第36話 [先に言ってくれ]

「おぉ〜〜い!! 私が来たぜ〜〜!」

「ん? あの声は……」


 聞き馴染みのある声が後ろから聞こえてきたので振り返ると、琴音が銀色の髪を揺らしながら走ってきていた。


「む、やっときたか。だがとうに私たちが終わらせたぞ」

「まあ遠くからでもドラゴンが墜落してるの見てわかったよ。今日は私の出番がなかつたねぇ……」

「あぁ、零太郎と共闘をしたからな!」

「危なっ、ツノが危ねぇぞ美紅」

「ふふ、すまない」


 腕を組んで元より大きいモノを強調しつつ俺にもたれかかり、ドヤ顔をする美紅。それに対して琴音は眉をひそめて俺たちを見ていた。


「んんっ? なぁんか……二人とも距離近くなってない?」

「ふっ、いかにも。私は琴音がいない間だけ代わりに相棒になるという、第二の相棒となる盟約を結んだのだ」

「は? ねぇ零太郎……何んだいそれ……」

「ひっ!!」


 琴音の目にあったハイライトが消えていて、元より低い気温がさらに下がったような感覚がした。

 冷や汗が止まらなくなり、目がバタフライをしている。


「あー、えっとー……俺の個人的な悩みとかー……でな、ちょっと、その、美紅に相談を」

!! 一番の相棒に相談しないのかい!?!?」

「いや、スミマセン。でも一番の相棒はお前だから! ……いや待て、不倫男みたいなこと言っちゃってる!?!?」

「はぁ……やれやれ。仕方のない相棒だねぇ」


 呆れ混じりの真っ白なため息を吐いた後、琴音は俺の方に歩いて来て、手を俺の顔に近づけてきた。


「っ!! …………ん?」


 何かされるかと思い目をぎゅっと瞑るが、なぜか頰に柔らかく温かいものに触れられていた。

 目をゆっくり開けると、俺の両頬に手を添えながら琴音は頰をプクゥーっと膨らませていた。


「零太郎、君が他の子と仲良くするのは君の自由だ。だけどね、私だって妬くからね!? あと私が一番の相棒だから!!」

「ごめんなさい。ふ」

「何笑ってんだ〜〜っ!?」

「うわぁごめんなさい!」


 怒られているんだろう。けど琴音には悪いが、可愛いのほうが勝っている。

 まあそのことは言葉に出して伝えず、心のうちに秘めておくことにしておいた。


「にしても、このドラゴンによく勝てたねぇ。相当強い西洋の魔物っぽいけど」

「魔物? 妖怪とか霊の類ではないのか?」

「うん。東洋の方では人が死んだりしたらそのままの形でよく現れるけど、西洋ではこう言ったドラゴンやスライム、ゴーレムとかいった人間以外の形で現れるんだ〜」

異世界ファンタジーみたいだな。ま、コレのおかげで俺らもドラゴンスレイヤーだぜ!」


 懐から余った透明の玉を取り出して感謝する。


「ん……? それもしかして〝空核くうかく〟!? どこで手に入れたんだそれ!!」


 琴音が血相を変えて俺にそう質問してきた。どこか焦っているような気がしたので、手短に説明をする。


「学校で謎の女子に渡されたんだ。すごいやつなのか?」

「すごいよ。それは空核と言ってねぇ、世界で確認された数はごく僅かでまだ未知が多いも代物。……ちょっとそれに霊力を流し込んでみて」

「ん? わかった。……お、おー?」

「蒼く染まっておるな」


 言われた通りに手でぎゅっと握りしめて霊力を流し込んで見ると、透明だった玉は宝石のような青色に染まった。


「それの特徴は飲ませると力を暴走させる魂核とは正反対で、力を鎮めさせる力がある。けれど、霊力を流し込んで使わないと……」

「「使わないと?」」

『グルルルル……!!!』


 俺と美紅は、背後から聞こえてきた何かの唸り声を耳に入れ、ゆっくりと後ろを振り向く。


「……魂核と同等か、それ以上に力を増幅させて暴走させる……!」

『グルァァアアアアアアアアア!!!!』

「またなんかやっちゃいましたか……」

「なんということだ……」


 先ほどよりも一回り、いや三回りくらい大きくなり、硬い鱗の上に紫色の氷をトゲトゲしく纏うドラゴンの姿があった。

 正直言って、絶望感が半端ではなかった。

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