第5話 [憑依形態・蒼炎]

『バカ言うな! 相性が合わなかったら死ぬんだろ!? 無謀な賭けだろ!』

「確かにそうだね。相性がぴったりと言ったけれど、実際には一人の幽霊と適合する人間は世界でたった一人」

『だったら尚更……』

「私たちが運命の2人だと信じようよ。ロマンチックだと思わない?」


 俺がアイツに勝てる可能性もだいぶ低いだろう。けど神々𢌞さんが言っているのよりは高い確率のはずだ。

 どうやって説得したらいいんだ……。


『さっき言ったように、俺は人を信じられない』

「信じなくたっていいよ。これは私が選択しようとしたこと。君に一切の責任を負わせない」

『でも……俺は――』


 初めて神々𢌞さんに名前を呼ばれ、バッと顔を上げると、歯を見せて笑う神々𢌞さんの顔が目に入った。


「死んだら死んだでいい。零太郎、最後に私を信じて」


 絶対に大丈夫と言わんばかりの笑顔だ。一体どこからそんな自信が湧いて出てくるのがわからない。けど、心が動き始めていた。


「私は君を利用してる。除霊師のトップに立って、叶えたい夢があるんだ。こらじゃフェアじゃあないよねぇ。だから、君も叶えたい夢を言ってくれよ。絶対私が全力で叶えるから」

『俺は…………。このまま幽霊は嫌だ。

「にひひ。その夢、絶対私が叶えるって約束するよ……!」


 ――信用かけをしてみたくなった。


 そうさ、死んだら死んだでいい。俺は最後まで哀れなやつだったってわけだ。お互い合意なら、一発逆転を狙ってみたい。

 ニィッと俺も口を三日月型にして前を向く。


『死んでも恨むなよ――

「その時は、来世で笑いあおうよ――零太郎」



###



『話は終わったのかぁ?』


 スタスタと悪霊に向かって歩く琴音。中身は俺だから、目は青くなっている。


「まあな。ここから俺たちが出られないことを知ってたからあえて泳がせてたみたいな感じか?」

『そうだぜぇ〜。だがもう、かくれんぼはもうおしまいにしようや。次は鬼ごっこの時間かぁ?』

「いんや、その必要はない。なぜならお前を倒すからな」


 俺がニッと口角を上げると、悪霊は顔を歪めた。


『ああ、そうかよ……そんなに死にたいならさっさと殺してやるッ!!』


 腕元に付着していた血液が先の尖った触手のように動き出し、それが勢いよく俺に向かって突進してくる。


『この血たちは俺が殺した人間の血だ! お前も仲間入りさせてやる!!』

「死に方は俺たちが決めさせてもらうから拒否するねぇ!!」


 果たして、運は俺たちに味方してくれるのかね。

 そんなことを思いながら、手の中心に力を込めて、一気に解き放った。


 ――ッドォォオオオオン!!!


 一瞬、世界が白くなった直後に、あたりが轟音に包まれ、青い炎がゆらゆらと揺れていた。


『は……? 何が起こった……。爆発? ガハ、自爆した? がはははは!! 愚か!! 実に愚かすぎだ!! がっはははははは!!!』


 パチパチという炎と、悪霊の奇声が上がる。が、それを切り裂くものがいた。


「――愚かって、自己紹介してくれてるんだよな?」

『ッ!? チッ……死んでなかったのかよ……!!』


 先ほどの五倍。血の触手が炎の中にある影を目掛けて突進するが、スパッとすべて切り落とされる。


「いや〜、死んだと思ったやつがまさか大覚醒するとは思ってなかったか〜? 愚か悪霊さん??」

『こンの……! 最近死んだばかりのポッと出幽霊がァ!!』

「生まれた時から人生ハードモードの舐めんなァ!」


 先ほどの皿や棒状のものなどとは比にならないほど精巧な刀で炎を切り裂く。

 炎の中から現れた彼女の姿も、少し変わっていた。


 頭の左側と腰あたりから吹き出る炎、そして右頬には青い人魂のような痣が二つ並んでいるのは獣の耳や尻尾のようだった。

 人とは思いない容姿なりをしている。


『テメェみたいなガキが刀なんか一丁前に構えちまって。どうせ使えないんだろぉ?』

「そんじゃ――今から検証してみますか」


 刀を鞘に収め、持ち手に手を添えながら左腰に当てる。腰を中腰にし、大地を踏みしめる。


(あ、あの感じ……本当に何か習ってたようだな……。だったら正々堂々なんてやらねぇ。後ろから刺す!)

「ふーん。隙与えてこれかぁ……」

『あ、当たらないッ!? いや……!? まさかあの炎……!!?』


 俺の後ろから飛んできた血の槍は、突き刺さる直言にドロッと溶け出した。


「せいぜいこの程度だったってわけだな。今度は俺のターン……もとい、最終ターン。終わりにしようぜ」

『ちょ、待っ――』


 足に力を込め、それを一気に吐き出す。蒼い光の筋が悪霊を貫いたように見えただろう。

 一瞬にして悪霊の背後まで移動した俺は、刀を大地と平行にしながらゆっくりと鞘に収めて行く。


「これから喰らう俺の炎と、これから向かう地獄の炎。どっちの方が熱かったか、星5のレビュー送ってくれ感想聞かせろよな」


 空刀技うつろとうぎ――〝水天一碧すいてんいっぺき〟。


『グァァアアアアアア!!!!』


 悪霊の体にできた横一線の切り傷から炎が吹き出て、灰となって消えた。薄暗い空は、氷が溶けてゆくように、元の色に戻っていった。


「やれやれ……。一件落着だな」


 ただ一回、ため息をついた。

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