第44話 [解かれた封印]

 学校の七不思議の花子さんからの提案、それは自分の全てを託す契約をしようというものだった。


「俺より適任がいる気がするが……」

「ん、だいじょぶ。お兄さんがいいの。誰でもいいってわけじゃないし」

「それにわざわざ契約までしなくても問題解決できるんじゃ……」

「多分だけど、降霊術をする教室にはお兄さんでも手こずる結界が張られる。あの時あーすればよかった、こーすればよかった。……お兄さんが一番わかってるんじゃない」

「…………」


 ぐうの音が出ない。実際に、何万回何億回とそんなことを思ってきたからだ。


「全てを賭ける契約って言ってもそれをするのはわたしだけ。お兄さんは別に全部賭けなくていい」

「それはあまりにもフェアじゃなあからできないんじゃないかなぁ?」


 俺のよくな足すら生えない底辺幽霊が学校の七不思議ともあろう者とそんな不平等な契約を結べるのかという疑問がもちろん生まれる。

 琴音の頭にも俺と同じ疑問が生まれていたみたいで、そう口を挟んでいた。


「それじゃ、銀髪のお姉さんは自分の相棒のことをあまりすごくない幽霊って思ってるんだ」

「はぁ〜〜? そんなこと思ってるわけないじゃんか! 零太郎はすごい霊術持ってるし頭いいし家事全部できるすごい私の最高の相棒だ!! いいぜ乗ってやるさ、零太郎と契約してみろ〜〜っっ!!!」

「琴音……ッ! そんなに俺を思ってくれていたのかッ!!」


 嬉しくて涙が出てくるぜ。

 なんか上手いこと琴音が買収されたような気がするが、嬉しかったからオッケーしてしまった。


「いいんだ。じゃあ……んっ!!」

「モガーーッ!?!? んぐっ……」


 突然口に何かを突っ込まれ、俺は反射でその何かを飲み込んでしまう。まあまあ大きいサイズだった気がするが、喉に入る瞬間に取り込まれるような感覚があった。。


「れ、レータローに一体何を飲ませたんだい……?」

「今お兄さんに飲んでもらったのは、わたしの魂核。拒絶反応は無いみたいだし、うまく体に適合した?」

「えぇえええ!? 魂核ってあの魂核!!? でもそれって消滅した時に出るんじゃ……」

「魂核を賭けた契約をする時は、自分で取り出すことができたりするんだよねぇ……。でもまさか、私もそんなことをするとは思っていなかったよ」


 琴音は驚きもあったが若干引き気味にそう言っている。クロエは何が何だか全く分かっていない様子で黙って聞いていた。

 というか、魂核を取り込んでからというもの、お腹の底から力が湧き出るような感覚がしている。成功なのだろうか。


「……ん、本来の力は全然出せないけど、外でも使える。成功だよ、お兄さん。本名の封美ふみでいい、よろしくね」

「あ、あぁ……よろしく封美」


 花子さんもとい封美は、石化でもしてるんじゃないかと思うほど動かない表情筋をしながら手を差し伸べ、俺と握手を交わした。

 封美という名前があるってことは、は最初から幽霊とかじゃなくて、人間から花子さんになったのだろうか。


 まあそんな疑問は後回しにしよう。今は目の前の問題に向き合う時だ。


「まあ念には念をってことだよね? 僕たちが止める相手がものすごく強いかもしれないし。……まぁ、僕も力があるからね、キミを守るよ」

「はー。ありがとうございます……」


 壁ドンとやらをクロエにされた。

 こいつは一体何なんだ? 俺を落としたいのだろうか? よくわからないやつだ。


「むむむむむむっ! 二人とも私の相棒から離れろ〜〜っ!!」


 琴音が二人をしっしと追い払い、俺にぎゅっと抱きついてきた。

 こんなことをしていていいのだろうか?


(……そういえば、とか聞いた気がするけど……。まさか、ね)


 封美は、少し険しそうな表情で何かを考えている様子だった。



###



 ――とある教室の一角。

 和紙と蝋燭を置いた机を囲む生徒四人。そしてその和紙には、50音、0〜9の数字、鳥居が描かれていた。


「部長、真っ暗にして蝋燭をつけるのは別にいらないんじゃ」

「バッカヤロウ! 雰囲気だよ雰囲気」

「ドキドキするね〜」

「…………」


 一人が小銭を取り出し、和紙の上に置く。皆はその小銭に人差し指を乗せ、早速始めようとしていた。


「ってあれ? これよく見たら5円玉じゃね? 普通10円だよな」

「……いや、待てお前ら。みんな片手だけだよな……」

「何言ってるの〜? 当たり前……って、キャアアアアア!!!」


 指は四つではなく、


「これで……このワタシの計画が遂行できる」


 ずっと黙っていた生徒の一人がニヤリと不敵に笑ってみせ、スイスイと5円玉を動かし始めていた。


「な、何してんだよお前!!」

「ゆ、指が離れない……!」

「や、やめてよ〜〜っっ!!」

『『『ゲラゲラゲラゲラ』』』

『モウ遅イ』

『手遅レ』


 四人はただ畏怖して悲鳴をあげるだけ。間にいる真っ黒で笑みだけくっきり見える人型の黒いモノは、そう煽るのみ。

 一人の生徒の広角はもっと上がって行く。


「〝いでませいでませ。八つの魂より引き換えに顕現せよ〟!!」

『ガ……ア、ア゛、アァァアアアア……!!!』


 和紙の真上の天井には魔法陣のようなものが浮かび上がり、そこから真っ黒な体毛を持つ巨大なナニカがゆっくり出てきていた。


「七不思議が弐番目――

山喰禍津日神ヤマバミマガツヒノカミ〟!!!!」


 ――封印は今、解かれた。

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