灯台下暗しとはよく言ったもので幸せというものは意外と自分の近くにあるもの。理想というものもまた同じかもしれないですね。

緑川 湖

上を向いて前を見据えて歩くのも良いけど足元もたまには見てみようよ

 いつものような平和な日の放課後、これまたいつもの校舎の屋上で俺は勝負をかけようとしていた。


「一目惚れしました!付き合ってください!」

「ごめんなさい。奥井くん。私はあなたのことをよく知らないので。それじゃあ。」

「あぁっ!待って!お願い!」


 俺はその場から立ち去ろうとした学年一の美少女、佐山百合亜さやまゆりあさんを呼び止めた。けれど佐山さんは意にも介さずそのまま告白のために呼び出した屋上から足早に立ち去ってしまった。


「……また駄目かぁ。これで何敗目だよぉ……。」

「11連敗めだね。いい加減高嶺の花ばかりにアタックするのやめたら?」


 物影から出てきつつそんな事を言うのは俺のクラスメイト、甲斐美咲かいみさきだ。


「あぁ、甲斐。またお前か。毎回俺の告白見てて飽きねーのかよ。」

「いやぁ、まぁ友達として見届けようかなとか考えてるだけだから……。」

「しかしよぉ。俺の何が駄目なんだ?ただ美人と付き合って自慢してウハウハになりたいだけなんだけど?」

「そういう態度全てだと思うよ?人と人が付き合う事をなんだと思っているのさ?」

「駄目ぇ?カワイイ娘ゲットして見せびらかして自慢しちゃ。」

「駄目にきまってるじゃない。いつも仲良くしてもらってる私でさえ軽く引いちゃうよ……。恋人って見せびらかす物と違うでしょ。」


 やれやれこいつはと言いたげな表情で言われてしまう。


「ところで、奥井くん。恋人に求める条件て何?今まで見た感じカワイイ女子に手当たり次第て感じがするけれど。」

「うーん。まぁそうだな。身長は俺よりやや低くて髪は黒のセミロング。どちらかといえばスレンダーな感じの体型で、二重のくりっとした目をしているのが好みかな。丁度さっきの佐山さんみたいに。」

「ものの見事に外見情報だけだね。見た目だけ良い大したことない性能のスポーツカー買わされそう。」

「いいじゃん別に。ていうかスポーツカーバカにするなよ?あれはエンジニア達の汗と涙と努力の結晶なんだぞ?」

「わかっているよ。いつもその話をしてくれるもの。私が言いたいのはね、見た目だけで選ぶと痛い目みるかもよ?ってこと。人の本質ってビジュアルではわからないところにあるじゃない。」


 確かに一理ある。見た目良くても性格悪いなんてのはたまに聞く話ではある。付き合うという事をするなら性格が良い方が問題無いってのはそりゃそうだ。


「まぁそうなると、性格とか内面とかそういうところから恋人選びしてみるのも悪くないかもな。」

「そうすることをオススメするよ。じゃ、私はこれで。」


 甲斐は屋上から去っていった。


 しかし、内面で恋人選び、か。なかなか考えたことは無かった。好みとかそういう方向性で行くのなら、どっちかというと元気娘な感じで、なんでも腹を割って話せるタイプで……あとはお茶目さもあると完璧だ。


 ……あれ?この方向性だと、甲斐がめちゃくちゃ当てはまってないか?顔だって俺の好みとはちょっと違うけれど笑顔は可愛いし……。


 やべ。なんか意識したらなんだかドキドキしてきた。なんだ?今までここまでの気持ちになった事ないぞ?なんとも例えがたいこの気持ちはまさか……恋というもの?いやいや、いままでさんざん一目惚れとかしてきてるのに今更だ……。


 いや、よくよく考えてみりゃあの子結構良いよね的なノリでしか好きになってない気もする。となるとマジの恋ってもしかして始めてなんじゃないのかこれ……。


 クソッ!結論出ねえ。いっそ告白してしまおう。それで付き合ってみれば答え出そうだ。


 俺は屋上から足早に階下へと降りて俺達の学年があるフロアまで来た。そして甲斐を探す。ついさっきまで屋上に居た直後だからまだこの辺りに居るはずだ。荷物も持っていなかったし。


 早足で俺のクラスの教室に行ってみると、甲斐が荷物をまとめている最中だった。 


「ありゃ。どうしたの?そんなに急いで。」

「いや……なんと言ったらいいかな……。」

「勿体ぶらずに言ってよ。らしくないよ。」


 ひとつ深呼吸をする。今まで以上に緊張する。それでも俺は想いを打ち明ける。


「なんというか……どういう内面の人を好きになるかってのを考えてたら、たった今俺はお前を好きになったらしい。……付き合ってほしい。」

「……えぇ……。この短時間で恋に落ちるって……。本気で言ってる?」

「本気だ。俺がこういう悪ふざけしないのはお前も知ってるだろ?」


 何だか困惑だという表情を見せた後、甲斐は話し始めた。


「全く……思えば思わるるなんてのは当てにならないと思ってたけど……。」

「何の話だ?」

「私は……奥井くんが好きってこと。だから返事は……。イエス、だよ。」


 受け入れてくれるかどうか、不安だったけど告白は成功した。天にも昇る心地とはまさにこのことか。


 俺は理想の恋人というのを追いかけ続けて全然上手く行かないというのを繰り返していたけれど、結局一番好きになれる理想の人は本当に身近にあった。さながらメーテルリンクの青い鳥のようだ。俺はそう思っていた。

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灯台下暗しとはよく言ったもので幸せというものは意外と自分の近くにあるもの。理想というものもまた同じかもしれないですね。 緑川 湖 @Green_River_114

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