嫌でテラス席でお茶を飲みながら、クッキーを食べる。


「演技って、お嬢様はそのまま、高貴な令嬢なのですよ」


 メイドのアリーシャが呆れる。


「たまにやるから楽しいのよ」


 令嬢風プレイ。令嬢だけど。


「どちらかと言うと、あの演技は高貴すぎて女領主か、女王様のようでしたが、でなければ、令嬢ではなく、令息」


「細かいことは気にしないで。

お父様の代理だったから、なめられたらおしまいだと思ったのよ」


「ティア。かっこよかったよ」


 エルフはお茶に同席して楽しそうに笑ってる。


「あんなに勝手に購入を決めて良かったのです?」


 親の居ない間にかなりお買い物してしまったから心配された。


「高価な布やアクセサリーには手をつけなかったから、多分、大丈夫よ。

なんならこれから精米機も作るし、真の味を知ればみんな買うわよ。精米機はお金になるわ」


「確かに私もファイバスを味見させていただきましたが、美味しゅうございました」

「確かに」騎士達も口々に同意した。


 醤油が有れば完璧だったのだけど。大豆は手に入った。

 コツコツ大豆を買い集めたら醤油も作れないかな?。


 * * *


 ところでまだやってなかった事をふと思い出した。


 夜中、寝る前に、日課のお祈りの後。

 一人になってから試す。


「ステータス オープン!」


 手を前方にかざしてやってみたけれど…


 …………シーン。


 はい! 何も出ないし、何も起きませんでした!

 異世界転生のお約束だと思ったのに。


 解散!


 …まあ、明日は朝からお米が食べられるし!

 おかずは…何にしようかなあ…。塩かけておにぎりとか、シンプルでも良い。


 ──寝よう、おやすみなさい。

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