第28話 [氷冷の気配]

 盗撮の悪霊を難なく除霊し終えた俺たち。


「いや〜! 決まったねぇ」

『ああ……本当に気分がいい』

「最高にハイってやつだねぇ〜!!!」


 勝利の余韻に浸りながら、俺と琴音は移動をしている。

 ちなみにさっきの戦いでハイになっており、普通に霊体として出てきて話してしまっていた。


「あとで除霊の報告して帰ろっか」

『あれ、でもさっき買い物した時に抽選券みたいなのでもらってなかったか?』

「はっ、そうだった! 抽選……美味しいカニとか高級なお肉とかあったらいいなぁ……」

『食いもんばっかだな』


 そんなこんなで抽選会場までやって来て、ガラガラを回して玉を出す。


「おー! おめでとーございまーす! 三等の水族館ペアチケット券でーす!」

『おお! すげぇじゃんか琴音!』

「……おにくがよかった……」


 しょんぼりしながら券を貰う琴音。花より団子の擬人化なのだろうか。


『琴音、水族館は好きじゃないのか?』

「いんや、好きだよ。けどねぇ……魚を見るとどうしても思い出すんだ……」


 遠い目をして何かに想いを馳せている様子だった。もしかすると、母親との思い出が深いのかもしれな……


「刺身、フカヒレ、塩焼き、海鮮丼、干物……うへへ、じゅるっ」

『えぇ……』


 こいつは水族館の魚を見て『綺麗〜』とかじゃなくて『美味しそ〜』と感じるのか。

 ……水族館って、そんなに食欲をそそられる場所なのだろうか? テレビで見た感じだとそんなことはなかったような……。


『水族館ってそんな場所なのか? 一回も行ったことないからわかんないな』

「え? 行ったことないの?」

『ああ。動物園は遠足で行ったことあるけど』


 あの毒親たちが連れて行ってくれるわけもなく、水族館はニュースでたまに見るくらいのものだった。

 自由になってからは行こうと思えば行けたが、別にそこまで行きたいと思うわけではなかったからな。


「にひひ! じゃあ私と一緒に始めたの水族館行こうよ! なんせ私は、君を幸せにしたいからねっ!!」


 俺は少し瞠目させたが、すぐにあの時のことを思い出した。少し笑って、俺はただ一言。


『ありがとう』


 幸せにしてもらえるならばしてほしい。けれどあまりにも一気にきすぎたら溢れ出てしまいそうだな。


 そんなことを心の中で思いながらも、ただ、幸せを感じていた。



###



「気分はどうや?」

「……いつもと変わらず、最悪だよ。幸せなんて微塵も感じないさ」


 夜、高層マンションの一室。夜景を横目に話し合う二人の姿があった。


 質問をした者はグレー色でロングの髪に、黒い瞳とギザ歯を持ち、白衣を着ていた。

 そしてもう一人は、紫色の目と髪色でショートヘアーな王子のようにイケメン女子だった。彼女は虚ろげな瞳をしていた。


「神里高等学校の王子様こと、クロエ・ウィンターズさんがこんなにも悩みを抱えてはるなんてね。しかも誰も気がつかないとは。世界は残酷やね」


 医者らしき者がそんなことをぼやく。


「そんな中、両親にすら見放されてるとは。せやけどまぁこのうち、心理カウンセラーちゃんがおるで大丈夫やなー」

「はぁ……。それで、前々からキミが言っている心の病とはなんなんだい? 焦らされるのも困るのだが……」

「くくく、気になるやろうけど、まだダメや。君の心が追いついてへんから」


 イケメン女子が質問をするのだが、それをのらりくらりとかわしている。

 顔が曇るが、整った顔は崩れないままだ。


「はぁ……そうか。でも、信じている。僕を救ってくれるって」

「…………。ああ、うちに任しとき。さて、容体も良さそうやし、うちはこれにて帰るさかい」


 スクッと立ち上がり、襟を正す。


「おっと、私忘れるとこやったわ。ほい、今日のお薬やで」


 懐から取り出したのは、錠剤だった。だが、ただの錠剤ではなく、冷気が放出している錠剤だった。

 あの、幽霊が成仏した時に残る物と瓜二つだった。そう――


「前から思ってたんだが、なぜこれは冷気が出てるんだい? 飲むとどんどん体が寒くなってる気がするんだが」

「くくく、安心しぃ。これは絶対に価値あるものになるで。……うちらの組織にとったやけどな……」

「? 何か言ったか?」

「いんや! んじゃうちはこれにておさらばや。なんかあったら連絡しーやー」


 部屋から出て言った医者らしき者を目で見送り、渡された錠剤をつまむ。


「でもこの錠剤……どこか綺麗だなぁ……。水族館はコレよりも美しいのかな……。行ってみたいなぁ……」


 そして彼女は、それを飲み込んだ。

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