第47話 [強欲者vs憑霊師&封印師-乙]

 俺は中にいる琴音にヒソヒソと話しかけ、いつもの作戦を実行してみることにした。


「琴音、俺が外に出て斬る。囮にして悪いが、頼む」


 俺は手に蒼炎を纏わせ、一気に放出してあたり一面を炎の海にする。

 この程度では倒せないことはわかっている。だからこそ、あの美紅をも欺いた戦法を再びする。


「じわじわとだが、ダメージがあるな。お前のその術も、ワタシがもらおう!」


 炎の中から、フードをかぶって銀色の髪が揺らぐ人物が現れ、何枚も連ねた刀のような御札を振るおうとする。

 だが、大太ひろたその横には俺が、刀を振り上げていた。


空刀技うつろとうぎ……彩雲――」

「気づかないとでも思っていたのか?」

「ッ!!」


 スカッと俺の刀技は空ぶる。校舎内の床を斬撃が切り裂くだけとなってしまうが、俺はまだ手があった。

 創造していた果物ナイフを二、三本投げた。


「〝ワタシの物とする〟。……ふん、小賢しいな。〝もういらない〟」


 手で触れて所有化するが、すぐに捨てた。

 やはり、こいつの能力は、


「喰らえ、弐番目の力をォオオオ!!!」

「ぐッ!!?」


 拳を振るうが、それは一気に肥大化してあのバケモノの前脚と変化する。俺は、その拳を食らってしまった。


「零太郎!!」

『お兄さん……!』


 バキッと嫌な音が鳴ると同時に、俺は後方に吹き飛ばされる。教室の壁を何枚も破り、校舎外まで吹き飛ばされる。


「クソッタレェ……! 危ねぇな……まだ実体か」


 封美ふみには、俺がミスった時のために琴音についておいてくれと頼んでおいた。だからあっちはギリギリ大丈夫だろう。

 宙に放り出された俺は、グラップルガンを創造して校舎に向かって撃つ。ワイヤーの力を使い、校舎に戻った。


 パリンと窓ガラスを割って入ったこの場所は、生物室だった。


「確証は無い……だからこそ確かめる必要がある!」


 近くにあった魚の置物を二つほど手に取り、急いで戻る。


「よくも零太郎をぉ〜!!」

「へぇ。動けるのはあの男だけかと思ったが、お前も動けるのか。中々顔が良い……ワタシの女にしてやろう」

「私の嫌いな要素しかない人なんだよねぇお前って! そんなのになるんなら舌切って死んでやるぜ!!」


 封美のサポートもあり、傷ひとつ付いていないようだった。


「琴音! 投げっから避けろォォ!!!」

「っ! りょ〜かいっ!!」


 魚の置物を一つ投げると同時に、創り出したをぶん投げる。

 魚の置物は粉砕されるが、モリは手に取って所有化したらしい。


「お返しだ!!!」


 逞しい腕でモリを握り、それを俺の方に返してくる。目で終えないくらい豪速で投げられるが、俺には刺さらず、手に持っていた魚の置物に刺さる。


「!? 手元が狂ったか……」

(オーケー了解! 完全に見えたぜ……勝ち筋がッ!!)


 ニヤッと、自然と口角が上がる。

 完全にとまではいかないが、大方把握ができた。出来上がったのだ――勝利の方程式が!


「ふんッ!!」


 もう一度炎を全開し、炎の壁を作り出す。


「封美、自分自身を封印して隠れられることはできるか」

『ん、できる。なんで?」

「……俺がアイツを引き寄せて銃で撃ち込む。4階で隠れて待機をしててくれ」

「……? ッ、承知ぃ〜!」

『……! なるほどね』


 さっきと同じように、ヒソヒソと琴音に話しかける。だが、俺はを渡しておいた。


「んじゃ行くぞ!!」


 俺と琴音は踵を返し、二手に分かれて走り出す。俺の作戦がまず成功するのならば、必ず俺から潰しにかかってくるだろう。


「ほら見ろ」


 階段を登った琴音は追わず、俺の方に一直線に追ってくる。


「お前はあの三人の中で指揮官のような役割だろ! お前を潰せば、残りは簡単だ!!」

「そう簡単にやられるかよ!」

「ふっ、それはどうかな。喰らい尽くせ!!!」


 腕が更に肥大化し、廊下を埋め尽くすほどの大きさとなる。そして、手のひらに大きな口があり、俺を食らいつく方と向かってきていた。

 俺は窓を突き破り、縁を掴んで3階へと移動した。


「よし、じゃあ――」

「甘い」


 ガブッと、俺の足が食べられた。

 床を見ると、そこが口になっていたのだ。


「ヴッ! クソっ!!」

「考えが甘い、甘すぎる。くくく、計画が台無しかァ? ぷ、くくっ! あぁ、笑いがこみ上げてくる!!!」


 上の階に上がってきた大太は、堪え切れない笑いをしながら近づいてきていた。だが、ある程度の距離を取って立ち止まる。近くには消化器があった。


「お前の計画は全て把握済みなんだよ!」

「……へー、そいつぁ驚いた」


 俺は片手を不自然無いように後ろに動かし、銃を創造し始める。


「じゃあ、具体的に俺がどんな計画をしているのかを教えて欲しいもんだぜ。まぁ、お前みたいなやつは精々バカみたいな考えしかないだろうけどよ」

「ふっ、負け犬がほざいている。汚く、見窄らしい。綺麗なのは瞳だけ、と言ったところから」


 銃の創造が完了した。


「全て分かっているといっているんだよ!!!」

「ッ!!!」


 俺の背後には悪霊がいて、銃を掴んでいた。握力が消え失せ、銃は奪い取られてしまう。

 悪霊は地面に戻っていき、大太の元に行って銃を渡す。


「それも〝ワタシのものだッ〟!! くく、くはははははは!!! 本当に本当に間抜けな男だーーッ!!!!」

「っ……」


 俺は、堪えるために下唇を噛む。


「あぁあぁ、実に哀れな男だ! 笑いしかない!!!」

「っ、解除! か、解除できない……」


 俺の作り上げた銃は、蒼炎に戻ることはない。


「時間経過で解除はできなくなる、と。くくく、悔しがる暇があったら解除しておけばよかったのになァ!! じゃあさらばだ!! アーーッハッハッハッハァァァ!!!!」


 男は、引き金を引こうとしている。

 だが、俺ももう堪える必要はないようだな。


「にひひ……。どっちが本当の間抜けか――今わかるぜ」

「はァ?」


 カチャリ。

 銃口は――


「!!?!?」


 ――ッドォォオオオン!!!


「はぁ、はぁあああ!?!? な、んでなんで!!?」


 間一髪で放たれた銃を避けるが、ガクガクと震えている様子だった。


「今だ琴音!! 封美!!!!」

「了解〜!!」

『ん、任せて」


 二人は上の階から……ではなく、


「な、なぜお前らがここにぃ!!?」

「〝かい縛式ばくしき〟!!」

「ん、おまえビビってた。〝塞國ひさぐに〟」


 琴音が御札で体を縛りつけ、元の姿に戻っている封美が体に触れ、霊術を発動させていた。


「う、グゥ!! わ、ワタシのもの! ……は、発動しないぃぃ!!!!」

「〝実に哀れな男〟だな、テメェ」

「あぁあああああああああ!!!!」


 大太を見下し、ニヤニヤと笑いながらそう言い放ってやった。

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