第2話 [美少女の正体]
『なぁ、見えてるし聞こえてるんだろ?』
「…………」
『ちょ……無視は辛いって。朝から誰とも話してなくて心寂しくて死にそうなんだよ。……あ、死んでたわ』
シシバさんの周りをぐるぐると回っている。会話のキャッチボールはまだできておらず、俺が一方的には仕掛けているだけになっていた。
そんなこんなでチャイムが鳴ると同時に、シシバさんはガタッと席を立ち、スタスタと教室を後にしようとする。
『ど、どこに行くんだ? これからは確か入学式が体育館であるぞ? おーい!』
「…………」
『どうしたんだ? 急に立ち止まって』
と思いきや、グリンッと顔をこちらに向けた。
『わっ』
「君ぃ……。『話して』って言われてもあの場で君と話してたら独り言がやばい変人に思われてクラスで孤立する。そうは思わなかったのかい?」
俺の瞳を確かに覗きながら、至極真っ当なことを淡々と告げられる。
『あ、はい……。正論パンチクリティカルヒットで効きました。すみません』
「にひひ。わかったならよい!」
ニパーッと花が咲いたような笑みを見せてきた。
『寛大な心で助かる』
「それで、何か用があったの?」
『いんや、特に。クラスで唯一見えてるのが君だけだったから』
なんだか、人と話すのがもう懐かしいような感覚がする。少し楽しくなって、俺は彼女に質問をした。
『そういえば、シシバって漢字はどうやって書くんだ?』
「神々が𢌞るだよ」
『変わった苗字だな』
「そういう君のナバタメは?」
『青い天の目』
「君も大概変わってるねぇ」
もう少し話したかったが、神々𢌞さんがいきなり俺にこうカミングアウトしてくる。
「私、実は〝
『……ゑ?』
「それで、今から君を祓おうと思うよ」
懐からお札を取り出し、ゴゴゴ……という擬音が発せられていそうな目つきで俺を見下す。
『えぇぇぇ!? い、いやだ! わしゃあまだ成仏せんぞ!!』
「……と思ったんだけど、君の話はもう少し聞きたい。だからとっておくことにしよう」
『執行猶予ッ!? それはそれで恐ろしいんだが……』
尻餅をついて怯える俺に対し、神々𢌞さんはちょこんとしゃがむ。そして可愛らしく小首を傾げ、銀色の髪を揺らした。
「お話し、聞かせてもらえる?」
『尋問開始というわけか……』
「尋問じゃないよ。えーっとね、まず君は何ができるのかな?」
投げかけられたのは単純な質問だった。
しかし、除霊師をやっているのならばそれくらいわかるのでは? いや、幽霊によって違うのかもしれないな。
『そうだな〜……。まずは壁とかすり抜けられるけど物とかは持とうと思えば持てる。人は触れない』
「ふむふむ」
『あ、そうだ。登校途中にとっておきのを習得したんだ』
そう言って、俺は立ち上がり、右の掌を上に向けてふんっと力を込める。すると青い炎が吹き出し、一瞬のうちに皿の形を作った。
「おお〜! すごい技。炎も綺麗だったよ」
目をキラキラと輝かせて褒めてくれたので、俺は満更でもなく照れた。
「もう〝
『レージュツ?』
「うん。幽霊が使える特殊能力みたいなものだよ。幽霊になりたてだったらせいぜい念動力とからしいけど、君のは強力だと思う」
『俺に幽霊の才能があったのか。……いや、いらなかったなぁ、死にたくなかったし』
そんなこんなで話をしていると、
――キーンコーンカーンコーン
「『あっ』」
多分、入学式が始まるチャイムだ。
『不良生徒になっちまったな』
「…………」
ジトーッとした視線を向けられるが、口笛を吹いてごまかした。
ちなみに「お腹が痛かった」ということを誇張しまくって弁明したら、許してもらえた。
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「入学初日に注意されるなんて……」
『まだ始まったばかりだし大丈夫だろ』
諸々の連句を終えたら帰宅してよしとなったので、午前で終了だ。
下駄箱で靴を履き替える神々𢌞さん。その時、どこからか現れた無駄に顔のいい男がやってきていた。
「やあ君、学校には慣れそうかな?」
「…………」
『知り合いか?』
「全っ然。誰コイツ……。チャラついた陽キャはアレルギー反応起こすから無理……」
『すっごい鳥肌たってるな』
彼女はすごく不機嫌そうな表情をしていた。確かに、癪に触るやつだ。
「なになに〜? なんて言ってるか聞こえないよ〜☆ ってかこの後オレとお茶どお??」
「ど、どうにかして助けてほしい……」
俺は今幽霊だし、できることなんか限られてるんじゃないか? うーん……さっきの炎で燃やす……いやいやダメだろ!
『助けようにも幽霊だからなぁ。どうやって助けたらいいんだ?』
「私に取り憑いて代わりに喋ってほしいかも……。多分君もできるはず」
『おお、幽霊っぽい。ちょっとじゃあやってみる』
神々𢌞さんの背後に回り、集中する。すると俺の霊体はスーッと彼女の中へと入った。
(お〜、成功だ! さ〜て……いけ好かないイケメン君をどう撃退するかねぇ)
ゆっくりと目を開けると、そこには神々𢌞の琥珀色の目はなく、青い俺の目に入れ替わっていた。
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