第8話 [実は最強でした!?]
制服に身を包んだ琴音は、玄関で靴を履き替える。俺は足がないからそんな必要はない。悲しい便利さである。
「さてさて、いざ参ろうか!
『大袈裟だろ。俺今日は学校探索したいから早く行こうぜ』
ガチャリと扉を開け、外に出る。
『……なんか、曇ってるな』
「う〜ん。それよりなぜか、結界が反応しているのはなんでかな?」
『え? ――あっ』
壊れかけの門の外から、ガンッガンッ、と見えない壁を叩く人影。俺と同じく足はないが、炎は吹き出ていない。
『今にも漏れる〜って言ってそうな悪霊らしき奴が叩いてるな。けど、この曇った天気……デジャヴを感じるんだが?』
「こんな広範囲に地縛霊の領域に入っている……? いや、特殊な結界内にいるのかな。ちょっと待っててね」
そう言ってスマホを取り出し、何かを確認するや否や、驚きの表情に染まった。
『何か問題発生か?』
「問題どころか、大問題さ。私が所属している、幽霊を専門とする組織――
『大会? それが問題なのか?』
「んまぁね。この大会で一番ポイントを稼げなかった者、もとい最下位の者は階級をワンランクダウンするらしい」
『ちなみに琴音はその階級? ってのは、いくつなんだ?』
俺が率直に疑問に思ったことを質問すると、彼女のジト目から送られる視線が突き刺さる。
「階級、組織では
『聞いた俺が悪かった……。すまん』
「ちなみに幽霊にもレベルみたいなものがあってねぇ、
『ん……?』
となると、俺は強さでいうと一番下か、下から二番目の強さってことになるのか!?
俺……弱すぎっ!?
『ゴメンネ……弱くて……』
「う〜ん……けど君の強さは明らかにそんなところで収まる者じゃないと思うんだ。しかも普通だったら足は透明なのに、なんで君はバーナーになってるんだい?」
『それは俺も聞きたいんだが。好きで炎出してるわけないだろうが』
琴音はコホン、と軽く咳払いをし、話を戻した。
「さて、この大会のルール上だと、私が最下位になった場合、除霊師をやめさせられることになっちゃうんだ」
『それは確かに大問題だな』
琴音は手を顎に当てて少し考える。そして、ニヤリと口角を上げた。
「……いや、やっぱり前言撤回さ。このピンチは、大チャンスに変えられるよ!」
『ほ〜? どうやって?』
人差し指が俺に向けられる。
「なんせ今、私は一人じゃない。君がいるじゃないか!」
『! そういえばそうだった!』
昨日、早速悪霊を倒したじゃないか。右も左もわからない状態だったのにもう功績を挙げている。
「この大会、誰かが私を陥れようとしているみたいだけど、残念だったねぇ〜」
『そんじゃ、暴れまわるか?』
「ちょっと試したいことがあるんだ。零太郎、君の目、貸して」
『…………へ?』
いくら死んでいるからと言って、俺の目を穿り出して自分のものにする気なのだろうか。
琴音の考えがとても悍ましく、ガタガタと震えだす。ノー、スプラッタ。
「んなっ!? 絶対君勘違いしているでしょ! なんというか、う〜ん、説明が難しいなぁ。入れ替えるみたいな。ぐっ、とやってずずずみたいな」
『もしそれでわかるんだったら、世界に言葉はいらねぇ』
貸すんだよな。なんとな〜くでやってみるか。
目を閉じて、ぐぐっと力を込める。たちまち琴音の琥珀色の右目だけ変色し出し、すっかり青色になった。代わりに、俺の右目は琥珀色だ。
『どうだ?』
「おお〜すごい! 本当に今にも漏れそうってくらい結界を叩いてる悪霊が見えるよ!!」
試しに俺の左目を隠してみる。悪霊の姿は見えない。成功のようだ。
『でもこれで何をするんだ?』
「ふっふっふ、まあ私の勇姿を見てなよ」
『え、おい!』
懐から
「ほいっと!」
悪霊が力任せに腕を振るうのに対し、琴音蝶のようにひらりひらりと舞って避ける。
御札を貼り、人差し指と中指を立てると、一枚だったものが何百枚と増え、縛り付ける。
「〝
『グォオオオオオオ…………』
ただ一言、そう呟くと、光の粒となって消え去った。
『えっ……強ッ……』
「にひひ、私は霊が見えないだけで、運動神経抜群だし霊力も強い。祓い方もたらふく持っているんだ〜」
『霊が見えることが一番大事だけどな』
「うぐぅ……。痛いところをつかないでくれよ」
俺が琴音に憑依して、ただ体を貸してもらうだけだと思ったが、どうやら違ったみたいだ。
二人で戦える。
「体を渡して零太郎にずっと戦わせるのはなんか違うかなって思うしね。私も戦うんだ」
『成る程。お前いい女だぜ』
「さて、最弱除霊師の快進撃を始めようか」
『ああ。登校前に一暴れしますか!』
見せつけてやるとしよう。いずれ最強となる俺たちの力を。
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