第20話 [青天目ショタ郎]

 ……あれ、体熱すぎるし……なんか世界がでかくなってないか……? あ、れ……?


 バイクから出て、その場に座り込むと謎の違和感に襲われた。


「おい零太郎! 大丈夫……って、なんだその姿……」

『けい、じ……? いや、けいいちか……。めまいがすごい……。あれ? なんか、かつぜつが……』


 慧一か慧次がスマホの自撮り画面で俺を映す。するとそこには、目がクリクリの銀髪ショタがいた。

 一瞬誰かと思ったが、金色の右目と青色の左目で、その正体がわかった。


『え……? こ、これ……おれぇ!!?』


 自分から発せられる高い声が響く。

 銀髪オッドアイのショタなので、美少年大会とかがあったら優勝できそ〜、だとか呑気なことを考えていた。

 そんなことを考えている場合ではない。


「霊力を限界まで使い果たしたからとかか?」

『んぁー……たぶん、そーかも……』


 頭と足から吹き出る炎もいつもより弱々しいし、自分の中から雀の涙ほどの霊力も感じない。

 だがそれより、何よりも……


『あづい、ねむい……』


 体が物凄く熱いのは熱暴走オーバーヒートしているからだろう。だが、とてつもなく眠いのはなぜか。

 立ち上がろうとしたら、よろよろとふらついて近くにあった木に激突しそうになった。


「大丈夫か」

『……だいじょばないにきまってる……。さんきゅ』


 激突寸前で慧一が脇に抱えて助けてくれた。


『とてもふがいない』

「確かに、今の姿は間抜けだな」

『あぁ!? なんだとーっ!! おらぁ!!』

「全然痛くない」


 ポカポカと慧一を殴るが、威力が全く出ない。これもショタ化の影響か。


「まあ、だが……感謝する。お前のおかげであのジェットババアを祓うことができた。ありがとな」

『うぉー。でれた』

「デレてない」

『ま、どーいたしましてだな!』


 感謝されるのは嫌いじゃない、むしろ好きだ。

 だいぶ全力を尽くして疲労困憊だが、無事に祓い終えたから良しとしよう。


 慧一がジェットババアの消えた場所に向かい、奇妙な球を拾っていた。


『それは?』

「〝魂核こんかく〟。霊や妖怪が消滅した時に落とす物だ。これで特殊な霊具や、結界を張ることができる。これを見せれば、オレたちがちゃんと依頼をこなしたってわかるだろう」

『びーだまくらいのおおきさだな』

「祓ったやつの強さによって魂核の大きさは変わる。ビー玉くらいの大きさならまあまあ強いやつだからな」


 俺も除霊されたらこれになるのか。自分の魂核がどれくらいの大きさか気にならないこともないが、知りたくもないな。


『どーやってかえる? ばいく、つかえないか?』

「……いや、バイクは動きそうだ。お前が無意識のうちに霊力でカバーをしていたのかもな」

『おれのおかげー! どやっ』

「……お前のその姿、猫野に見せるわけにはいかないな」

『んー? なんでだ?』

「いずれ分かるさ。……さて、オレは先生に連絡しておくから、ちょっと待ってろ」


 そう言って俺をバイクに座らせ、スマホで連絡を取っていた。俺は丸まってウトウトしていた。


(俺たちは勝てたが、琴音の方は無事だろうか。近くにいたら簡単な感情や感覚が伝わってきたが、離れるほどにそれが薄れていった。ああ……早く会いたいな……)


 なぜ、そんなことを思ったのだろうか。

 俺の無意識下に心の底で思っている本音が出たのかもしれない。

 だが、薄れゆく意識で認識したこと。自分の本当の気持ちに気がつくのは、もう少し先になりそうだ。


 そして俺は、意識を手放した。



###



「よし、あとは帰るだけか」


 慧一オレは先生に連絡を済ませ、自分のバイクの所まで戻ってきたのだが……


『すー……すー……』

「……寝てやがる」


 子供の姿になった零太郎が、オレのバイクの上でスヤスヤと眠っていたのだ。


 零太郎を連れて帰る方法。

 縛り付けて帰る? 流石にアウト。

 バイクのシート下の収納スペースに入れる? それもアウト。拉致してるみたいで嫌だ。


「はぁ……やれやれだ」


 零太郎をそっと持ち上げ、オレがバイクに座る。そして、前に抱えて運転を開始した。

 本来ならこんな運転ダメだが、こいつは幽霊で見えていないから問題ないだろう。


 それに、コイツはもう恩人になってしまったし、置いていくわけにはいかないし。


「あっちは無事だろうかな……」


 オレの独り言は、夜の闇と摩擦音で消え去った。

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