第41話 [未知の蒼き世界]

 琴音の膝枕からやっと解放された俺は、ウィンターズがいる病室まで向かった。

 どうやらこの病院、霊やら亜人やら専用の病院らしく、普通にツノが生えた人や二足歩行の牛とかがいる。


「ここか?」


 病室に辿り着き、部屋をノックした後中から許可が出たので入る。そこには、ベッドの上で体を起こしているウィンターズと、メガネを少し上にずらしている黒髪黒目の美人な女性がいた。


「あぁ、来てくれて丁度良かったわ、青天目なばためくん」

「レータロー!!」


 嬉しそうで弾んだ声が聞こえたが、ウィンターズの頭からはツノ、背中からは翼、腰あたりからは尻尾が生えていた。


「な、え!!? それ大丈夫なのかウィンターズ!!」

「大丈夫らしいよ。よくわからないけど色々と安定してるみたいでね。それに……ほらっ!」

「おぉ! それなら外に出ても安心だな」


 ヒュンッとドラゴン要素のものが消えて無くなった。


 必死だったとはいえ、昨日キスをしてしまったんだよな……。

 自然と唇に視線がいってしまうが、ふるふると首を振って邪念をなくす。


「えーっと、青天目くんたち、そろそろ私が喋ってもいいかしら?」

「あ、はい、すみません」

「まぁまずは自己紹介ね。私は星乃ほしの守架もか。組織で秘書的な役割をしてる者よ」

「ん? 星乃ってもしかして先生の……」

「あぁ、繋太は私の夫よ」

「ほぇ〜〜!!」


 こんな美人な奥さんだったとは……。先生リア充羨ましっ。


「話を戻すわよ。まず……クロエちゃんをどうやって元の姿に戻したのかしら?」

「あー。なんか学校でフードかぶった女の子に渡されました」

「あ、あの子から!? そうなのね……あの子が気にいるなんて珍しい」


 すごく驚いた様子だったので、あの謎の少女のことをよく知っているのだろう。

 俺はそこを掘り下げるために質問をしてみた。


「その女の子ってなんなんですか? 人間じゃない気がしたんですけど」

「あの子は……いや、人から説明されるのが嫌いって言ってたし、自分で聞いてほしいわ」

「さいですか……」

「さて……そしてクロエちゃんについてだけれど、あなたが監視役に決定したわ」

「…………え?」


 謎少女にまた会えるのだろうかとかを考えている最中、星乃さんからそんなことをカミングアウトされる。

 俺は素っ頓狂な声で反応した。


「クロエ・ウィンターズの肉体に受肉をした魔物は非常に危険、霊術もとても強力、けれど対抗手段が少ない……ということで、霊術を無効化するあなたが適任ということよ」

「成る程……」

「ふふっ、よろしくねレータロー」


 まあウィンターズとは色々約束したし、監視役となったのは好都合か。


「私から伝えたいことはこれくらいかしら。青天目くんは何かあってここに来たんじゃないのかしら?」

「あ、そうだ! あのー……ウィンターズと一緒に水族館にでも行こうかと思ってたんですけど……」

「え!? 僕も行きたい!!」


 ウィンターズは今は落ち着いているが、数時間前まではとても危険な存在だった。彼女を連れ出すなんてしていいのだろうか。

 そんな疑問を抱きながら、恐る恐る水族館チケットを手に持って星乃さんに聞く。


「そう。まあ今日の夜あたりに色々と事情聴取するために着替えてたし丁度いいわね。行ってらっしゃい」

「……え、い、いいんですか?」

「え? いいに決まってるでしょ? 魔物とか色々なこと考えてたんだろうけど、あなたたちはまだ高校生よ。楽しむ時期ってやつ」

「あ、ありがとうございます!! レータロー行こう!!!」

「わ、おい引っ張るな!」


 ベッドから元気よく飛び降りて、俺の腕を引っ張るウィンターズ。


「あ、そうそう。私、メガネをどこかで落としちゃったみたいだから、見つけたら届けてほしいわ」

「「…………。ハイッ」」


 頭の上に乗っているものを一回見て、そう返事をした。



###



「……レータロー、あの人はドジなのかな」

「ドジ……なんだろう。いや、でも俺たちは頭の上にメガネがあったことなんて知らない。オーケー?」

「Sure(もちろん)!」


 場所を移動して、水族館前で順番待ちをしている。

 さっきの星乃さんの件は頭からなんとかなくす努力をしつつ、初めての水族館ということでソワソワしていた。


 入場口でチケットを渡して問題なく中に入れた。


「おー……。なんかもうドキドキするね」

「だな。俺は早くジンベイザメとリュウグウノツカイが見たい」

「僕も可愛いクラゲを見たいな」


 薄暗い道を歩き続けると、突然世界が青色に染まっていった。天井で魚が泳いでいる幻想的な空間だった。


「おぉ、うぉ〜〜っ!! み、見てみろウィンターズ! 魚が上にいるぞ!!?」

「み、見たことない魚ばかりだよ……! わ、可愛いが沢山いるよ!」

「お、お前ツノとから尻尾出てる!!」

「え? ハッ」


 興奮した様子でブンブンと尻尾を揺らしていたウィンターズを見て、目が飛び出そうなくらい驚いた。


「感情が高ぶると出たりすんのか?」

「かもしれない……。気をつけて行くことにするよ」

「そうだな。よ〜し! んじゃあどんどん行こうぜ!!」


 カラフルな魚、マンボウ、ピラルク、クラゲ、メンダコ……生で見たことない海の生き物たちを見回っている。

 小さい頃できなかったかのように、俺たちは子供のようにテンションを上げて水族館を見て回った。


「まさかリュウグウノツカイがいないとは思わなかったぜ……。ショック」

「水圧圧縮装置とかあると思ったんだけれどね……。まだ発展していないのか」

「ま、でっけぇ水槽にいるジンベイザメ見れたから良しとしてやるか」


 視界に収まらないくらい大きな水槽の中で、ジンベイザメやエイなどが泳いでいる。

 少しぼーっと見つめていると、ウィンターズが話しかけてきた。


「レータロー。昨日……言ってくれただろう? その、色々と……」

「え、あぁ、そうだな」

「最後にもう一回、確認させてほしいんだ。やっぱりまだ怖いから……。何度も言わせてすまないと思ってる……」


 ウィンターズはもじもじとしていて、水槽から差す青い光をも通り抜けるくらい顔を赤くしていた。


「……悪いが、もう言わないつもりだ」

「え……?」

「もういらないだろ。……ん」


 俺はウィンターズに向き合って、手を広げてみせた。


「これが答えだ」

「――!! ありがとうレータロー!!!」


 俺に抱きついてきて幸せそうな顔をしている。あの氷みたいに冷たいウィンターズはもういない。でも溶けきったわけでもない。


 だから、俺が全部溶かしてみせるさ。

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