第45話 [強欲なる者]

「オカルト研究部はこの旧校舎の四階の教室でするらしい。急ご、たぶんもう直ぐ降霊したのが暴れ出す」


 四人で階段を登り、こっくりさんをしているであろう教室の前で息を殺しながらその瞬間を今か今かと待っていた。

 だが、突然俺のスマホが鳴ってしまう。


「ちょ、零太郎!」

「ご、ごめん! こんな時に誰だ……ん? 彗一? どうし――」

『おい零太郎! お前まだ学校にいるか!!?』


 電話に出るや否や、慌てた様子の彗一の声が響いた。


「あ、ああ。でも今は旧校舎だ」

『早く本校舎に戻れ!! 化け物がいきなり出てきやがったんだ!! すぐだぞ!!』

「は……? 化け物が本校舎に……?」


 プツッと切られた電話。

 俺がポツリと呟いた言葉を零さず聞いていた琴音は、中に人がいるだろう教室をガラッと勢いよく開けた。


「なん、だこれ……」


 空き教室のはずだったそこは、一番下の階まで突き抜けになっていた。老朽化でも、こんなことは起きないだろう。


「まるで巨大な何かが落ちたみたいな感じだねぇ……」

「ハナコちゃん、これの正体が何かわかるのかい?」


 クロエの質問に対し、封美ふみは汗を一滴垂らして指を口につけて考えている様子だった。

 ただ事ではないことは確かだった。


「……この教室の霊力がすっかりなくなってる。しかも歯型のような痕……。神里高等学校の七不思議が弐番目を呼びだした……」

「弐番目!? 確かそれって……〝開かずの地下倉庫に巣食う魔物〟だったよねぇ?」

「ん……銀髪のお姉さんの言う通り。けど、その正体は穢れてしまった神獣が封印されたもの」


 動かない表情筋は相変わらずだが、目がとても焦っている様子でいた。


「〝山喰禍津日神ヤマバミマガツヒノカミ〟。人も霊も、山も海も、神でさえ……その口で悉くを喰らい尽くすと言われてる暴食の化け物……。チッ、一気にクソゲーになった……!」


 どんどんと顔が暗くなっていく封美。


「マガツヒノカミ……。ヤバイことは確かなんだろうが、まぁ安心したらいいぜ封美」

「そうそう、私たちを止めれる奴なんていないんだよねぇ!」

「化け物は元化け物の僕に任せてよ。戦いとかしたことないけど、僕とレータローの大切なランデヴーで暴れられるのは困るんだ」


 封美以外の全員もれなく、今置かれた状況に対して絶望の色を一切見せることなかった。逆に、希望で満ち溢れた顔をしていて、封美は目を丸くして驚いていた。


「……全員正気? 舐めてたらやられるよ」

「俺たちの流れに乗れ、封美。同じ七不思議のお前がいれば百人力だぜ!」

「……呆れた、ここまでアホなんて。……ま、そんな人に頼んだわたしもアホか。お兄さん、死んだら殺すから」

「了解だ。そんじゃ急いで戻るぞ!」


 旧校舎を飛び出し、俺たちは本校舎へと急いで戻った。



###



 壊れた校舎に響く悲鳴。

 何処と無くつい最近の出来事と重ね合わせてしまうところがあった。


「……クロエ、大丈夫か」

「うん、大丈夫。今はキミがいてくれるから」

「そ、そうか……」


 ニコッと眩しい笑顔をしながらそんなことを言われ、顔が赤くなる。


『ガルルルルッ!!!』

「! あれがそのヤマナントカノカミか。悍ましい見た目だな」


 ドラゴン状態のクロエと同じくらいの大きさの狼だった。

 真っ黒な体毛に所々赤い毛が混じっていいていて、四肢には御札が巻きつき、顔の右半分は狼の頭蓋骨を被っている。そして何より、背中に突き刺さる鳥居に目がいってしまう。


「ウィンターズさん。あなたとこの学校にいる除霊師で弐番目は頼んでいい? わたしたちは黒幕を討つ」

「はぁ!? ま、待てよ封美、クロエはまだ幽霊が最近見えるようになったんだぜ? 流石に無理させるわけには……」

「大丈夫だよ、レータロー。僕はいち早くキミの力になりたいと思ってる。信じてくれ」


 つい最近までのか弱いクロエの姿は一ミリも感じられず、覚悟が決まった顔をしていた。

 そんなことを言われたら、信じない方が失礼じゃないか。


「……わかった。無茶だけは絶対にするなよ」

「ああ、任せてくれよ。終わったら……ねっ?」

「っ! あ、あぁ……約束、だもんな。気をつけろよ」


 少し腕を広げてニコッと笑っていた。まぁハグしてくれということだろう。このままエスカレートしてハグ魔にならないことを祈ろう。


「むぅ〜……。零太郎、行くよっ!!」

「ん、お兄さん行くよ」

「わ、引っ張るなよ」


 グイグイと琴音と封美に引っ張られ、俺は校舎内へと足を運んだ。

 除霊師以外の一般生徒は体育館に避難しているらしい。なので、そこら中で徘徊している人型の黒い靄は、悪霊ということだ。


「件の黒幕は、その弐番目とやら以外にも呼び出したのか?」

「う〜ん、どうだろうねぇ。クロエさんみたいに人を操る系の術なのかも」

「……二人とも、あれ」


 悪霊を祓いながは進むと、窓の外を見る一人の生徒がいた。今までの自我のない悪霊とは打って変わり、ニヤニヤとして人間味があった。

 こいつが黒幕かと思い、ゆっくりと近づく。


「ん? なんだお前ら」

「……単刀直入に言うがよ、テメェが黒幕だろ」


 ビシッと指をさしながらそう言い放つ。


「クックック! まあわかるよなァ。そうだ、ワタシがあの弐番目を手にした者だ!! この皮は、もういらない」


 ベリベリッと自分の皮をスパイのようにめくり、本来の顔が露わになる。

 髪は金髪で茶色の瞳をしていた。服装も一瞬で変わり、高級感のある金色の刺繍が入った白ベースの服装となった。


「……ちょっと待て。そこのフードを被った女、まさか伍番目か!? !! ワタシの物となれ!!!!」

「はぁ? や。しかも、わたしはお兄さんの物」


 ギュッと俺の腕に抱きついて、半目だった目をさらに絞って不快な視線を男に向けた。

 男は一瞬で眉をひそめ、歯軋りをして俺に殺意を込めた視線を送り始める。


「チッ!! 貴様のようなよくわからない者に伍番目を取られるなんて……!! まあいい。欲しい物が他者の物なら、奪えばいい!!!」

「琴音、こいつ……」

「うん、ジャ○アン思考型人間だねぇ」

「こいつ、わたしキライ」


 他人の物を奪い取ろうとするジャ○アン思考でナルシスト気味、派手派手な衣装。俺は出会って間もないが、こいつが封美と同じく嫌いだ。


「このワタシ――大太ひろた世宮よくうが奪ってやる! 〝強欲〟のままに……!!」


 気配が一気に変わった感覚がしたので、気を引き締める。


 ――戦闘開始だ。

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