第19話 [神速vs爆速]

 燃料がない? 速さがない?

 だったら俺がバイクに乗り移ればいい……ってコト!? という安直な考えを見事成功させた俺。


 速さに特化したこのバイク状態だと、燃料の代わりに俺の霊力が減らされるみたいだ。


『超加速したい時は声かけろ。無駄撃ちはできない』

「了解した」


 アクセル全開でジェットババアを追いかける。

 あのばあちゃん、さっきから伏魔に対して恐怖心を抱いているようだな。全然取って食おうなんて気がしない。


「おい、! 地面すれすれにバイク傾けれるか!」

『え? できるけどなんで……』


 すると、ジェットババアは道路の脇にある明かりを蹴って倒し、道路を塞いできた。


『そういうことな! 俺から手ぇ離すんじゃねぇぞ!』


 自分の体バイクを横に傾け、地面すれすれで火花を散らしながら避ける。


『危ね〜っ。こんな演出ゲームでしか見たことないな』

「オレの霊術は〝少し先の未来を見ることができる〟。だからお前はただ全力で走っておけ!」

『心強いなぁ! 任せたぜ!!』

「あいつに考える時間を与えるな! 今いけるか!?」

『よしわかった、ぶっ飛ばすぞ! !!』


 ついさっき慧一から言われた言葉をそっくりそのまま言い返す。


 ロケットエンジンが蒼く輝き、一気に噴射。ジェットババアの背中にタイヤがめり込み、吹っ飛ばした。

 だがすぐに態勢を立て直して足裏が爆発。また距離を取られてしまう。


「何回か当てれば祓えそうだな……。もっとタイヤに霊力込められないのか?」

『無理だ。これ以上込めるとパンクするって感じがする』

「成る程」


 幸いにもバイクのスピードとジェットババアの逃げ足は同じスピードだから、足裏爆発を連発で使われない限り逃げられることはないだろう。

 だがこのままじゃジリ貧だ。ゴリゴリと霊力が削られていっている。


 トンネルに入り、周囲が狭くなる。

 前を走る車を次々と抜かすジェットババアを追いかける。おそらく時速100キロはとうに超えているだろうし、未来が見えるコイツができる運転テクニックだろうな。


「ッ! 前を走るトラックのタイヤをパンクさせて、トンネルを塞ぐぞ! どうする!」

『……! それは……』


 どうするどうする。考えろ俺。

 薄暗い、狭い、封鎖、トラック、トンネル……いや、なんとなくだがここで頭脳戦をするのは違う気がする。


 脳を筋肉に! ぱわぁー!!!!


『脳筋戦法でいく! ここはトンネル、ならば……ぜ!!』

『キキッキキキシャァアアア!!!』


 慧一の言った通り、ジェットババアはトラックのタイヤをパンクさせて、車体が横を向いてトンネルを塞ぐ。

 このトンネルの形は四角形ではない。だから壁を走れます!(暴論)


『アクセラレ〜〜ションッッ!!』


 バイクを一旦右に寄せてから、超加速を使って一気に左の壁にタイヤをつけて壁を伝って天井へ。そして右側の壁から再び道路に戻る。

 だが……熱いな……。


熱暴走オーバーヒート……! チッ、超加速はもう連発できないぞ……』

「何回ならいける」

『二回。それ以上は使えない。どうする慧一……!』

「……そうだな。一回目であいつに全力で近づけ。オレが足止めをしておく。今のオレに奴を倒すパワーは使えない。二回目で全部込めてババアに突撃しろ!」

『だが今までのやり方だったら同じになるぞ。どうする』


 一瞬考え込む。


「オレよりも慧次おとうとの方がより先の未来を見れる。より先の未来を見て、先回りする! 弟にかわるから、よろしく頼む」

『なんだその結婚相手のお父さんへの挨拶みたいなの。……って、前にもこんな話ししたような……』

「今はそんなこと考えている場合じゃない。あのクソババアを倒せれるなら……」

『…………』


 慧一は妙にジェットババアに詳しいし、恐ろしさもわかっていたようだったな。過去に、何かあったのだろうか。

 まあ何はともあれ、あいつを倒さなければ何も始まらない。

 祓ってみせる!


「変わるぞ」

『オーケーだ』


 目を瞑り、5秒待つ。

 カッ、と瞳孔がガン開きの瞳があらわになり、白い歯を見せつけてくる。


「オレの兄ちゃんが信じた奴ならァ、オレも信じるぜェ〜〜!!」

『期待には答えないとな。どんと信じてくれ! ぶっ飛ばすぞ慧次!!』

「っしゃァア!!!」


 ロケットエンジンは再び蒼く輝き、一気に噴出する。闇に光る蒼き残光は次々と車を追い越し、ついにジェットババアの真後ろまできた。


『ッィィキイィィィィ!!!』

「あいつ上空に飛びやがるなァ! 逃がさねェ!!!」

『おい慧次!!』


 ジェットババアが足裏を爆発させて一気に空中に飛び上がると同時に、慧次も一緒に飛び上がる。

 これがラストチャンスか……だったらもう、全部出し切る……! ラスト一回の超加速だ!!!


『キキッキギギギィァィ!!』

「よぉクソババア! オレはテメェを倒す力を出すわけにはいかねェんだ……。だから足止めだァ! 零太郎に全部任せる!!!」


 ズズズと慧次の両腕が真っ黒に染まり、そこから黒い縄のようなものが飛び出してジェットババアを捕らえる。

 チャンスを掴みとる。圧倒的な速さで!


『全開だァア!!』


 方向転換をして、先が曲がっている壁……もとい遮音板に向かって超加速をする。壁を一気に登り、先端で空中に放り出される。

 だがロケットエンジンの超加速により、ジェットババアに向かって一直線だ。


「いっけぇええええ零太郎――ッ!!!」


 ジェットババアを前輪で捕らえるとすぐに慧次は離し、そのまま空を飛び更に加速。


『流れ星に助けてって願っておきやがれ! その星になるのはテメェだけどなぁ!!!』


 俺の霊力を全部を込めて、近くの林の地面にそのまま叩きつける。

 ゴォオオオンと轟音が響き渡り、砂が舞う。


『はぁ……はぁ……』

『グ……ギァ…………』


 サラサラとジェットババアの姿は消え、塊のようなものだけになった。


『勝っ、たぁ……』


 霊力全てを使い果たして、なんとか勝利できた。

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