第15話 [退魔依頼]

 除霊師の中でトップに立つ男もとい、星乃繋太先生について聞きたいことは多々あるが、すぐに教室から立ち去ってしまった。

 霹靂かみときにも聞こうと思ったが、幽霊の俺が話しかけに行ったら迷惑になるだろうとして諦めた。


 そして時間が経ち、昼放課となった。


『一年A組の神々𢌞ししば琴音さん、霹靂美紅さん。第2物理室までお越しください』


 教室に設置されているスピーカーからそう放送された。


『やらかし案件か?』

「ないと思うけどねぇ……。自覚無し案件かも」

「琴音、呼ばれたからには早急に参るぞ」

「はいは〜い」


 霹靂に急かされ、放送で言われた第2物理室まで向かった。

 呼ばれた部屋の扉をノックしたあと、その部屋に入る。するとそこには、あの数学の先生がいた。


「よくきてくれたね、まあそこに座ってよ。

『ッ! ……はい』


 丸メガネ越しの琥珀色の瞳でしっかりと俺を捉えていた。言われた通り、大人しく二人と一緒に肩を並べて座る。


「さて、君たちに集まってもらったのは他でもない、零太郎くんについてだよ」

『お、俺ェ!? 悪いことはなんもしてないはず……ですよ!?』

 

 先生は急須に入っていた緑茶をコポコポと淹れ、俺たちにそれをドーナツと一緒に差し出してきた。


 なかなか気が効く先生だ。しかもこのドーナツは行列ができるほど人気なものだった気がするが、わざわざ並んだのか?

 そのドーナツに目を輝かせる琴音は言うまでもないだろう。


「まあ……悪いってことではないよ。零太郎くんと琴音さんがした憑霊儀式は、一昔前だったら問題になってた禁忌行為だけどね、今は大丈夫だよ」

「じゃあなんで私たちをここに呼んだんですか? まさかその古臭い習慣にのっとって零太郎を祓うとかじゃあないですよねぇ……」


 ドーナツをムシャムシャと食べながら、琴音はそう答える。


「そんなことはしない。けど、やっぱり問題なんだよ。だから先生から提案があります」


 ズズッとお茶を啜り、メガネをくいっと上げてからこう言い放った。


「琴音、零太郎。君たち二人の強さ・安全さ・有能さを示してほしい。そしたら、文句を言う奴ら全員僕が黙らせるからね」

「成る程。しかし具体的にはどうやって示すのですか?」


 霹靂がそう質問する。

 一体どうやって強さを示すのだろうかと俺も思いながら、二つ目のドーナツを頬張る琴音を横目で見た。


「零太郎くん。この学校の正体について、二人から聞いている?」

『え? 普通に偏差値が少し高めの高校じゃないんですか?』

「この神里高等学校の表ではそうなってるね。けど裏は除霊師の育成高校で、霊に関する授業とかも特別にあるんだ。ちなみに僕がこの高校牛耳ってるよ。いぇいいぇい」

『えぇ……』


 ピースしながら軽く衝撃の事実を伝えてくる。

 【悲報?】入学した高校が普通じゃなかった件。


「丁度この高校の近くに悪霊がいてね、それを君たち二人が、入学してきた他の二人と協力して祓って欲しいんだ」

『わかれてなんですか?』

「うん。君たち二人が憑霊師として戦った大会は見てたから、個人がちゃんと実力あるかを見たいんだ」


 琴音は大丈夫だろうか。いや、目を貸すくらいなら許してくれるだろうし、貸したら強いからな。


「む……私は何をすれば良いのですか?」

「美紅さんはその四人の作戦が失敗したら代わりに祓ってもらうよ。君は昔から退魔任務をこなしているからね」

「承知しました」


 他の二人、か。まあ除霊師を育成するところなんだから、他にもいるってことか。俺のクラスには琴音と霹靂以外いないっぽいな。

 登校中にばれなくてよかったのかもしれない。もしかしたら祓われていたかもしれないし。


「あと……例太郎くんは憑霊師の幽霊側としてではなく、本来ならばこの高校の一員となるはずだったんだよね」

「零太郎、確かトラックにはねられて死んだんだっけ? むぐむぐ……」

『そうだ。……ってか、琴音」

「んむ?」

『ドーナツ食いすぎだ』

「あぅ」


 ビシッと額に軽くチョップを喰らわせた。小動物のような鳴き声をあげ、さすさすと額を自分で撫でている。

 霹靂は行儀よく、背筋を伸ばしてお茶をゆっくり飲んでいた。琴音とは大違いだ。


「それでだけどね、君たちを認めることができても、できなくても、零太郎くんをこの高校に通わせようと思っているんだ」

? でも無理でしょう? 普通の幽霊が見えない人も通ってるんでしょう?』

「その件なんだけどね、実は

『ハッ!!? えぇぇえええ!!?? マジすか!!! 先生最高ォ!』


 俺が『WRYYYYY!!』と喜びをひしひしと感じている中、霹靂は冷静に先生に話しかけた。


「それは、あの〝神々の亡骸〟と呼ばれている代物ですよね。彼に使ってもよろしいのですか」

「古臭い習慣はもう無くしていくからね。お払い箱になったクソジジイどもの嫌がることばっかしてやるんだ」


 ニヤッと不敵に笑ってみせる先生。一体、一昔前のこの組織はどんなものだったのだろうか。


「さて。それじゃあ確認だ。言っておくけれど、この界隈では命がとても軽い。試験で命の危機になるなんてよくある話だ。それでも、やるかい?」


 メガネをクイッとあげて、俺たちにこう伝えてくる。

 ちょうどドーナツを飲み込んだ琴音とアイコンタクトをして、こう答えた。


「『もちろん』」

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