第33話 [救助大作戦]

 同じ高校の生徒が紫色のドラゴンになった件。こんな小説書いたら売れるだろうか?


「……って、そんなこと思ってる場合じゃねぇな!」

『グルルルル……!!』


 あんな怪獣を公の場で晒しているが大丈夫なのだろうか。化け物チックなことは裏ルートではよく聞いていたが、表では全く聞いたことがない。

 でもあのドラゴンが霊と同じ感じだったら見られていないか……?


『グァァアアアアーーッ!!!』

「まぁ問題を解決すりゃあ、問題ねぇだろッ!! よっ、ほっ!!」


 屋上にしがみつくウィンターズさんもとい、ドラゴンの足元から氷柱が向かってくるがジャンプして避け、それを足場にして一直線に走る。

 その間に、足場からさらに小さな氷柱が発生して俺を貫こうとしていた。


「器用なもんだな! 関係ねぇけどなァ!!」


 刀を炎で作り出し、自分を中心にくるくると回転斬りしながら突き進む。


「飛ばれちゃ困るからその翼……部位破壊させてもらうぜ。空刀技うつろとうぎ――」

『グァァア!!!!』


 ドラゴンの翼なんか斬ったことない。ましてや、琴音の体だったらまだ技の練度や力不足で斬れないだろう。

 だが今は、生前の俺の体を忠実に再現してくれている。屋上にいて助かったぜ……なんせ、建物を破壊せずにすむからな。


「〝月輪転げつりんてん〟ッ!!!」


 横に一回転して刀を振るい、刀の残像を見たら満月のようだった。

 ドラゴンの翼は見事に斬れ、地面へと落下していく。


「さてもっかい――ゔっ!?」


 足がミシミシと鳴り、体が動かせ無くなる。

 空中に放り出されているし、さらにはドラゴンが山でも食べそうな勢いに大きな口を開けて冷気を放出しようとしていた。


「う〜ん……一旦、辞世の句を述べれるか?」

『ガァァアア!!!!』

「無理だぜ」


 口から放たれた猛吹雪が俺に迫るが、身動き一つとれない。

 もう無理かと思ったその時だった。バチッとどこかで紅の光が見えた。


「何をしている零太郎! 腑抜けな姿を見せてくれるな!」

霹靂かみときぃ!」


 俺の手を掴み、紅雷の能力を使ってドラゴンのブレスから助けてくれたのは霹靂であった。


「マジでカッコいいぜお前! 普段可愛いのにこういう時だけかっこいいのずり〜!」

「はぁっ!? ななな、何を言っておるのだきしゃま!! 頭に風穴をあけるぞ!!!」

「ご、ゴメンナサイ……」


 地面に降ろしてもらい、なんとかあの世に行くのは先延ばしにすることができたようだ。

 まあ、この状況をなんとかしないと本当に成仏するのも時間の問題な気がする。


「なんとなく零太郎がいる気がしてな、琴音も呼んでおいたからな」

「サンキューな。緊急で任務とか出たのか?」

「うむ。怪異度はまだ出ていないが、おそらくお前たちが戦って来た悪霊などとは桁違いに強いぞ」

「そうだよな」


 俺の殺気とかを敏感に感知していて、並の攻撃じゃ上手く避けられ反撃されそうだならな。

 しかもドラゴンは強いのが定石だろ。


「まずは民間人の避難、それを協力して行うぞ。周囲の家には避難してもらうように言っているが、あの竜が占拠している建物は無理だからな」

「マンション内にいる人らを俺らで救うと」

「ああ、全くもってその通りだ。竜の注意を引いおいてくれないだろうか」

「にひひ、オーケーだぜ!」


 俺は刀を握り直し、霹靂は軍帽のツバを摘んでドラゴンを見上げる。


「あそこまで一気に飛ぶぞ」


 霹靂は俺の服に手で触りると、バチバチと服が帯電し始めた。そして拳銃を構え、ドラゴンのすぐ近くに銃弾を撃ち込む。


「行くぞ零太郎! 任せた!!」

「任された! もう油断はしねぇ!!」


 ぐいっと雷で引っ張られ、一気にドラゴンがいる屋上まで飛ばされる。


『グルルルァアア……!!』

「刀技は使わない方がいいか。おいウィンターズ! なるべく早く戻してやるからな」


 あの生徒会室前何いた謎の少女からもらった玉。不可思議な点が多々あるが、信用して使うしかない。

 こういうのは大抵、呑み込ませりゃいいんだよな。


 ドラゴンの前脚による攻撃や尻尾の鞭、さらには氷が蔓延はびこる場所からの氷柱攻撃を避ける。

 霊力は温存しておきたいから、自分の体と刀に少しだけ纏わせる程度にしてあるので、派手な戦いはできない。


『グルァアッッ!!!』


 ドラゴンは巨大な瓦礫を掴み、俺の方に投げつけてくる。

 俺は空中にいるから刀技も使えず、体のひねりだけじゃ避けられない。何かを創造して瓦礫を壊すにも、スピードが早い。


 だが大丈夫だ。これは……。霊力もこもっていない。つまりは……!


『霊状態に戻ればいいってことだな!!』


 一瞬蒼い炎に包まれると、足があった場所は炎が吹き出るいつもの姿に戻り、瓦礫を通り抜けた。


『そんでぇ……口がガラ空きだぜ!!」


 再び実態に戻り、ポケットから透明な球を取り出して投げようとした。


『グゥヴヴ……!』

「なっ!? 閉じられた……ッ!!」

『グァアアア!!!!』

「い゛ッ!!」


 頭上から尻尾で叩きつけられ、俺はマンションの床を貫通して落ちた。

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