第24話 [誓い]

 美紅が駆けつけて、戦局は大きく変わっただろう。


「二人とも大儀であった。後は私に任せておけ」


 腰に携えていた拳銃を両手に持ち、構えていた。だが、大会の時に使ったものとはまた別の銃のようだった。


 銃口から一気に何十発もの弾が連射されるが、ペストマスクは大鎌を回転させて全弾弾く。

 銃弾の雨が一旦止んだ後、ペストマスクは大鎌を横に大きく振り、影の斬撃を飛ばす。


「上に誘うか……。受けて立とう! 二人は地面に這って避けるんだ!」


 美紅は上に大きく飛ぶが、その隙を見逃さずに大地から無数の黒い縄が襲いかかる。

 美紅はひどく落ち着いていた。弾切れになった二つの銃の弾倉を手を使わず、自分の紅雷で引き抜き、同じ要領で腰から弾倉を詰め込んだ。


 頭が地面の方を向いている状態で腕を横に伸ばし、回転しながら大半の影を雷を纏った銃弾で撃ち抜いて無効化した。

 余った影は、地面に着地すると同時に放電をして完封。


『これはこれは……。とてつもない強さの者が来ましたね』

「貴様から褒められたとて、微塵も嬉しくない。己が蒔いた霊力で潰されるがいい」


 近くにあった木と倒木からバチッと雷が走ると、倒木が木に引き寄せられ、間にいたペストマスクはグシャッと挟まれる。


「……まあ、これしきの攻撃では流石に祓えないか」

『フゥ。ヒヤヒヤさせられましたね』


 木を切り刻んでそこからペストマスクが出て来た。

 美紅は腰に拳銃を戻し、外套から長い銃――ショットガンを取り出していた。ペストマスクも影の鎌を創造するが、パッと消える。


「みっくーの手助けくらいならあたしもできるよ!」

「猫野……。うむ、助かる。早い所決めさせてもらおう!」


 雷が体から放出される量が多くなると、速さが一段回上がり、一瞬でペストマスクの懐に潜り込んでいた。

 二回体に撃ち込むとペストマスクは大鎌を振り上げる。美紅はショットガンを上にぽいっと投げ、振るわれた大鎌を足で弾き返す。


『! これはこれは、随分逞しい脚だ』

「喰らえ」


 上から落ちてくるショットガンを片手で掴み、三発目を発砲。さらに、そこら中に撃ち込まれている銃弾から電流が走って、ペストマスクに全て向かう。


『ムゥ! これは、なかなか効きますね……』


 ボタボタと黒い液体が溢れ出していた。


「さて、終わりにさせてもらおう」

『……フフ、若い芽は摘まずに成長を見届けるのがワタクシの趣味。ここは退散させてもらいます』


 体の輪郭が無くなり、ペストマスクは液体となって地面に溶けた。


『またどこかで、お会いしましょう。特に銀髪のお嬢様、期待しております』


 その声だけがこだまして、ピリついた雰囲気は消え失せた。


「……あの悪霊、本気を出していなかったな。ふぅ、だが本当に、間に合ってよかった」


 美紅はやれやれとため息を吐いて、ショットガンを外套の中にしまった。


 美紅も、あのペストマスクも同じくらいの強さだっただろう。

 美紅は頼もしかったよ。ペストマスクも強かったよ。だけど、美紅は大会の時、ペストマスクさっきの戦いで……私は……手を抜かれていたんだ……!!


「くそっ……!」


 勝負に負けて、試合にも負けて、任務も失敗して助けられた……!


「……琴音」


 美紅は何かを察した様子で私に近づき、困った表情をしている。私は少し俯いた後、美紅の顔を見てこう言い放った。


「絶っっ対に! 追いついてやる!!」

「! ふっ、そうか。それでこそ琴音だな。楽しみにしているぞ」


 美紅から差し出された手を握り、よろよろとしながら立ち上がる。


「……誓ったところ悪いんだけどさ、美紅」

「どうした?」

「足が限界だからおんぶしてほしいなぁとか」

「……台無しだ」

「あっはは〜〜! まあ終わりよければ全て良〜〜しっ☆」


 二重箱ちゃんにも笑われてしまった。

 まあでも、今回ので私の弱さが把握できた。身につけれることは山ほどあるだろうし、頑張るんだ。


 美紅の背中に乗りながらそんなことを考えていた。

 こうやって、背負われてばっかりじゃやっぱり嫌だ。だから、強くなろう。


「ところで美紅。おんぶしてもらうとどうしてもツノを握って操縦したい衝動に駆られるんだよねぇ……」

「やったら貴様を葬るからな……」

「あたしも掴んでみた〜い!」

「駄目に決まっている」


 零太郎の方は成功したのかなぁ。私は失敗しちゃったよ。これで先生に認められなかったらどうしよう。


「あ。ってか、美紅に言ってなかった」

「む? なんだ?」

「助けてくれてありがとう」

「そーじゃん! お礼言ってなかった! みっくーありがとーー!!」


 少し目を大きくした後、帽子のつばを摘んで少し顔を隠した。


「当然のことをしたまでだ」


 少し口元が緩んでいるのを、私は見逃さなかった。

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