第23話 [蒼借者vs影操者]
『……おや、どういうことでしょうか』
「はっ……」
落ちたのは、私の黒髪の部分だった。
一度だけ、即死の攻撃の身代わりになってくれるこの代物。つけてなかったと考えると、悪寒が止まらない。
急いで距離を取るが、根本的な解決にはなっていない。
片足がなくなっていたのにもかかわらず、一瞬で移動していた。霊術の類いだろうか。それだったらとても厄介だ。
『まさかこのワタクシの霊術を使わせるんて……お二人とも強いですね』
冷や汗が止まらず、何が起こったのかまだ脳で理解ができていなくて動きができない。それと同時に、昔からずっとある劣等感が増幅し始めていた。
(あれがなかったら死んでた。また負けた。劣等者。相棒の横に立てない。私はまだ……弱いままだった……!)
『弱さの自覚は強さへの片道切符。一度向かってしまえば戻れない。しかし、その列車が己の望んだ未来へと向かうわけではないですよ。諦めも美徳です』
「しーちゃん!」
「っ……!」
二重箱ちゃんの言葉でハッと意識が戻り、急いで距離をとった。
「ごめん二重箱ちゃん……。ちょっと、いきなりすぎて……」
「ううん、大丈夫。それよりあの悪霊、地面の影に潜って瞬間移動してたよ」
「じゃあ……〝影〟の霊術かなぁ。テレポートだけじゃなくて、他にも応用技があるかも」
『バレてしまったのならば仕方ないですねッ!』
ズズズと地面の陰から二つ、漆黒の鎌が出現してこちらに投げ飛ばしてきた。
影による〝創造〟。大鎌を扱う〝型〟。なぜだろう、どこか、零太郎に似ている気がする……。
「任せてしーちゃん! ふんっ! 自分で喰らえ〜!!」
手をかざして鎌を消滅。さらに、ヨーヨーでペストマスクをぐるぐる巻きにしてこちらに近づけた。
「解除!」
ペストマスクの後ろに、飛んできている途中の鎌が再び現れ、それがグサッと背中に突き刺さる。
使い方次第でいろいろなことができそうな霊氣術だ。
『……やはり、厄介な霊氣術ですね。先に潰しておきますか』
「ん? うわなにコレェ!!?」
二重箱ちゃんは地面から現れた黒い影の縄のようなもので地に縛り付けられていた。
「待ってて、今――」
『させませんよ』
「くっ……!!」
今度は地面からペストマスクが現れ、妨害される。
「もぉ〜! 手のひら出せない! 霊氣術が発動できない感じに縛り付けられてる! しーちゃん! あたしのことはいいから一旦離れて先生に連絡!!」
「でもそれだと二重箱ちゃんが……」
「大丈
どこまでも自分が足手纏いだ。霊氣術が使えないし、御札も全然効かないし、仲間を危機に晒す。
でも、こんなところで逃げたらもっとダメだ。
『それが得策でしょう。諦めた方が良いですね』
諦めるぅ……? ふざけるな。
いつまでもこんな無様な姿晒してられるかって話だよ。
零太郎は私より強い。私はまだ隣に立つ資格がないのかもしれない。
私も零太郎みたいになりない。そう、なりたいのならば、付け焼き刃でもいいから……全部使って、全部真似る!!
「〝
『ムッ!?』
持っている御札の刀に書き綴られている朱色い文字は、蒼く染まり始める。そして、右目から炎が吹き出てきた。
側にはいないけど、確かに繋がりはあるんだ。
『懐かしい
「二重箱ちゃん、大丈夫。やっと覚悟決まったよ」
影の縄が私に向かって飛びかかるが、あの時の感覚を思い出して足に力を込める。御札を左腰に添え、姿勢を低くする。
「
『ウグ……ッ!』
先ほどのは桁違いの手応えだった。腹に手がけて一閃をすると、ドバドバと黒いタールのようなものが溢れ出していた。
『ホウ……空刀技を使う者があの方以外にもいるとは思わな――』
「〝
間髪入れず再度攻撃をしかけ、左腕を斬り落とす。その後に二重箱ちゃんに絡まっている影の縄を解く。
「はぁ……はぁ……。二重箱ちゃん、これで動ける……?」
「あ、ありがとしーちゃん。これなら勝てるかもしれないよ……!」
『……少々、お嬢様方を見くびっていたようですね』
おかしい。
悪霊の類ならば傷口などすぐに塞いで再生するはずなのに、それをしていない。どんどんと黒い液体が地面に張っている。
これは……まずい……!
『〝シュバルツ・ガルテン〟』
地面、木々、岩。周囲一帯が全て黒く染まっていたのだ。私の御札触れても、この範囲は流石に無理がある。
こんなデタラメな範囲に及ぶ霊術……怪異度・弐級はある。
「霊術の応用技だねぇ……」
『二人まとめて狩らせていただきます』
万事休すなのだろうか。
「二重箱ちゃん……?」
(もう……出し惜しみとかしてる場合じゃないか〜。少しくらい代償があっても、新しくできた友達を守るんなら軽いもんっしょ……!)
二重箱ちゃんは自分の手袋の甲を噛んで、ゆっくりと外してる。目は険しく、やってやろうって目をしていた。
「ま、待って二重箱ちゃ――」
その時だった。
ヨーヨーの超回転とは違う、バチバチという音が聞こえた途端、紅の閃光と共に轟音が響き渡った。
「……なんとか間に合ったようだ」
『また、増えましたね』
風に
「美紅!!」
「私の大事な友人だ……。いじめないでもらいたい……!」
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