第34話 [セカンドバディ]

『あーあ……なんで俺は油断してんだ。いってぇ……』


 幽霊の状態に戻った俺は瓦礫の上で頭を抑えていた。すると、驚きたような声が聞こえてきた。


「零太郎! 大丈夫か!?」

『お? 霹靂かみときか。いや、ヘマしちゃって落とされたまでだ。そっちは順調だったか?』

「ああ、注意を引いてくれたおかげでマンション内の残り人数も僅かだ」


 まあそれなりに時間は稼げていたみたいだし、俺のミスもそれでチャラにしてほしい。

 体を起こし、パッパッと自分の服につくゴミを落とす。


 もう一息かなと自分を鼓舞しようとしたら、真っ赤なものな目に映った。


「……む、まだ血が止まらないな」

『お前……それ誰にやられた……』


 脇腹あたりの破れかけの服の部分から、血がポタポタと流れ出ていたのだ。よく見れば口元にも血を拭ったような跡もある。


「いや、なんのこれしき。これくらいは鬼神の私には全くもって問題ない。……助けようとしたら、民間人にやられてな」

『は……? 助けてやってんのになんで……』

「おそらくだが――」


 その時、話を遮る悲鳴が多数聞こえてきた。それらはこちらに向かってどんどん近づいてきているようだった。

 目を向けると、包丁や傘などを持って襲いかかろうとしている氷が所々にまとわりついている民間人だった。


「助けてくれるぇええ!!」

「体が勝手の動くの!!」

「さむい……さむいよぉおお!!」

「なんとかしてくれよ!!!」


 まぁ、どうでもいっか。

 とりあえずウィンターズを救ったら霹靂ももう怪我しないで済むだろ? 多少の犠牲はつきものだ。


 刀を握り直し、近づく民間人をそのまま斬り殺そうとした。


「っ!! 〝雷縛らいばく〟!! 何をするつもりだ零太郎!!!」


 俺が斬る前に、霹靂が雷で民間人らを拘束した。振り上げ、行く先をなくした刀先を地面に向けた。

 霹靂は俺に近づき、胸倉を掴んできた。


『おー、流石霹靂だぜ。斬らずに済んだ』

「貴様! 貴様は一体……誰なんだ……!?」

『はぁ? 俺は零太郎だぞ?』

「違う……違う! 琴音や私、同級生に対して優しい、私が気に入ったいつものお前ではない!!」

『……大きな任務だろ? だったら多少の犠牲くらい、仕方のないことじゃないか?』

「そう思うのならばなぜ……貴様は笑っているんだ。命がかかっているのだぞ!」


 霹靂の潤んだ真紅の瞳の中で、悪魔のような笑みを浮かべる濁った瞳をした俺がいた。

 俺はハッと気づき、表情を元に戻した。


『……俺はな、自分と自分の大切な人以外にはあまり興味がない。やらなきゃいけないことはその人らを最重要に考えて、周りは知らぬ存ぜぬって主義だった。そういう生き方しか知らないんだよ、俺は』

「だがそのような生き方は……!」

『だからお願いがあるんだ、霹靂』


 俺の胸倉を掴む手をそっと握り返す。


『俺がお前たちと道を歩いてる時、今みたいに踏み外しそうになったら引き止めてほしい。……あー……なんか恥ずいな、ちょっと』


 普通にはまだ程遠いほど、俺の手や足は洗い流せないほど汚れている。少しでも変わりたいが、自分の捻じ曲がった魂はそう易々と変えられない。

 だから、真っ直ぐな生き方をしている俺とは対照的な霹靂こいつに頼んでみた。


「……私が提案をそう簡単に引き受けるとでも思っているのか?」

『…………ダメ、か』

「違う! ただの知り合いでそんな重要な依頼を受けるのが違っていると思ったのだ! だから――!!」


 ポク・ポク・ポク・チーン、と間をおいて、俺はとある結論にたどり着いた。


『まだ友達じゃなかったのか!!?』

「え!? 友達だと思ってくれていたのか!!?」


 俺的にはもう友人関係になっていたはずだったが……違かったみたいだ。ちょっとショックを受けた。


「あ、いや、そうだな……私たちは同盟を組んだ友人であるな!」

『同盟組んだ覚えないっす……』

「え、えーっと! で、では新たな関係を……そうだ! 私をとしてくれ!! 琴音がいない間は私がお前を導く!!」


 これでどうだと言わんばかりのドヤ顔で目を輝かせ、ふんすふんすと鼻息を鳴らしている。

 俺は姿を見るだけではなく、嬉しくてつい笑ってしまった。


「な、貴様なぜ笑っている! 何が可笑しいのだ、吐け! 言ってみろ!!」

『違う違う! 嬉しかったんだ。まあ……なんだ、よろしく頼むぜ、相棒二号』

「そ、そうか……。だがその呼び名はあまりいい気にならぬぞ。美紅みくで構わん」

『そうか……わかったよ美紅」


 握手をし直し、なんかちょっと恥ずかしい気分になった。


「さ、さて、雷で確認したが、残された民間人はここにいる者らで最後らしい」

『だったら後は、あのドラゴンか』

「うむ。所で倒す手段はあるのか? 実態にはもう戻れないか?」

『実態に戻れるが、俺の刀の技使ったらもうおしまいだろうな。ドラゴンを倒す……というか、救うにはこの謎の球を使う』


 ポケットから謎の透明な玉を霹靂……美紅に見せつける。

 自分で作った物やこのように小さい物だったら、幽霊状態の時も一緒に透過してくれるのが救いだったな。


「それはなんだ?」

『俺もよくわからん。けど、これを信じるしかない』

「あと……そうだな、この氷は人を凶暴化させる、もしくは操る類の能力だろう。私が氷の影響を受けたら遠慮なく炎で燃やしてくれ」

『了解だ。まあさっきの人たちの様子から後者かな……』

『グルルルァアア……!!!』

『おっと、ウェンターズも痺れを切らしてたか』


 隙間にドラゴンの顔があり、こちらを睨んでいた。


「よし、ではいざ行かん! 準備は良いか?」

『あぁ大丈夫だぜ美紅。セカンドバディの力を見せてくれや」

「ふっ、当たり前だ」


 俺は実体に戻り、それぞれの武器を構えてドラゴンを睨み返した。

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