第10話 夏の輝き

 その日も朝のお祈りのお供えを取りにお庭に行く。

 裏のお庭の野菜に水もあげないとね。菜園の前で足を止めて息をのむ。

 ……育ってる。瑞々しいお野菜が。


 ──ああ、良かった。

 この赤くなったミニトマトと濃い緑色のきゅうりはもう収穫出来る。

 この分だと屋上菜園も期待出来る。


 庭師のトーマスがにこりと笑って籠を持って来てくれた。

 片手には百合。百合は夏も咲いてくれるありがたい花だ。

 白く輝くような大輪の百合を祭壇に飾れる。


 私は「朝採り野菜だ」とウキウキしつつ収穫を始める。

 朝の鍛錬をしてたお父様が声をかけてくれた。


「お、ついに収穫の時期か、おめでとう」


 私は満面の笑みで応えた。


 大玉のトマトはまだ緑色が残ってるからもう少し赤く色付くのを待ってから収穫する。


 お城の自室の祭壇に百合とお野菜の一部をお供えしてお祈り。


「無事収穫できました、ありがとうございます」


 感謝の報告をする。


 私は足取りも軽く厨房へ向かう。

 今朝はお城産のお野菜でサラダが振る舞える。

 スライスしたゆで卵も付けよう、見た目が可愛いし。

 フライドポテトも揚げて貰う。


 厨房に立って、料理人達に作り方を覚えて貰う。

 蝶々のようなリボンの形のようなファルファッレを作る。

 形が可愛いよね。


 朝食はベーコンとトマトのファルファッレパスタと新鮮お野菜のサラダとフライドポテト。


 美女……お母様が作ってくれた氷を入れたレモン水も添えて。

 清々しい朝食の時間を終えて、朝風呂に浸かる。


 午前中のうちにお母様のワンピースドレス完成の報告も受けた。


 ポンプとひき肉を作る道具のお話も進行中。

 こちらはまだ完成していない。工房の人も初めて作る物だし仕方ない。


 さて、いよいよ海ピクニックだ!

 お父様に仕事のスケジュールの調整をお願いする。

 イケメンエルフのアシェルさんはギルドの指名依頼でお仕事で出張らしい。

 一緒に海に行けず残念だった。


 スケジュールの調整中は私も自分用に新しいワンピースを作る。

 白い生地で自分で縫う。 経費節約。


 日傘も扇子も家、いや、城にあったものを使う。

 いつか新しいのを買うから待っててお母様。


 まあ、そもそもの美貌が有るからね。

 大丈夫。 新しい日傘が無くても美しい。


 お父様用にハンカチに刺繍をする。

 モチーフは蔦模様。

 祝福と祈りを込めて大切に縫った。


 お父様のお名前入れは、お母様に頼むね。

 それはお母様の役割のような気がしたので。 何となく。


 完成した刺繍のハンカチは海ピクニック出発の朝に渡した。

 お父様は甘やかな笑顔で「ありがとう」と言って頬にキスをくれた。

 ──満足。


 お母様にも完成した薄い紫のワンピースドレスを着て貰う。

 薄い紫の生地の上に透ける白のオーガンジーのような布を重ねてある。

 妖精のドレスのように綺麗。


「素敵なドレスをありがとう。ジーク、ティア」


 美しい笑顔でお父様と私にお礼を言ってくれるお母様。


 裾は爽やかにふわりと広がってる。贅沢に布を使うのが貴族。


「あまりにも美しい。女神か」


 お父様もそう言って惚れ惚れしている。さもありなん。


「お母様とっても綺麗」


 マジ、花のように女神のように美しい。


「ティアの新しいお洋服も可愛いわね」


 夏と言えば白いワンピースと麦わら帽子の少女よね、今は幼女だけど。


「ありがとうございます」

「やはり私の娘は天使だったか……」

「人間です」


 お父様とそんなやり取りをしてクスクスと笑う。


 ちなみにお父様の服はパーティーの夜会服とかではないから

 白いシャツに黒いパンツ姿。

 男前はシンプルでいい、そのままでも十分かっこいい。


 お母様が引き立てられてれば良い。

 でも美女連れの男性って2割り増しくらいはかっこよく見えるよね。

 お互いひき立て合ってる!



 馬車移動は少しお尻が痛いけど、我慢。

 なんかお尻が痛くない馬車を開発すべきかもしれない。


「わ──っ! 海──っ!!」


 馬車の窓から海を見てテンションの上がる私。

 お弁当ももちろん持って来た。

 ピクニックと言えばお弁当だもの。


 砂浜に打ち寄せる白い波がとても爽やか。

 空も青く澄んでいる、入道雲も白くて綺麗。

 夏空はどうしてこんなに胸が切なくなる程に綺麗なんだろう。


 上空までは瘴気の影響は無い。


 海を見ながら私が呟く。


「塩……」

「塩がなんだって?」


 と、お父様に突っ込まれる。


「今はまだいいんです、それよりお母様と砂浜を歩くとかして下さい」

「なんなんだ、一体」


 苦笑しつつも、言う通りにするお父様。


 一枚絵だ──スチル絵だ──と思いつつ、麗しい両親を砂浜に布を敷いてメイドと一緒に眺めてる。


 海ピクニックの前日には大玉トマトも赤く色付いて収穫出来たので、瑞々しいトマトを囓りつつ、仲睦まじい両親を眺める。


「風を含んで奥様のドレスのスカートがふわりと広がって、絵になりますねえ」


 メイドのアリーシャも、うっとりの光景である。


「海神に攫われないようにしないと」


 真面目に心配になるほど美しい。


 新しい白いワンピースが汚れないよう、首にスカーフを巻いて、トマトを間食にしながら保護者のように後方から見守る私。


「お嬢様は歩かないのですか?」


 アリーシャがそう言うので、立ち上がって散歩を開始。


 岩場の方に移動。

 岩に海藻のアオサっぽいのが見えるけど瘴気の影響あるかな〜〜?

 危険かな〜〜?


 などとアオサのお味噌汁が食べたい私は海藻をじっと見たり、


 あ! イソギンチャク! 小さい蟹! ヤドカリ!


 陽光を受けてキラキラする岩場の潮溜まりの光景にワクワクしていた。

 夏休みの少年のように。


 お弁当の時間。


 焼いた豚の腸詰め。卵サンドにハムとチーズとレタスのサンドイッチ。

 揚げたての唐揚げとフライドポテト。

 氷入りレモン水とアイスティー。


 亜空間収納の食材は傷まないし、出来立てはほかほかのまま、

 冷たい物はそのまま保存されててマジチート。


 皆とお弁当を満喫。



 楽しい海ピクニックから帰還途中。

 馬車の揺れでお尻が痛いので、とある村で小休止する事に。

 木材が積まれている、製材場だ。


 お母様は木材に興味無いから馬車でメイドと待機。

 私とお父様は外に出た。


「お父様。板とか木材が欲しいです」

「板? まあ、構わんぞ」


 製材場のおじさんに板や木材を購入したいと告げる。

 突然のお貴族様、しかも領主登場に驚くおじさん。


 しばらく交渉してると、おじさんの奥さんらしき人が慌てて走って来た。


「あなた、子供の熱が下がらないの!」


 心配そうな顔で夫に伝えに来た。


 それを聞いて、私はお父様に声をかけて、亜空間収納中の販売用にストックしていたお母様作の氷を出して貰う。


「この氷と薬を子供に使うと良い」

「え、こんなたいそうなものを! いただけるんですか!?」

「もちろんだ」


「お父様、お薬まで持ってたの?」

「最初にティアと市場に出かけた時から、病み上がりだったし、

心配だったから、事前に用意してたのがあった」


 や、優しい……! 愛!


「お嬢様用の大切なお薬と高級品の氷まで譲っていただけるなんて!

木材は無料で持って行って下さい!」


 おっと、木材が無料になった!

 そこの廃材もいらないならもらってもいい?おじさんにそう聞くと、好きなだけどうぞと言われた。


「板で何を作るんだ?」

「まだ決めてないけど亜空間収納にしまっておいて下さい。

いずれ何かに使います」


 と言っておく。


 夜の帳が降りる頃、帰城。



 後日。


「あの氷は領主様の奥様が氷魔法で作った氷だったらしい」

「本当にありがたかったわ」

「……子供の熱が下がって良かった」

「村の教会の神父さんに感謝のお手紙の代筆を頼みましょう」


 夫婦は子供が助かって領主一家におおいに感謝した。


 更に数日後、領主のお城に届いたお手紙を見て、

「私の氷も役に立ったのね」と、お母様は花がほころぶように笑った。


 お母様が嬉しそうで私も嬉しいな。



 夏の終わりにはポンプとひき肉器の見本は完成した。

 職人さん、頑張ってくれてありがとう。

 ついでに香りの良い石鹸も試験的に少量売り出す。

 まだ量産体制は整ってない。


 商業ギルドに話を付けて、ポンプとひき肉器の生産開始。

 そして販売を始める。

 私の名前はもちろん伏せてお父様名義で売る。

 うちにお金が入ればそれで良い。



 ──さあ、実りの秋には大金が動くぞ。

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