第42話 [視線豪雨]

「ご飯♪ 零太郎のご・は・ん〜♪」

『あとちょっとでできるからなー』

「まま〜? お腹空いたから早く〜」

『はいはい、ちょっと待ってなさい! そしてママと呼ぶな』


 ウィンターズとの水族館デート(?)をした後、早すぎる退院をした琴音の家のキッチンで料理をしている。

 椅子に座っている琴音はまだかまだかと言わんばかりにお腹をギュルギュルと鳴らしていた。


『よし、完成』

「お皿は出してるよ! さぁさぁ食べよう!!」

『わかったって」


 幽霊状態で料理していた俺は実態に戻って、料理を机に運んで椅子に座る。二人でいただきますをしたら、大量に作った夜ご飯がみるみるなくなってゆく。

 もう慣れてきたので、驚きはしなかった。


「あ、そういえばだけどさ〜。零太郎たちが水族館行ってる時に先生から電話かかってきてたよ? 『零太郎くん出ないからこっちかけたー』って」

「え、先生が? なんかあったのか……」

「ん〜。『零太郎の遺品が回収できたから荷物送るけど、どこに送ればいい?』って言ってたよ。よかったら寮も手配するって〜」

「おぉ!」


 先生……! 正直組織のトップって言われているだけでどんな風にすごいのかよくわからなかったけど、ここまで気を使ってくれるのはトップの器だなー。

 死んでるとはいえ、高校生の男女が二人暮らしするのもアレだしな。


「ま、私が丁重にお断りして家に送ってもらうことにしたよ〜。あ〜むっ、おいひ〜♪」

「…………え?」


 俺は琴音の言った言葉がすぐには頭に辿り着かなかった。


「こ、断った!? なんで!!」

「え、だってさぁ、別々で暮らしてたら不便でしょ? 任務とかわざわざ集合とかしないとだしさ〜」

「うぐっ……まあそうだな……」

「それにだよっ! 私は君がいないともうダメなのだッ!!」

「……訂正が必要だな。『君かっこの料理かっこ閉じがないとダメ』だな?」


 まあでも確かに、中学生の頃いた元相棒は別々で暮らしてたし、仕事する時なかなか不便だったな。そう考えるとこの暮らしが一番効率的なのかなぁ。

 ……ってか、人ってこんな相棒を作るものじゃないよな? まあ元々狂った人生だったか。


「ん〜……半分当たってるけど半分は本当なのになぁ……」

「ん? 考え事してた。なんて?」

「零太郎のご飯美味しいなぁって」

「ほんと好きね……。嬉しいことこの上ないけど」


 これからもこの暮らしが続行か。役得だし、どうせ幽霊だから特に問題も起きないだろう。

 俺は一旦止めていた手を動かして、ご飯を口に運んだ。


「先生忙しいらしいからねぇ。組織のトップで各国と連絡取ったりしてるし、明日は二、三年生の除霊師連れて遠征行くって言ってたし」

「遠征とかあるのか? 除霊遠征?」

「そうそう、私たちもいずれやるよ〜。まぁ早まって一年生中にやるかもね〜。美紅も明日行くし」


 最高戦力の先生と二、三年生の除霊師が学校にいなくなるってことか。


(……まだウィンターズの件が終わったばかりだぞ。なんで――なんで嫌な予感がするんだ)


 嫌な予感があり、食事が喉を通りずらかった。



###



 ――翌日。

 学校に登校して自分の席に座り、琴音と談笑をしていると女子たちの話が耳に入ってきた。


「そういえばさー、さっきクロエ様見たのよ! なんかめちゃくちゃグレードアップされてた!」

「わっかるぅ〜! なんか前まではツンツンして冷たくてかっこよかったけど丸くなった?」

「穏やかになった感じ〜」

「王子度めちゃめちゃアップしたよね! も〜かっこよすぎてムリィ……!」


 一瞬、ドラゴンのツノやらがバレたのかと思ったが大丈夫だったらしい。うまくやっていけているみたいでよかった。

 ほっと一息つき、話に戻ろうとしたその時だった。


「――今僕のこと考えててくれたの? レータロー」

「ん゛ッ!!?」


 どこからか現れたウィンターズが、俺の目と鼻の先まで顔を近づけて顎をくいっとしてくる。


「お、おはようウィンターズ……。これは一体なんのつもりだ……?」

「な、何やってんだクロエさん〜〜っ!?」


 口角を上げていて、イケメンフェイスのレベルがそれだけで桁違いに上がっている気がする。

 これは女の子がコロッと堕ちても仕方がないと納得させられるような顔だった。


「クロエって呼んでほしいな。いいだろう? 僕たちの仲だ。僕の初めてを沢山キミにあげたからね」

「「「「「何ィッ!?!?」」」」」

「零太郎……???」

「うわぁーーっ! や、やめるんだクロエ!! Be quiet!!!」

「ふふふ、わかったよ」


 クラスメイトからは驚きの声が響き渡り、視線が大量に突き刺さる。

 琴音も、なんかドス黒いオーラが体から吹き出てる気がする。こんなところで新技を出さないでほしい。


「ほ、本当に何しに来たんだ……」

「え? いやぁ、僕とレータローはもうズブズブの関係っていうことを見せつけようかと思ってね。誰も手を出さないようにするためさ」

「やめてくれぇ……。誤解される……ってか、誤解を解いても質問責めされそう……」


 胃が痛い気がする……。

 俺はもしかしたら、とんでもない関係を結んでしまったのだろうか? まあ後悔したとしてももう遅いだろうな。


「それに、うかうかしてたら奪っちゃうよってことを……ねっ」

「むむむむぅ!!!」


 ニヤッとしながら琴音に顔を向けるクロエ。琴音は頰をぷっくーと膨らませていた。


「あ、そろそろ戻らないとね。それじゃあまた来るよ、レータロー」


 いきなり来ては教室内を騒然とさせ、一瞬で去っていくその姿は嵐同然だった。

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