第9話 [襲来]

「ったく、なんで朝っぱらからこんな大会が開かれてんだよォ〜……」

「全くだぜ」


 フラフラと街をぶらつく二人の男。彼らもこの非公式大会に強制参加させられた者のうちの一部である。

 愚痴をこぼしながらも、悪霊を探している。


「主催者は誰なんだ」

「あの〝霹靂かみとき家〟の長女らしいぜ」

「あの!? なんでまたそんなことしたんでぃ」

「風の噂で聞いたんだが、どうやらあの𢌞を排除したいらしい」

「あ〜、なるほどな。性格悪いったらありゃしねぇなぁ。顔とスタイルだけはいいが、どっか男っぽいし、堅物だし、可愛らしさがねぇんだよなぁ」

「おいやめとけ。聞かれてたら殺されるぞ」


 緊張感なく歩みを進める。


「なァ、もし神々𢌞家の落ちこぼれが本当に排除されたらどうするよ」

「どうするって、何かするつもりなのか?」

「いいこと思いついたぜェ……。アイツ、落ちこぼれだが顔も体も超サイコーだろ? だから『除霊師に戻してやる』っつったらよぉ、なんでも言うこと聞かせられるんじゃねぇか?」

「お前……ッ! 天才だな。一枚噛ませてくれよ」

『ァア゛……』

「は? んだその腑抜けた返事は」

「あ? 何も言ってねぇよ。今のはそっちらへんから――」


 謎の声が聞こえた方向に顔を向ける。するとそこには、黒い靄を纏う悪霊の姿が。


「「うわァアアアアアア!?!?」」


 驚いた男二人は腰を抜かして尻餅をついた。


「おま、お前早くなんとかしろよ!」

「どこにしまったか忘れたんだよ! お前がしろやボケ!!」

『ヴァアアアア』


 もうおしまいかと思われたその時、


「仮に私が除霊師やめさせられたとしても、君たちみたいな腰抜けには絶〜っ対ついていかないねぇ。〝かい火式かしき〟」

『ヴガァァア!!!』


 軽やかな声が聞こえだと思えば、悪霊が火に包まれて消え去った。二人が下に見ていたあの落ちこぼれ――琴音が、除霊したのだ。


「私はもう落ちこぼれじゃあないんだよ〜っと」

『うし、こっちも除霊できたぞー。……ん、まだ二匹いたか』

「「ひぃぃぃ!!」」


 後からやってきた零太郎が拳に蒼炎を纏わせ、二人を塵芥を見ているかのような目を向けると、二人は恐怖の声を漏らす。


「零太郎、そいつらは確かに悪霊みたいに性格悪いけど一応人間だよ」

『なんだ。ポイントたまると思ったのになぁ』

「まあまあ、今のところ私たちが一位だからいいじゃん!」

『んじゃ、また探しに行きますか』


 踵を返して男たちから離れようとする零太郎。


「私はもう弱くない。彼がいるからね。ばいび〜」


 ひらひらと手を振って零太郎を追う琴音。

 男二人組は、悔し涙を流すしかできないのであった。



###



 琴音は今までの鬱憤を晴らすかの如く、悪霊をバンバン除霊している。そのおかげで俺たちは現在一位である。


「強靭ッ! 無敵ッ!! 最強〜〜ッ!!!」

『琴音鬼つええ! このまま歯向かう悪霊やつら全員ぶっ祓っていこうぜ!!』


 なかなかに調子が良く、少しハイになっている。


「いや〜。やっぱり君に出会えて本当に良かったよ! 今日はご馳走にしない?」

『外食でもするのか?』

「いんや、君の」

『俺が作るのかよ……』

「だって君の料理が美味しいから……」

『うぐぅ……。作っちゃう』

「やた〜!」


 そうおだてられると作りたくなってしまう。俺はちょろい男なのかもしれない。

 駄弁りながら街を歩き回っていると、集団で行動している悪霊に出くわした。


『幽霊って群れるのもいるのか?』

「孤独などを感じながら死んだ者は群れやすい傾向にあるねぇ」

『幽霊にも色々あるんだな』


 ふーん、と思いながら、叫んでこちらに向かってくる悪霊に目を向ける。


「う〜ん。私に入って全部焼却するのもアリ」

『なるほど。じゃあ――』


 ――


『ッ!?』


 悪霊からは感じられない、生々しい殺気を感じた。瞬時に琴音を押して距離を取ると、発砲音と、地面が抉れる音が響いた。


「っ……。な〜るほど。この大会はPvPがあるから、わざわざ潰しに出向いて来たってわけだ」

『そんなルールもあったのかよ……』


 俺たちはビルの屋上にいる、黒い軍服に身を包んだ者を眺める。そいつは手に持っていた狙撃銃を外套と服の間にしまい、ぴょんっとそこから飛び降りる。

 足がチカチカと光っているような……。


「ちょっとまずいかも。零太郎! 霊力で全身をガードして!!」

『が、ガード!? やり方わからないんだが!!?』

「こうっ、ぐぃぃぃ〜〜っとだ!」

『そんなんでわかるかァーーッ!!!』


 なんとなくでガードをする。

 屋上にいた者が地面に着地をした途端、紅い閃光が走り、悪霊が感電して塵となった。


『痛ッ! ビリっときたあああ!!』

「Fu〜! 相変わらずえげつない力だねぇ」

『いたた……。知り合いだったりするのか?』

「うん。彼女は霹靂美紅みく。私の幼馴染さ。私と同じ有名除霊家の一つでもあるよ」

『知り合いなのに本気で殺そうとしてないか?』

「多分特殊な結界内だから、死んでも出たら元どうりになるようになっている。だから彼女も全力なんだろう」


 ギロッと俺を睨む紅色の双眸。先ほどの雷、まともに食らっていたら本当に危なかったかもしれないので、少したじろぐ。

 軍帽から二本のツノが生えているが……琴音と同じようなお守り的な物なのだろうか?


「一人祓い損ねたか。しかし貴様、本当にただの幽霊か?」


 俺にそう質問してくるカミトキとやら。


『昨日死んだばかりの幽霊だっつーの』

「まあいい。去るべき者は去れ」


 腰につけていた拳銃を瞬時に構えて発砲。射線的に頭を狙っているらしかったので、首を傾けて避ける。

 ……が、耳に少しかすり、そのなくなった部分から炎が出る。


 琴音に憑依するには体に触れなきゃいけない。今は離れている状況だからできないのが厳いな。


「……馬鹿げた反応速度なのか、弾道を予測している? それに面妖な炎ときた。やはり只者ではないか。ならば全力で殺させてもらう!」


 銃口が煌き、紅雷がバリバリと漏れ出していた。


「相変わらず躊躇がないね! 零太郎!! 私らも全力だ!!!」

『わかってる!! 手を伸ばせぇ!!!』


 二発放たれる雷の弾丸。それが着弾する直前に俺たちは手を繋いだ。蒼い炎が身を包み、一つとなる。

 弾丸はジュワッと音を立てて消え失せた。


「さぁ〜て! 本気でいかせてもらうぜぇ……!!」


 刀を握り、獣のような右頬の傷跡と、頭の左側から吹き出る蒼炎。前髪をぐいっとかきあげ、笑みを浮かべてみせた。


「なっ……!? 憑霊師、成る程。通りで幽霊が見えない万年伍級の琴音が一位を独占しているわけだ」

「別にルール違反ではないよな。俺たちは二人で憑霊師なんだよ」

「うむ、全くもって問題ない……が、試させてもらおう。貴様がどれほどの力を持っているのかを」


 拳銃をもう一本取り出し、二丁拳銃のスタイルになる。俺も刀を構え、臨戦態勢だ。


「弱いと分かれば、すぐに貴様を葬らせてもらう」

「悪いがその期待は裏切られることになるだろうな。俺たちが勝つ」


 口角を上げ、刀の先をカミトキに向けた。

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