第30話 [氷の美少女]
その後も質問責めに会い、げっそりとした気分で授業に挑んだ。
授業中、チラッと琴音を見たのだが、うとうとしていた。これは、家に帰ったら少し喝を入れなければいけないかな。
時間が経ち、四時間目が終了して弁当の時間となった。
「零太郎〜美紅〜! 一緒に食べよ〜!!」
「うむ、わかった」
「あー、ちょっとトイレ行くから待っててくれ」
どうやらこの体、霊力に変換しきれないものは普通の人と同じように外に排出しなければいけないらしい。
用を足し、手をハンカチで拭いた後、ゾワッと何かを感じた。
「……ん?」
何かよからぬモノの可能性があるので、俺はその気配がする方まで向かってみた。辿り着いた場所は、生徒会室だ。
「なんだ、これ……」
ドアの隙間からは白い冷気が漏れ出ていて、ドアノブは触れいたら低温やけどをしそうなくらい冷たかった。
警戒して入りはしなかったのだが、中からうめき声が聞こえてきた。
『ゔっ……ぅ……』
「ッ! だ、大丈夫か!? ――は? すげぇことになってんな……」
もしかしたら中で人が襲われているかもしれないと思い、ドアを思い切り開けた。
本棚、机、椅子、資料……部屋にある全てが、紫色で半透明な物……おそらく氷に包まれていたのだ。
その中心には、倒れこむ一人の男の姿があった。
「おいあんたこの状況は一体――」
床を張っている氷に足を踏み入れた途端、心が鎖で雁字搦めにされたような気分がした。
「ゔっ……ぐぬぬぬ、ふんッ!!」
俺の霊術をちょっと放出するとその拘束感は無くなり、ほんのりと氷が溶けた。
倒れている人に駆け寄って意識を確認する。
「大丈夫か? 一体何があったんだ」
「う……僕は……」
体は冷え切っていて、肌にはトカゲの鱗のように紫色と氷が張り付いていた。いや、 張り付いていたというか、肌から生成された感じだろうか。
兎にも角にも、この氷が原因そうなので、幻蒼焔で少し炙ってみた。
すると氷は溶け、顔色が少しずつ良くなっていった。
「大丈夫か?」
「あ、ああ……何かよくわからないけどありがとう」
数多の女の子を落として来たんだろうなと彷彿させるとてつもないイケメンフェイスだ。俺が女子だったら墜ちちゃいそうだぜ。
「だがキミ、女の子にベタベタ触るのはちょっと良くないと思うな。けど助かったよ」
「――……???」
オンナノコ? でもズボンを履いているし、髪も短いし……。いや、でもそれだけで決めるのは違うか。
確かによく見たら美人な顔をしているし声高いしまつ毛長い。とんだ失礼をしてしまったみたいだ。
「わ、悪い。救助優先になっちまってな、アハハ」
まあ気づいていなかったということは誤魔化しておこう。
「ところであんた、その氷はなんなんだ?」
「いや、僕にもさっぱりなんだよ。今朝からキミの頭にある炎みたいな変なのを見るしさ……」
「変とは失礼な」
「ああ、それはごめん。気を悪くしてしまったかな」
今朝から変なもの……。この氷が霊的関係のあるものは確かだし、後天的に幽霊が見えるようになったってことか?
霊に関しては俺よりも琴音の方が詳しいし、そんなに追求しなくてもいいか。
「でも不思議だな、キミの炎でなぜかだいぶ気分が良い」
「そりゃどーも」
「それに、なぜかキミとは普通に話せれるな。なんだか……似た者同士な気がするよ」
「……奇遇だな、俺もだ」
互いに不幸を抱え、生まれた環境を憎む目をしていた。
「俺の知り合いというか相棒がこういったことに詳しいんだが、相談とか……」
「っ……」
「は、やっぱキツイよな。わかるぜ」
「……周囲の人はみんな僕のことをおだてたり、何もわかつてないくせにわかったフリをしていた。でもキミは違う。キミとは唯一仲良くできそうだ」
ちょっと前の自分と重ね合わせていただけなんだけどな。まあ結果オーライだろう。
彼女は立ち上がり、手を差し出してきた。
「僕はクロエ・ウィンターズ。よければだが……相談に乗ってくれると嬉しいよ」
「似た者のよしみで乗ってやるさ。
俺たちは握手をした。
互いに、手は全く暖かくなかった。
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