第49話 [電子レンジ砲]

 大太ひろたの髪を掴んで引きずりながら、俺たちはグラウンドに急いで向かった。

 グラウンドにつくとそこには、氷漬けになっている真っ黒の獣の姿と、笑顔が咲いたクロエの姿があった。


「レータロー!!」

『うぶっ』


 俺を見るや否や、こちらに駆けつけて抱きついてきた。一応約束だったので、抱き返す。

 琴音も封美ふみのようなジト目になって、視線を俺に突き刺してきた。


「僕が倒したんだ。僕もキミの力になれるよ」

『あぁ、すごいぞクロエ。……だが、まだ問題がある。だいぶ端折って言うが、あの怪物が今持てる力全てを吐き出そうとしてるんだ』

「え? でも僕が凍らせたから……」


 その時、ゴゴゴゴッという轟音が響き始め、氷に亀裂が入り始める。とうとう氷が崩壊し、低い声で唸りながら天に向かって口を開け始めた。

 圧倒的で、全てが混ざり合ったかのような混沌した禍々しい霊力がそこからは感じられる。


「おい零太郎、あのバケモノを止められるのか?」

『……いや、無理だぜ彗一。あれは流石に無理だ……』

「ん……旧館3階トイレに連れ込めばいけるかもだけど、わたしもあれは流石に封印できない」


 あれは……もうどうしようもないか……?

 そんなことを思った時であった。


 ――チリーン


 真横で、涼しげな風鈴の音が聞こえた。


「全く、久々に会うたいうのに腑抜けた姿じゃな。


 音のした方に顔を向けると、そこには誰かが立っていた。

 左右に風鈴をつけた笠を頭に乗せ、青と金の刺繍が入った黒と白をベースとした着物を着て、下駄を履いていた。笠の下を覗くと、両頬に御札を付けており、目元も御札でぐるぐる巻きにしてある。

 異質だが、どこか懐かしいような雰囲気を感じた。


「えっと……どちら様で」

「我のことはまぁ忘れておるか。今我は、ここの七不思議がしち番目――〝  くうそう〟を名乗っている」


 ニヤリと口角をあげてそう言い放った。


「まぁだが時間がない。とりあえず彼奴を倒すぞ零。細かいことは置いておいて……これに入れ!!」

『うわぁああ!!!』


 7番目とやらの手のひらに突然現れた。それに俺は、ぶち込まれた。言い換えれば、憑依した。

 何の変哲も無い電子レンジは俺が入ったことにより、横に鉄のうずまき菅のような物と、メーターが付いた上に、少しゴツくなっていた。


「零、貴様は今までに物に憑依したことあるか?」

『霊……俺? あ、あぁ。バイクと外套くらいかな……』

「では、その要領で電子レンジを改造できているはずだ。

『えぇ……』


 もっとカッコいい倒し方があったんじゃないか? 決着は電子レンジで決めるのか……。


「アッハッハッッハ!! もう後30秒くらいしかない!! お前らはもうおしま――」

「黙れゴミ」

「ウゴォッ……」


 大太に漆番目の肘がクリーンヒット。10点。


「ほれ、貴様にほんの少しだけ霊力を分けてやらんこともない」

『ヴッ!?!?』


 流し込められた霊力は『ほんのちょっと』と言っていたのに、とんでもない量を入れてきやがった。

 メーターにあり左下を向いていた矢印は右上辺りをさすほどに入れてきて、電子レンジの扉が開きそうになる。


『ヤ、ヤバイ……溢れる。助けて琴音……!』

「え、えっとぉちょっと待ってて! 確かここに〜あった! 〝ふう〟!!」

「ん、じゃあわたし、一応やっとくね」


 琴音に電子レンジの扉部分に御札を貼ってもらい、封美ふみにも霊術をかけてもらった。

 これで力が溢れ出ることはないだろう。


「さて、あとは貴様らでなんとかしておけ。我は忙しい。精々頑張れ」


 そう言い残して、漆番目は一瞬で姿を消した。

 まあ俺たちの手助けをしてくれたから、敵ではないんだよな。もし敵だったら勝てる気がしないから、好都合だ。


『ガァ……ア゛ァアア゛ァ……!!!』

「ねぇあれヤバみじゃない!? ナバナバ急いで行かないと!!」


 二重箱ふたえばこさんの声の通り、獣の口の中がさっきよりも禍々しいものになってきている。


「ん、全員お兄さんに霊力渡して。後は上に持ってく人……」

「僕に任せてくれ! 上空まで運ぶから!!」


 全員が俺に霊力を流し込むと、メーターは限界点までいく。クロエは電子レンジをガシッと掴み、背中に翼を現して羽ばたかせて空を駆ける。


『だいぶ使いこなせてるな!』

「ふふ、まぁね。さぁレータロー、後は任せるよ」

『オーケーだ』


 上から獣の口の中をのぞいている状態だが、イカれてるくらいに多い色がそこには広がっていた。

 後は……琴音と封美がトリガーを引いてくれ。


「……ん、聞いたことあるんだけど、全部放出する時はまず〝栓〟が飛んでくるらしい」

「え、じゃあそれを私たちでなんとか……あ、いや、大丈夫だったねぇ……」


 地上の封美の言葉に対して、琴音はスマホを確認したあとそう言う。封美の言った通りに、ビームではなく球状の物がまず口から放たれた。

 琴音と封美は、背中を合わせて零太郎に向けて人差し指と中指を立てて準備をする。


『だ、誰か氏ーー!!? お助け〜〜ッ!?!?』


 その球は零太郎に突撃……することなかった。眼前まできた混沌色の球体は、によって打ち消された。


「射程距離内。私はそっちにはいけないが、これくらいは手助けをしないとな」


 ――この場から遥か遠くにいる人物からの土産物。そう、美紅からのものだった。

 美紅は全身を包めるほどの巨大な銃もとい、電磁砲レールガンを放っていたのだ。


「ナイスだねぇ美紅」

「ん。じゃあやるよ」

『ガァアアアアアアアーーッッ!!!!』


 獣がついにビームを放つ。琴音と封美は口を揃え、たった一言唱える。


「「〝かい〟」」


 俺に貼られてあった御札は姿を消し、電子レンジから『ピーッピーッ』と音がなると同時に隙間から蒼い光が溢れ出た。


『助かったぜ美紅……。俺も気張っていきますか。暴食なんだろ!? た〜んと味わって食えよ! ――〝電子レンジ砲マイクロウェーブガン〟!!!』


 本命のビームが獣の口から放たれる。

 俺の方も電子レンジの扉は勢いよく開き、中から蒼の光線が放出された。

 丁度真ん中あたりでビームが衝突して、押し合いが始まる。


『ぐ……ぬぬぬ……!!!』


 メーターはみるみる下がって行くが、俺のヒームの方が押されている。


『ワン公……テメェは犬らしく……! おすわりからの伏せしときやがれぇえええ!!!!』


 メーターの矢印が一気にゼロに向かって動くと同時に、蒼の光線は獣のを押し返し、グラウンド全体を蒼炎で埋め尽くした。


『ガ……ァ……』


 獣はその場で力なく倒れこんでいた。

 俺の……いや、俺たちの勝利だ。


『…………あー、もうむり……』


 俺は白髪で子供状態で電子レンジから放り出される。電子レンジは、サラサラと粉になって消え失せた。

 地面に向かって自由落下するが、俺は誰かに受け止められる感覚がした。


「お疲れ、零太郎っ!」

『ことね……。あぁ……おれはつかれたぜ……』

「うん。寝てていいよ、お休み」


 琴音の至高の笑顔を見ながら、俺は眠りに落ちた。

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