第3話 まるで乙女ゲームの

 私はセレスティアナ。 

 辺境伯令嬢! こう見えても貴族の令嬢!

 ただ今…覗きをしている。 庭の茂みの影から……

 何を覗いてるかと言うと……


 何と朝からお庭で両親がいちゃついてるのである!

 あまりに萌えるので、邪魔しないよう気配を殺して見ているのである。


 前世で好んでやってた乙女ゲームで言えば一枚絵、「スチル」があって然るべきシーンではないか

 何しろ──……、


「お嬢様? 何をされているんですか?」


 声をひそめてお城の門番さんがしゃがみ込み、交代時間になって暇なのか急に声をかけて来た。


「奥様、ご覧になって? あちらの旦那様、奥様の髪に手折ったお花を飾りましたのよ。

あまりにも絵になる光景ではなくって?」


「まあ、本当にお似合いのお二人ですね、お熱い事──」


 突然の奥様ごっこに慌てずに対応して来る門番さん。こやつ、出来るー。

 多分同年代の子供の遊び相手居ないから、気の毒がって合わせてくれたのね。


「ティア、そんな所で何してるんだ?」


 お父様にバレた。(バレないはずがないが)

 私はザッと勢いよく立ち上がり、芝居がかった口調で言った。


「よく、ここに俺がいる事を見ぬいたな!」

「めっちゃ声が聞こえたんだが」


 お父様がやや顔を赤くしている。照れているんですね、かっわいい。


「クハハ! 今日の所はこの辺で見逃しといてやる!」


 三下っぽい捨て台詞は、一回言ってみたかったのだが──、


 ザッ!!


「わっ!」

「捕まえた!」


 突然目の前にかなりの距離を跳躍して来たお父様にぎゅっと抱きしめられた。

 つまり、捕まった。


 ついうっかり「きゃあ!」とかじゃなく「わっ!」とか言ってしまうあたり

 乙女としてどうか。


「おのれ、この私を誰だと思って──」

「誰なんだ?」

「や、闇の種族の四天王の一人……」

「いきなり四天王を捕らえてしまった」


「私はこれにて失礼します!」


 しれっとダッシュで離脱する門番。

 私を見捨てるのか。

 未だお父様の腕の中で捕獲されている私──


「だが、調子に乗るなよ、我は四天王の中でも最弱──……」

「自分で最弱とか言ってしまうのか?


くっ、あははは!」


 耐えられなくなったのか、爆笑された。


「ふふ。なんのごっこ遊びをしているのやら」


 いつもはクールっぽいお母様も、おかしさが堪えられなかったもよう。

 肩も震えてる。

 別にお母様も爆笑してくれて良いのに、貴族の誇りにかけて堪えているのか。


「ふう、さて私もお花を貰いに来たのでした」


 切り替えて、祭壇に飾る花を選びに来たので庭のお花を物色する私。


「こちらはどうですか? お嬢様」


 お父様が片膝を突き、愛の告白みたいなポーズで一輪の白色の薔薇を差し出して来る。


 きゃ──! スチル──! 一枚絵──!!

 かっこいい──っ!

 スマホ誰か持って来て──! カメラ──!


 だが、ここにはスマホもカメラも無いんだよ、悲しい。


「まあ、これを私に? ありがとうございます」


 お淑やかな令嬢風に応える。本物の令嬢なんだが。


「あははは、好きなのを持って行くと良い」


 お父様は立ち上がって膝をはたく。

 はい、ごっこ遊び終了のお知らせ。


「このブルーのお花も綺麗よ」


 お母様がポピーに似た青い花を指指す。

 前の世界だと青い色素を持つ花ってあまり多くないと聞いたけど、こちらはどうかな?


「はい、綺麗な青ですね」


 私も青い花大好き!

 私は少し離れた所にいた、庭師のトーマスに声をかけて、青いポピーに似た花を数本切り花にして貰った。


 このお母様が選んでくれた青い花を、神様を祀る祭壇に飾り、

 お父様が下さった白い薔薇は一輪挿しで、私の部屋の窓辺かテーブルに飾ろう。

 だってこれは、お父様が私に下さった特別な薔薇だもの。

 ふふふ。


 さて、わざわざ早朝に起きたのはお供えのお花を探す事。

 それと、ケチャップが完成してるだろうから、朝食にオムレツをリクエストするためです。


 作り方を料理人達が知らないようなら、レクチャーせねば。


 ちなみに先日の昼はイケメンエルフの差し入れトマトで、ミネストローネを作って出した。

 大変美味しゅうございました。


 家族にも好評だった。

 トマト味のスープは初めてだったらしい、何故だ。

 食への探究心が薄い世界か?


 ともかくトマトは素晴らしいので、トマトさえ有ればまた作りたいな。


 お父様が仕事に戻ったあたりで様子を進捗どうですか?と見に行こうかな。

 プレッシャーを与えるようで、申し訳ないけれど

 夏野菜に間に合うように苗を買いに市場に行きたいので。


 皆の食卓を豊かにして日々小さな幸せでも感じることが出来るよう、頑張りたいな。


 * * * 


 「うちのお嬢様」


 メイドのアリーシャ視点 (おまけの小話)


 私はアリーシャ。

 辺境伯令嬢である、麗しのセレスティアナお嬢様付きのメイド。

 年齢は30代前半。髪は長い黒髪を後ろで纏めている。

 目は普通に茶色。


 いつものようにお嬢様のお部屋の掃除に来ると、お嬢様が作ったらしい祭壇に神様の絵が飾ってあった。

 色も塗ってある。とても綺麗な絵だった。


 机の上の画材はきちんと片付けられている。

 筆も大事に洗って古い布で拭いて乾かしてある。


 え? お嬢様は四歳よね? お片付けが完璧な上に、あまりにも絵が上手い…もしや天才なのでは!?


 ん、待って、誰か別の人に描いて貰った?

 でもこのお城は領主である旦那様の方針で、税を上げない為に、質素倹約をして使用人の数もとても少ない。


 五柱の神様の絵を一枚ずつ描いてある。

 子供のお絵描きのレベルを超えている。


 私は部屋から出て執事のカリオに声をかけて、倉庫から額縁を探して来て貰う。

 絵は薄い板に重ねてリボンで固定してあったけれども、額装しなくては!

 そう思うレベルの絵だった。


 お嬢様が自室に戻る前に額装をおえた。


 お嬢様は天使のように綺麗で可愛らしい方であるけれど、高熱を出して死にかけて復活をされてから、ますます美しくなられたような気がする。

 瞳が何やら知性的に輝いて見えるのだ。


 発言も何やら大人のようだ。

 お嬢様の身に天使様でも降りて来ているのだろうか?


 とりあえず、この上手すぎる絵の報告を、ご両親であるお二人にするべきなのか。

 もしかして奥様がこの絵を描くのを手伝ったとか?


 旦那様は今は書類仕事に追われているはずだから、とりあえず奥様の方に行きましょう。


 奥様の部屋の前でノックをすると、中から涼やかな声でどうぞと言う声が聞こえる。


「あら、アリーシャどうしたの?」


 氷の精霊の女王のように美しい青銀の髪を揺らして顔を上げられた。


 奥様は机に向かっておられ、書類と手紙が積まれていた。

 しまった、旦那様のお仕事のお手伝いをされていたようだ。


「お仕事中でしたか、申し訳ありません」

「構わないわ。

ティアが早く市場に行きたがっているから、少しジークのお仕事を手伝っていたのだけど、もう殆ど終わっているの。

私には遠慮してか、少ししか書類を渡さなかったわ」


 有能にして良妻。


「あの、お嬢様が神様の絵を描かれていたので、倉庫にある額縁を使用致しました」

「あら、もう絵を描いたの。早かったわね」


 手紙を傍に束ねて置きながら、柔らかく微笑まれる。


「そんなにお絵描きが楽しかったのかしら」

「早い上に、もの凄くお上手です」

「まあ、そうなの? お世辞ではない?」


「お世辞は全く言っておりません。天才なのではと思ったのでご報告に参りました」


 一瞬ポカンとされた後に、くすりと笑んで、

「まさか、そんな、あの子まだ四歳よ?」

 

 とても美しい微笑みだけれど、本気にしていただけない。


「とりあえず、お嬢様の絵は額装致しましたのでご報告まで」

「ありがとう。アリーシャ」


 言うやいなや、手紙を開いて確認を始められた。


 まあ、そのうち目にする事もあるでしょうし、何しろ同じ城の中ですし、

 お仕事の邪魔をするのも何ですし、私も自分のお仕事に戻る事にした。

 掃除が終わったら自分の食事の時間である。


 今日はとても美味しい賄いが出ると聞いていて、楽しみなのである。

 貴族である旦那様達と内容がほぼ同じらしい。


 賄いとは──? と突っ込みたくなるけれど、

 新メニューの練習がてらって事かもしれない。


 ありがたい事である。

 私はワクワクとしながら使用人用のお食事部屋に向かう。

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