第38話 [夢酔いから覚める刻]
あれ……僕は何をしていたんだっけ……?
確か……レータロー君を家に招き入れてから、それから……。
『クロエ? これから遊びに行くんでしょう? まだ小さいから風邪引きやすいでしょう?』
『手袋はしっかりしていくんだぞ。いってらっしゃい』
お母様とお父様……? 優しい……あれ、優しいのはいつものことだったっけ。相談とかいつも聞いてくれてたんだっけ……?
でも変だ。顔に黒い靄がかかっていてよく見えないや。まぁいっか。
「レータロー! 外に行こう!!」
僕は彼を連れ出し、近くの公園に向かった。まだ日本は慣れないけど、公園は楽しいから好きだ。
一面銀世界となった公園にあるジャングルジムに登り、幼いレータローを見下ろす。
雪が積もっている日にこんな遊びをするだなんて可笑しい……? いや、でもこうしなきゃって思った。
「今日は怪獣ごっこしないかな」
「おいおい嘘だろ……!」
「え?」
『あぁいいぜ! やろうやろう!』
なんか一瞬、レータローの声がはっきりと聞こえた気がしたけど……僕の勘違いかな。
「僕が怪獣役やるよ!」
『わかった! じゃあこの小さい雪玉を口に入れられたらダメってルールな!』
「ふふ、望むところだよ」
レータローは近くにあった木の枝を持って僕と戯れる。
――楽しい。
こんなの久々だなぁ。……あれ? でも、なんで? レータローとはいつも遊んでいたんじゃなかったっけ? あれ?
『おりゃあ!』
「うわぁ! やったねー?」
こちらに向かってジャンプをして、背中にペチッと棒を当てられた。近くにあった雪をかき集め、レータローめがけて投げようとしたその時だった。
「何をしている零太郎! 腑抜けな姿を見せてくれるな!」
あの帽子を被った赤い目の子が落ちかけていたレータローを受け止めていた。
あの子誰だったっけ? 友達……かな。そっか、一緒に遊んでくれる友達だった。
でも遊びにしては、さっきの言葉がひどく重く感じたのはなんでだろう。
「キミも一緒に遊ぼうよ」
赤い目の子とも一緒に遊び始める。
雪で作った人形を操ったりして二人と遊んだ。楽しいはずなのに、どこか満たされない。
『いくぞウィンターズ!』
「うわぁ! 冷たいよ……」
ジャングルジムから落とされている途中に口に雪が入る。ボフッと音を立てて雪に沈むが、内側からどんどんと冷たくなっていく感覚がした。
負けてばっかじゃいられないね。
「あれ? また人が増えてる……。けどいっか、僕は怒ったぞ〜!」
赤い目の子に代わって、今度は雪のように綺麗な髪と金色の目の子がやって来ていた。
「行くよ二人とも?」
雪をいっぱい投げたり、手にいっぱい持って上に投げて降らせたりもした。
二人ともずっと僕と遊んでくれる。こんなに楽しいのは初めてだ。ずっと、ずっと続けばいいのになぁ。
そんなことを思っていた時だ。
――ビチャッ
『――ッ!! 琴音!!!」
「……? え?」
真っ白で綺麗な雪の上に、真っ赤な液体が現れていた。金色の目の子を見ると、口から垂れていた。レータローもなぜか真っ青な顔で僕を見つめている。
僕は訳が分からなくなっていた。
「な、なんで……? 僕が? いや、違うだろ? だって僕は……僕は――」
あ、そっか。僕がやったんだ。
理解した途端、目の前にヒビが入って割れ、本当の景色が見えて来た。
背が元の高さに戻ったレータロー。血を吐いている銀髪の子。悉く破壊をし尽くした街。倒壊したマンション。
全部全部……僕がやったんだ。
ゴツゴツした鱗の手はみるみる縮むが、紫色の氷が自分の腕にまだついたままだった。
今更戻っても、もう遅いのに。
『ゴメン……二人とも。レータロー……」
『ウィンターズ……!!』
「さようなら」
『ウィンターズ! 待って――』
内側から、抑えきれないものが解き放たれた。
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一瞬、ウィンターズの自我が戻ったのを俺は確認した。人の姿にも戻っていた。だが、謝ると同時に比べ物にならないくらいの氷が放射状に広がり始める。
「二人とも避難をするぞ!!」
『美紅……』
俺と琴音は、駆けつけて来た美紅に連れられてウィンターズから一気に距離をとる。辿り着いた先には、複数の人と、黒髪黒目でショートボブの女性がいた。
「間に合ったみたいね。そのくらいのケガならすぐに治るから、取り敢えず後回しにさせてもらう。終わらせるわ」
酷く冷酷な目をしている女性だった。
そんな彼女が手をかざした途端、超巨大な半透明のドームが出現してウィンターズを閉じ込めていた。
『何をするんですか』
俺は単純な質問をする。
「あぁ、あなたがあの……。いえ、単純なことをするまでよ。救助すべき人たちは救った。だから封印する」
『は……?』
「あなたも幽霊なんだから離れていて。巻き込まれるわよ。時間がないの」
ギリッと歯を鳴らして、拳を強く握る。
俺が今までしてきたことは無駄だったのか? あとちょっとで、救えそうだったのに。
「零太郎。私は君と契約してるからねぇ、回復力も上がってる……。ところで、君は指しゃぶってみているような人間だったかい?」
ニヤッと笑いながら、琴音はそんなことを言ってくる。俺はハッとさせられた。
そうだな。本当にその通りだ。
『〝救助すべき人たちは救った〟だって? ふざけんな。一番……! 一番救わなきゃいけねぇ奴が! まだ残ってんだろうが!!!』
「なっ!?」
拳に炎を纏わせてドームの壁を破壊して、あいつのもとに向かった。
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