第5話 市場から帰って
「まあ、ティアったら、見ず知らずの少年にそんなに支払いをさせてしまったの? 良くないですよ」
ティータイムで小休止しつつ、お母様に市場の件を報告して、お説教をくらう。
美しい女性には「めっ!」って言って優しく叱って欲しい。
「お母様、叱るなら「めっ!」って言って下さい」
「? めっ!」
少し照れながら言ってくれた。
……本当にありがとうございました。
心の中では満面の笑顔な私。
「はい、すみませんでした」とりあえず表向きは真面目な顔で謝罪する。
「ですが、何とかして節約出来る所はして、書類仕事を手伝ってくれる文官を雇いたいのですよ」
(苦労してる家令が気の毒なのです)
「富豪の財布の中身が多少犠牲になりましたが、経済を回すのは、悪い事では有りません」
「文官な、それについては私も悪い……私が不甲斐ないばかりに……」
お父様が切ない顔をする。
領民に重税を課したくないから。
「瘴気の影響はお父様のせいではなく、魔物のせいです。民は生かさず、殺さず。
みたいな考えの支配者階級が多い中、なんとか生かそうとするお父様のような方は、貴重と言えるでしょう」
そういう優しさが有るから皆も慕っている。
「毎日光の神と大地の神にお祈りしてなるべく早く、瘴気の影響が消え去るように、お願い致しましょう」
もはや、神頼みするしかない規模の災厄でしょ。
あ、イケメンエルフのアシェルさんに変装の魔道具を返却。
ありがとうございました。
* * *
遅めの昼食には、フライドポテトとハンバーグとサラダ。
とうもろこしと葉物野菜のサラダは最近の定番。
レモンと塩とオリーブオイルのドレッシングでいただく。
ハンバーグにはケチャップとマヨネーズを混ぜたソースをかけた。
「ふむ、今まで食べた事が無い料理だな」
「本当に」
お父様とお母様はハンバーグも気に入って下さった。
「うん、美味しい」
エルフの口にも合った!
「お肉を細かくして焼いたもので、ハンバーグと言います」
「ティアが考えたのか」
「いえ、夢の中の…図書館で……」
地球人のどなたかが考えた料理です! とも言えず。
「教会、神殿の人間には夢の図書館の事は言ってはいけないぞ」
真面目な顔で言われる。
「……言うと捕まるんですか?」
怖い。
「神の使いか聖女か何かだと思われて、神殿が欲しがるだろう」
中身ただのオタクなので「聖女とかありえません」
と、キッパリと否定をしておく。
それにしても、ひき肉を作って貰ったんだけど、肉をこう、細かくするのが包丁。
人力なのでフードプロセッサーとかミンチが作れる挽肉製造機、道具が欲しいって思った。
無ければいずれ開発するしかないか。
うーん、お金の匂いがします。
なお、夜の為にお味噌にお肉を漬けておく。
豚肉に味噌、お酒、砂糖、生姜、蜂蜜、ニンニクすりおろしを使用。
……味醂が無かった。無いものは仕方ない、蜂蜜で代用。
夕方には畑とプランターに、念願の苗と種を植える。
庭師のみならず、門番さんやメイドや執事まで手伝ってくれた。
皆んなありがとう。お野菜よ、すくすくと育って下さい。
「どんな具合だ?」
お父様が様子を見に来て下さった。
「皆が手伝ってくれたので今のところ問題有りません。
ただ、苗を荒らしに野生動物は来ませんか?」
「瘴気の影響で動物には他領の方が人気だろう。うちの城壁も門番も突破出来ないし」
「悪意無く、食べ物探しに来てるだけの鳥でもですか?」
「鳥。そうか鳥は庭園で、木の実や虫を食べに来ていたな」
たまに巡回して気をつけよう。蒔いた種を食べられないように。
「虫だけ食べてくれたら良いのですが」
「そうだな」
というか虫はどっからともなく現れるな。
益虫以外はご遠慮下さい。
高く遠い空を見上げて見ても、瘴気の影響は見えない。
「んー、……夕焼けが綺麗だな」
そう言って体を解すように一つ伸びをし、夕焼けを眺めるお父様が、凄まじく絵になる件について。
逆光。漫画なら上段アップでお姿が描かれてる。
1ページ丸ごとかもしれない。尊い。
スマホで撮影したい。
綺麗な夕焼けを眺めながら空に大地に祈る。
野菜がすくすくと育ち、皆健康で幸せでありますように。
そしてずっとお父様のそばにいたいな、できれば嫁に行きたくない。
いつか城を出て絶対結婚しなきゃいけないなら「徒歩圏内に家建てて住みたい」
とお父様に言ったら「っははっ、徒歩圏内って」と、笑われた。
だっていつでも顔が見たい時に見られるように近くにいたいんですよ。
でもこのお城はいっぱい部屋空いてるから、子供部屋にずっといて、お父様のお仕事のサポートしてても良くないですかね?
なんなら文官の仕事だってやりますし。
「ティア、そろそろ城の中に戻るぞ」
小さい私を気使って、柔らかい土の上をゆっくりと歩く。
「はーい」
お父様の声と広い背中を、ひたむきに追いかける。
* * *
夕食は昼に仕込んでいた味噌漬け肉を作って焼いた。
具が玉ねぎしか無いけど、お味噌汁も作った。
両親には両方とも初めての味だったけど、大好評でした。
お味噌が口に合って良かった。
アズマニチリン商会ありがとう。永遠に栄えて下さい。
しかし、豆腐とわかめが欲しい。
あ、味噌の上澄み液は別にして取って置いてある、お父様の亜空間収納に。
* * *
翌日
朝から野菜苗の水やり、植物には音楽だか歌だかを聴かせるとよく育つという言葉を思い出し、
こちらの世界で私がぐずって泣いてた時にお母様が歌って聞かせてくれた歌を思い出して歌う。
苗達は朝日を浴びて、キラキラと光って見える。
「……おはよう、ティアは歌が上手だね」
いつの間にかアシェルさんが近くにいて、眩しげに目を細めて褒めてくれた。
流石エルフ、植物のそばが似合うなあ等と思いつつ
「おはようアシェルさん、褒めてくれてありがとう」
挨拶と笑みを返す。
「そのゆったりとした様子だと、アシェルさんは当分ライリーのお城に滞在してくれるの?」
「部屋が沢山余ってるからここを拠点にして活動して良いとジークが言ってくれたんだよ。
魔の森で狩りも出来るから当分いるよ」
「嬉しいです」
ふふふ、目の保養。
朝から麗しいエルフに会えるって、素敵なログインボーナスのようなもの。
庭園のお花を選んでお供えして、お祈り。(夜も寝る前にお祈りします)
朝食はベーコンエッグと付け合わせに、コーンスープとトマト入りサラダ。
盆栽の松の木は大きく育てたいので、鉢から出して裏庭に植えさせて貰った。
水で薄めたポーションもかけてみた。
わざわざポーションを使ったのは意味がある。
生命力を活性化させて出来れば早く育って欲しいのだ。ある野望の為に。
お昼
「お嬢様、今回は何て料理を作られるので?」
料理人が目を輝かせて聞いて来る。
最近料理が美味しいと、城の人達にも褒められてやる気に満ちている。
「ピザよ、材料はメモにある通り。 お湯は沸かしてあるわね」
「はい、準備してございます」
「小麦粉、砂糖、塩、ぬるま湯。トッピング具材は……オリーブオイル、ソーセージ(豚の腸詰め)
それとトマトソース、チーズ、バジルの葉、全部ありますか?」
「はい!」
「ボウルに薄力粉、砂糖、塩を入れてさっと混ぜて、ぬるま湯を中央から少しずつ加えて、混ぜて、そう、
そんな感じで…粉類を混ぜ終わったら、湯を入れるために中央をくぼませて」
……と、次々に指示を出して行く。
湯はしっとりするまでさらに少しずつ加えて混ぜる。
「力を入れて体重を生地にのせる。
生地が手につかなくなって表面がなめらかになるまで、しっかりこねる」
こねこねこね。
「そして生地をまとめて……」
などど細かく指導していき、厨房の人にピザの作り方を覚えて貰った。
チーズとソーセージのピザが食堂のテーブルに並んでる。
飲み物は例によって氷入りレモン水を添えて。
「美味しそうな香りがする」と、お父様が嬉しそうだ。
「美味しいと思うので食べてみて下さい」
私もワクワクしている。
「美味しいな」
「ええ、本当に、美味しいわ」
両親共に口に合って良かった!
「やはり餌付けされそうだ」
エルフは餌付け可能なのか。
ピザも好評。家族もイケメンエルフも口々に褒めてくれる。
おやつの時間には、富豪の美少年ガイ君が奢ってくれた苺でクレープを作る。
生クリームとフルーツの組み合わせは最高。
市場に苺っぽい果物があったから買って貰ったの。
前世で本来は苺は野菜に分類されると、どこかで聞いた気がするけど、果物と考えた方が、テンションがあがる。
「これ、とても美味しいわね」
クールビューティーなお母様も女性らしく、スイーツ系には弱いみたい。
クレープを食べ終えると、うっとりと息をつく。
お母様と言えば、ドレス用に確保している布は、しばらくお父様の亜空間収納で眠っていて貰う。
たまに自分で忘れかけるけどまだ4歳児なので、流石に貴族ドレス作るのはおかしいと思って。
ちなみに草木染めのワンピースは両親とも「よく出来たね」って、褒めてくれたけど、ほぼメイドが作ったと思い込んでる模様。
多分日々の書類仕事で疲れてて、深く考えていない。
勘違いの件は都合が良いので、誤解させておくね。
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