第46話 [強欲者vs憑霊師&封印師-甲]

 黒幕の男……もとい大太ひろたはこちらに手のひらを見せつけて、なんらかの術を発動させる。


「行けお前ら!!」

『ヴアァアァ……!』

『キキキキッキクキキ!』


 地面から現れたのは、自我も足もない二体の悪霊だった。


 七不思議の一人を降霊させた人物ということで、油断ができない相手だ。なので俺と琴音はアイコンタクトをし、憑霊する。

 憑霊状態となり、刀を創造して蒼炎を纏う。


「おぉ! 青い炎の耳に尻尾!? 面白い奴らだな! お前らを殺して、ワタシの物にするのもアリだ!!」

「テメェの物なんかになるかよ!」


 琴音の体を動かし、悪霊の一人をいとも容易く斬り裂き消滅させる。


「はぁ……めんど。〝影牢かげろう〟」

『グヴァアアァァ……』


 封美ふみは、もう一人の悪霊に人差し指をつけて一言放つと、シュルシュルと縮んでいって真っ暗の球体と変化した。


「わたしは封印の霊術――〝冥封めいふう〟ってのが使える。……でも、わたしの身体フィジカルはクソザコ。だから、あの時のお兄さんみたいにサポートする」

「……! お前、どっから見てやがった?」

「わたしは割と自由に動ける、珍しい七不思議』

「……動くのめんどくて、サボりたいわけではないよな?」

『…………のーこめ』


 ピョンと琴音の背中に抱きついたかと思ったら、赤いパーカーの姿に変わった。そう、あの美紅と一緒に戦った時、外套に俺が取り憑いたかのようにだ。

 俺は袖に手を通さずチャックも閉じず、フードだけを被った。


「フンッ、ワタシへの見せつけか。いいだろう……全員殺して、ワタシの物とするからな!!!」

「殺す殺すってなぁ……。そんなのが口癖なのは、殺される覚悟がない奴だ!!」


 俺が蒼炎を解除した刀を振り下ろして腕を斬り落とそうとすると、人差し指刀の振り下ろされる先に置いた。

 何を血迷ったことをしているのかと思ったが構わず振り下ろす。だが、俺の刀は


「はぁッ!!?」

「これはもう、。〝刀〟は他者を斬る物……。自分の指を斬るような物ではない!」


 刀を摘まれて引っ張られる。こんな弱い力じゃあ取られるはずがないのに、俺の手は自然と離していた。

 俺が距離を取ると、基礎を徹底したかのような素振りをし始めている。


「確かにワタシは殺される覚悟がない。そんな覚悟、必要ないからだ! 命もなにもかも、全てワタシの物だァア!!!」


 先程まではただの一般人のような気だったのに、急に刀を学んできたかのような動きで距離を詰めて刀を振り下ろしてくる。

 もう一太刀創造するにも時間がない。動こうにも何処かしら怪我をしてしまうかもしれない。だが、今は二人ではない。


「封美!」

『もぉ……人使い荒い』

「何……!?」


 腕を通していないパーカーの袖が俺の前でクロスを組み、刀を受け止める。

 刀は重さが一瞬のうちに増えたかのように、地面にボトッと落ちた。


『刀を封印した。わたしが解除しない限り、それは地面から動かない』

「ふん、〝刀はもういらない〟。クックック……やはり、ますます欲しいぞ伍番目!!」

『わたし、人のことを数字で呼ぶ人とかほんとに無理なんだよね』

「オラァッ!!」


 興奮している大太に回し蹴りを喰らわせ、を取らせる。


『〝かい〟。お兄さん、刀』

「あぁ了解だ。助かったぜ封美」


 落とされた刀を拾い上げる。

 ……にしてもあの男の動き、不自然なほどに変化があったな。あいつの過剰なまでの欲……。なんとなくわかったかな。


『ん。あいつ、中々ってか結構強い。霊氣術もよくわかんない』

「いや、大方予想はついた。あいつは多分……〝自分の物にしたのを、最大限発揮できる〟みたいな感じだと俺は予想する」


 さっきは人間相手だったから蒼炎を無意識に解除していたが、次はちゃんと纏うことにしよう。


『んー……。そんな感じな気がするけど、まだわかんないから油断しちゃだめ』

「わかってるよ」


 パッパッと服についた汚れをはたき落とし、俺たちを睨んでくる。


「お前ら……そろそろ本気でいかせてもらうぞ! 行けお前ら!! 喰らい尽くせ!!!」


 床から黒い靄を纏った犬の悪霊が複数体現れ、吠えながら俺たちに向かってきている。足はないからだろうか、スピードが速い。

 俺は足に力を込め、刀を強く握る。犬たちが俺の頭上に来た瞬間に、刀を抜刀して半円の弧を描く。


空刀技うつろとうぎ――〝黎明れいめい〟!!」


 犬たちはサラサラと灰になって崩れ落ちるが、俺は灰がかかる前に大太の方へ飛び出す。

 大太は地面から剣を取り出していて、俺が刀を振るうと容易くそれでキャッチしてきた。


「いいぜ、受けて立つぜ!」

「ほざけ、お前じゃ相手にならない!」


 校舎内では金属と金属が打ち合う音が響き渡る。

 刀技を使わなければ、大太の剣術も俺の刀術についてこれている。ダーツの矢を投げられたりもするが、封美がガードをしてくれる。


 俺はあえて蒼炎を解除して隙を作ると、思った通りに刀に触れられてまた所有権があっちに移る。


「もらったぞ!」

「あぁいいぜ! じゃあ燃えちまいな!!」


 パチンッと指を鳴らすと、刀は蒼炎に変わる。俺は再び炎で刀を創造し、今度こそ仕留めようとした。


「ワタシが、どいつを物にしたかわかっていないのか?」

「……! 俺の炎が」


 手のひらにどんどん俺の炎が吸い込まれていく。……いや、違う。よくよく手のひらを見たら尖った牙のある口が、炎を食べていた。

 これがあの、ナントカノカミってやつの能力? だが俺の炎は霊術とかを無効化させるものじゃ……。


「さて……お前は何秒間耐えられるかなァ!!」


 腕がドクドクと大きく鼓動したかと思うと、あの外にいる化け物のような腕に変化する。黒い体毛で覆われ、地面を容易く抉りそうなものだ。


「封美、あの腕は封印できないか?」

『あれは流石に無理……! 人の動きとか霊氣術とかを封印するには、心か体を弱らせないといけない……!』

「まっずいな!!」


 汗を垂らし、刀を構える。

 俺の炎は食われ、刀は通らず。武器を作ればそれが奪われ、利用される。


 どうする……どうやって勝つ……!!!

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