第22話 [虚偽の怪異度]
「しーちゃん、あたしは中距離で戦うタイプなんだけど近距離いける?」
「まあ身体能力は美紅よりちょっと下くらいだからいけるよ。切れない
私は幽霊が見えない代わりに身体能力がかなり高い。霊氣術はまだ覚醒していないから、その身体能力と御札でやるしかない。
ペストマスクは大鎌を片手にこちらに小走りしてきていた。
「んじゃ、よろしく頼んます! せいやっ!」
二重箱ちゃんはヨーヨーを飛ばして攻撃する。
あのヨーヨー、普通の回転じゃない。当たったら抉られそうなくらいに回っている気がする。
ペストマスクは大鎌で対応するが、ヨーヨーについている糸を引っ張り、連撃を仕掛けていた。
『変わった武器をお持ちですね。ワタクシと同じ手袋同盟でも組みたいものです』
「悪魔みたいなもんは一人で充分! あんたはいらない!」
感心しつつ、私は二重箱ちゃんのヨーヨーを掻い潜りつつペストマスクに近づき、通り過ぎざまに御札を貼り付けた。
そして人差し指と中指を立て、
「〝
『ム……。何やらゾワゾワとしましたね』
普通の除霊方法では不可能、か。これ、絶対参級じゃあないねぇ……。
『銀髪のお嬢様、並外れた身体能力ですね。それにこのニホン特有のオフダもとても良い代物だ』
「ふんっ、わざと攻撃を受けたくせに。私に攻撃しようと思えばできたよねぇ」
『おやおや、お見通しでしたか、流石です。……さて、二対一でも全く問題ありません。かかってきなさい』
「言われなくてもねぇ!」
両手に斬滅の御札を持って大鎌をさばく。後方から二重箱ちゃんの援護があるが、それも軽々と見極める。
零太郎の眼のおかげで動体視力もだいぶ向上しているようだ。私はただ見えていなかっただけ。戦いにならないなんてことはない。
「しーちゃん一回離れて!! 止めて放つよ!!」
「ッ!!」
ステップを踏んでペストマスクとの距離を取る。
二重箱ちゃんが左手を
「せーのっ、どぉぉん!!!」
『ヌッ!!』
ペストマスクの腹にヨーヨーがクリーンヒットし、後方に吹き飛ばす。後ろにあった木にぶつかり、それが折れるほどの威力だった。
人に向けたらたまったものじゃあないだろう。
「えぐいねぇ……。君が敵じゃなくて良かったよ」
「えっへへ! ざっとこんなもんよ!!」
『今のは、なかなか驚きましたね』
何事もなかったかのように立ち上がり、パッパッとタキシードの汚れを払いおとす。
「ま、立つよねぇ」
「やったと思ったのに〜!」
『その霊具は危険ですね。先に狙わせていただきますッ!』
「っ! ぐっ……!! ぬわぁぁ!!」
「二重箱ちゃん!?」
ペストマスクはいつのまにか二重箱ちゃんの真ん前まで移動しており、大鎌の柄の部分で薙ぎ払い、宙に吹っ飛ばした。
「〝
懐から取り出した御札を持ってそう唱えると、何枚もの御札が連なって刀のようになる。
『ホウ、貴女も刀を使うのですか。良いですね』
「二重箱ちゃんはちょっとテンション高いけどいい子なんだよ……。許せないかなぁ」
相手の懐に潜り込んで一閃。だが当然の如く大鎌が置かれており、防がれる。
零太郎が戦っていた時の感覚がまだ残っているから、この戦い方も違和感があまりない。けれど一人はキツすぎる。
そう思った矢先だった。
「なーはっはっはっはぁあ!! あたしはすぐに帰って来たッッ!!!」
「二重箱ちゃん!」
近くにある廃ビルにヨーヨーを引っ掛け、某アメコミヒーローのように二重箱ちゃんが帰還して来た。
そして空中でヨーヨーを高速回転。バチバチと電流を発生させてペストマスクに放つ。
『フム……お二人とも並外れた身体能力をお持ちですね。危ない危ない』
後ろに跳躍して避けるが、二重箱ちゃんはニヤッと笑っていた。
「かかったな〜!? あたしのヨーヨーは、追尾する! ローリングして、接触ゥ〜☆」
『!!』
地面を抉ったヨーヨーはそのまま止まることなく、回転しながらペストマスクを追って左足を切断させた。
「君、零太郎の次に最高だねぇ!」
グラリとよろめいて倒れそうになっているところを見逃さず、私は御札の刀をペストマスクの首に思いきり振るう。
『ですが、甘いですよお嬢さん。その首、貰わせていただきます』
「しーちゃん!!!」
「は――」
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「え、私も出陣ですか?」
『うん。実はね、琴音ちゃんたちが戦っている首狩り紳士という悪霊、別の悪霊との報告が混じっていて怪異度が違っていたんだ』
「……本当の怪異度の方は?」
『報告数がまだ少ないけど、これだけは言える。怪異度・弐級以上だね』
「に、弐級以上!? そんなのあの二人にはまだ祓えないのでは!?」
『ああ……。本当に、僕のミスだ……!』
怪異度・弐級。それはとても知能が高い上に強い霊術も持っている可能性がある。猫野の霊氣術は強力だが、いかんせん代償があって使いづらい。
それに琴音はまだ霊を最近見たばかりだ。
「今すぐ向かいます」
『うん、任せるよ。僕は奴らに見つかったらいけないからね。本当に不甲斐ないよ』
ピッ、とガラケーのボタンを押して通話を切る。急いで外套を羽織って軍帽を被り、目的地に向かった。
(間に合ってくれ……琴音!)
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目の前にいたはずのペストマスクの姿はなくなっていた。代わりに、大鎌が
そして――ボトッと落ちる音がした。
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