第37話 [負け戦]

 どんどんと体温が低下していき、地面は一瞬で氷が張っていた。流石に二人を炎でガードするには霊力が持たないな。


「零太郎、これは無理だねぇ……」

「あぁ、負けイベントだぜ」

「怪異度・壱級はあるのではないか?」


 諦め雰囲気ムードが漂う俺たち。美紅も寒さに当てられて頭を抑えていた。

 だが美紅よりも琴音の方が耐性があることが以外だったな。俺と契約? をしたからななか?


「美紅、お前は離れてすぐに救援を呼んでおいてくれ。氷の威力が強くなってるから遠距離からでも操られるかもしれないしな」


 今は俺が近くで炎を絶えず燃やしているから耐えれているものの、いざ戦闘となったら離れざるを得ないから危険だろう。


「だ、だが……二人を置いていくなど……」

「適材適所だぜ美紅ぅ〜。ここは私らに任せんしゃい! 最高のコンビで耐えてやるさ」

「……くっ、かたじけない!  直ぐに救助を呼ぶ!! 死んだり成仏したりしたら私も切腹してやるからな!!」

「おー怖い。絶対死ねないな」

「だねぇ」


 美紅を退避させ、俺と琴音はドラゴンを見上げる。


「このドラゴンの氷は人間を操るものかもしれない。ま、俺がいる限りは大丈夫だろうが気をつけてくれ」

「りょ〜かい。気をつけるのは死なないことだねぇ。空核は優先しなくていいからね。さぁ! 生死をかけたワルツを踊ろうじゃあないか!!」

「うっかり滑らないようにしねぇとなぁ!!』


 パシッとハイタッチをした手から琴音に入り、いつもの戦闘スタイルに変わる。美しい銀色の髪から吹き出る蒼炎に、頰にある蒼く光る獣のヒゲのような傷跡。

 周囲の氷を溶かしていくが、やはり先ほどよりも溶けにくくなっている。


「さぁて、死なない立ち回りをしないとな」


 このドラゴンを倒すという選択肢はもう無い。この場にとどめさせて置くため、翼や脚などはなるべく壊しておきたい。

 琴音の霊力は多い方らしいし、今日は何も霊力を使うことをしていないから充分溜まっている。


 幻蒼焔で氷を打ち消しつつ、再生する翼や脚を斬り刻む。……中々脳筋な作戦だが、これくらいしか作戦が立てられないな。


『ガァァア!!!!』

「ッ!! くっ……危ねぇ!!」


 ドラゴンが前脚を俺の方に叩きつけると、地面は抉れる。それだけでなく、その地割れした部分から氷柱が飛び出して貫こうとしてきた。

 叩きつけは後ろに飛んで避け、氷は炎を纏った刀でなんとか対処する。


『グォオオオオ!!!』

「あ!? なんだ!?」


 突如上を向いて咆哮をしたと思ったら、空から季節外れの雪が降り始めてきた。

 幻想的な光景に一瞬見とれてしまう。だが、俺の本能が告げた、『これは危険だ』と。


 慌てて息を止め、火力を上げる。

 雪は地面につくと爆ぜたかと思うと、毬栗いがぐりのような形状に変化していた。


(あっぶねぇ……。肺に取り込んでたらヤバかったな)


 美紅にしたように、俺の口元にも炎のマフラーを装備する。氷の猛撃を走りながら避け、隙を伺う。

 だが妙だ。ウィンターズ……お前はなんで、


「ゴホッ! あ゛ぁ畜生……雪を取り込む以前に肺が痛い……」


 周囲の冷気が寒すぎて肺が痛いし、手がかじかむし、頭痛もしてくる。いつもなら熱さでやられるが、熱くなれないほど寒すぎる。

 意識を保っているのもやっとのことなのだ。


『グアァァ……』

「おいおいおい!! それはヤバイだろうが!!!」

『ガアアアアアアアーーッ!!!!』


 大きく開けた口からは猛吹雪……ではなく、巨大な氷塊が放出されたのだ。足元もいつのまにか氷で固められている。

 斬ろうとしても琴音の体じゃ無理、か。温存しておいたのを使うか。


「空刀技……!!」


 琴音から出てきて、息を整える。そして足を思い切り地面に落とすと少し地面が割れる。ギリギリと刀を思い切り握る音が聞こえる。

 そして、振り上げた刀を思い切り振り下ろした。


「〝彩雲斬り〟!!!!」

『ガァッ!!!』


 氷塊はスパッと真っ二つに斬れ、俺たちの左右を通り過ぎてゆく。ドラゴンは何かを察知し、完全復活した翼で空に飛ぶ。

 俺が振るった刀の斬撃は、ドラゴンの背後にあった家を真っ二つにした。


『くそったれ……! せめて当たれよ……!!』

「零太――ゲホッゴホッ!! カハッ……」

『――ッ!! 琴音!!!」


 口から真っ赤な血を吐いてその場に倒れこむ。

 さっきまで息がつまるような戦闘をしていたんだ。大きく息を吸い込むのは必然なことだった。


「ぁあ……血の味がすりゅ……」

『すぐ琴音に憑依するから』

「ちょ、ちょっと待ってくれ。なんか、様子がおかしくないかな、あのドラゴン」

『え……?』


 絶望一色に染まる俺の顔で、空から降りてきたドラゴンを見る。

 ドラゴンは、みるみる小さくなっていたと同時に、その中心から俺よりも深い、深淵のような絶望の感情が伝わってきた。

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