第13話 [激戦の裏側と感情の芽生え]
「もう……むり、だ」
「『こ、琴音ぇーーっ!!』」
バタンと床に倒れる琴音。ここに長居するのは流石に危険だな。
『早く外に出るとしよう。お前は歩けるか?』
「……す、すまない。目眩でうまく歩けなさそうだ……」
『うーん。んじゃあ背中にしがみついといてくれ。琴音は前で持つから』
「えっ……。し、しかし私は……」
顔を赤らめてもじもじしている。だか早くここから出ないといけないから急かす。
『いいから早く乗れ。敗者は勝者の言うことを聞いてもらおうか』
「そ、そうか……。かたじけない」
琴音をお姫様抱っこし、カミトキは背中にしがみついている。背中からの弾力が、琴音をおんぶした時よりも凄まじい。
……あれ? なんか今、すごい幸せ……ッ!
『あ、これはもう戻しとくか』
「……成る程。私の目眩の原因はそれか」
部屋の蒼炎の海を消すと、次は真っ赤な炎の海になった。
『そ。俺の蒼い炎で、琴音の
お前が「焦げ臭い」って言った時はガチで焦ったぜ』
「体からの発火かと思わせ、勘違いさせていたというわけか。私に目視で確認させないのも計算済みというわけなのか?」
『まあな。正直賭けだったけど』
〝電撃使い〟ということで、俺はとある生き物を思いついたのだ。
『〝デンキナマズ〟。そいつは視力が悪い代わりに、10
戦闘経験豊富そうだし、お前にもそういうことができるんじゃないかと思ってな』
「本当に全て見透かされているようだな。……そういえば名を聞いていなかったな。私はか霹靂美紅だ。
『俺は青天目零太郎だ。青い天の目でナバタメだ』
「ふふ、そうか。良い名だな」
初めて笑った気がするが、あいにくおんぶをしているため表情は見えなかった。
『……さて、ここくらいまできたら大丈夫だろ』
琴音を近くにあったベンチに寝かせる。
『そんじゃ、なんで琴音を除霊師からやめさせようとしたのか聞かせて欲しいんだが? 話してわかったが、お前普通にいい奴だろ』
「うむ、わかった。まあ、琴音は私の幼馴染で、大事な存在だったんだ。だから、幽霊が見えない除霊師というあまりに危険なことをさせたくなかったんだ」
『なるほどな。確かに、俺もお前と同じ立場だったらやめさせてたかもしれない』
最初は強めの性格かと思ったが、今ではまっすぐな心を持った人という印象が焼き付いている。
「琴音の意識がしっかりしている時に、このことを伝えてやってほしい」
『? 自分で伝えればいいだろ?』
「いや、私とてきちんとけじめはつける」
『べ、別に大丈夫じゃないか……? 琴音も許してくれるって』
一体何をするつもりなのだろうか。
カミトキはその場で正座をし、どこからか小太刀を取り出す。
まさかとは思うがな……。嫌な予感がビンビンする。
「腹を切ってお詫びさせてもらう!」
『待て待て待てェエ!! さっきから思ってたけどそこまで武士にならなくていいんだよ!!』
「情けはいらぬぅ!」
『キャ〜〜! 服を脱がないでくださいまし! 破廉恥ですわ〜!』
おもむろに軍服と、その中に着ていたシャツのボタンをブチィッと引き裂き、小さいヘソとサラシが見えた。
サラシを巻いていて琴音と同じくらいのサイズということは、さらにでっk……いや、やめておこう。
「そこで私の勇姿を見ておいてくれ、零太郎! 今からこの小太刀で[
『グロすぎるからやめろ! モザイク必須になっちまうだろうが!!』
どうにかして霹靂を止めなければ、閲覧注意の光景になってしまう!
『琴音! あいつをとめる方法を教えてくれ!』
「んぁー……ぅー……」
『こっちはもう止まっとるんだったァーーッ!』
オーバーヒートしており、唸ることしかできていない。やはり俺がどうにかするしかないみたいだ。
考えろ……! 朝っぱらからあのスプラッシュな光景など目にしたくないぞ!
なんとかして止めさせるには……そうだな。こいつは武士っぽいし、思ったことをまんま伝えたらやめさせられるかもしれない。
『待つんだ霹靂ッ!!』
ドドドドド、という効果音を発してポーズを決める。
『霹靂、俺はお前が切腹したら困るんだ』
「なっ……!? 何故だ!?」
『俺はアニメや漫画をこよなく愛す者。そしてその中で、ヒロインなどが傷つくシーン……あれはストーリー上仕方ないと思っている。しか〜しッ! 俺は胸が痛いんだ!!』
「それとこれに何の関係が……?」
『まだわからないのかッ!』
ビシッと指を指し、こう言い放つ。
『お前は可愛い! そんなお前が自ら腹を切り裂く光景なんか見たくないんだ!!』
「へ……!? ばっ、馬鹿者! 私をからかうのは大概にしておけ!」
『からかう〜? 認めないなら何度だって言うぜ。可愛い!!』
自分の腹に向けていた小太刀は向きを変えている。
良い感じだ。この調子でハラキリをやめさせられそうだな。
「わ、私は、可愛いと今まて言われたことがないぞ!」
『みんな恥ずかしくて本当のこと言えなかったんだろ』
「よく生真面目と言われるし!」
『真面目な子は好印象だぞ?』
「き、鬼神で角生えているし!」
『俺は亜人系の中で一番鬼っ娘か好きです』
「腹筋もちょっと割れてるぞ! ほら!」
『全然いける!! エッチ!!』
「ななな、何を言っているのだ貴様ぁ!!?」
俺が言葉を返すたびに霹靂の顔は真っ赤に染まって行き、耳まで赤くなっている始末だ。
そしてとうとう恥ずかしくなったのか、軍服でお腹を隠し、勢いよく立ち上がる。
「も、もうわかったから! 覚えておけ零太郎!」
『はいはーい。転ぶなよー』
脱兎のごとく逃げ出す霹靂。
『はぁ……。朝っぱらから疲れた……』
こんなに波乱万丈な朝は久々だなぁとしみじみと思う俺と、熱さで何も考えられない琴音と、顔から火が出る勢いの霹靂であった。
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