第3話 身勝手な理由とサブカルちゃんの不安
その後、陛下の話を要約するとこの世界では元々男児の出生率というのがそれほど高くないらしい。そしてそれを解決する手段にも見当がつかず八方塞がりであったのだとか。このままでは人類は緩やかに滅びるだけであると考えた時の皇帝陛下たち(複数人いるらしい)はとある経緯で別世界から人間を召喚する手法を手に入れた。そしていっその事、別世界から新しい男性を招くことでこの緩やかな滅びに何らかの影響を与えてみてはどうかという話が採用されてしまったらしい。
...なんというか随分と身勝手な召喚理由だなぁというのが個人的な感想だった。しかも不可逆的とのことで元の場所には返せないときたもんだ。
この時点ではこの国に対する不信感をまだ拭いきれていない。ただ、級友たちの何人か(男子生徒を中心に)は帰れないと知ってもこの国の為に出来ることをするべきだと周囲に熱弁していた。普段は大人しい級友もその中にいたことになんだか大きな違和感を感じたけれどそれを声に出す勇気はなかった。逆らったらどうなるか分かったものじゃないからね。
教師たちは憮然とした表情でその様子を見守るだけだった。その様子から察するに完全には納得できていないようだが現状帰る方法がないと言われてしまうと従うしかないということだろうか。
「ひとまず今日のところは皆さまで話し合う時間を取っていただきたいと思います。ここではなんですからまずは移動しましょうか」
そう言って皇帝陛下が傍に控えていた騎士に目配せをすると数人の騎士による案内が始まった。
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広い廊下も大小さまざまな調度品が下品にならない程度の間隔で配置されており、物珍しい品々に目移りしながら人の波に流されていると控えめに袖を引っ張られる。そちらの方を向くと、そこには小柄で幸の薄そうな少女がいた。
「木下さん。どうかしたの?」
木下夢月。アニメや漫画などのサブカル知識を語ってくれるサブカルちゃんだ。
「ふへへ...えっと、あー、なんというか...ちょっと、不安、で...へへ」
「あぁうん、たしかに急な話だよねぇ」
「う、うん」
...話が続かない。まぁ、彼女との会話ではこれが常であるしもう慣れたから構わない。彼女は自分の得意分野になるともう少しはっきり喋ることが出来るんだけど会話のキャッチボールは少し、いやかなり苦手な部類の人だからしょうがない。
改めて彼女をまじまじと観察する。腰辺りまで伸びた長髪は手入れが行き届いて...おらず少しボサボサとしている。体つきは華奢というか小柄というか、言葉を選ばずいうのであれば貧相な体つきだ。猫背がひどく、顔は前髪で隠れてあまり見えないが目にはクマがある。
...いつもより少しクマが濃いことからさては昨日夜更かししてたな。顔立ち自体は悪くないはずなのに本人が身だしなみに興味皆無のため残念ながら輝くことはない。
なんとなしに日常生活で世話を焼く機会があってそれ以降たぶん懐かれた。なんだかダメな妹持った気になることができる稀有な存在である。
「ど、どうか、した?」
じっと見つめすぎておどおどし始めてしまった。なんだか申し訳ない気持ちになったので適当に誤魔化して話題を切り替える。
「ううん、何でもないよ。それより前に木下さんが話してくれた物語の状況によく似てるよね」
「んー...どう、だろ?私が読んでたラノベの中だと珍しい理由、だった、かも」
「そうなの?」
「うん、大体魔王が攻めてきてるから助けてーとか、隣の国が攻め込んで来たから協力してみたいな感じ、だった、かな」
「そっかぁ...この後ってどうなるんだろうね?木下さんはやっぱり帰りたい?」
「ま、まぁパパとママに会えないのはちょっと、嫌...かな」
暗く沈んでしまった表情には明らかな寂しさがありありと浮かんでおり木下さんが両親から愛されて育ったことが分かる。
やっぱり自分たちはまだまだ子供で親との突然の別れというものは精神的に相当なショックを与えるものなのだろう。
「だよねぇ、帰る方法見つかるといいんだけど。そのラノベだとどういった方法で帰れたりするの?」
「...テンプレは魔王を倒したら帰れる、とか帰還用の魔法を探したりとか、かな?でもあんまり元の世界に帰る展開ってなかった気がする」
まぁ、そりゃそうか。異世界での物語なのに主人公が元の世界に帰っていったら本末転倒だもんね。
「そっかぁ、どうなるか分からないけどお互い生き残れるように頑張ろうね」
「う、うん...ふへへ」
そんな風に話していると会議室のような部屋へとたどり着いた。転移してきた総勢50名弱の人間が余裕で収まる部屋だった。
こんな大きな部屋いつ使うんだろう?と思いながらも取り敢えず端の方に座っておく。木下さんも隣に腰かけた。
「それじゃあ今後についての話し合いを始めよう。まだみんなも状況がよく掴めていなくて混乱していると思うが今後にかかわる大事な話し合いだ。しっかり考えてどんどん意見を出してくれ。正直、先生たちにとっても予想外の事態ではあるんだがみんなで乗り越えていこう!」
生徒からの人望が厚い担任の花宮先生が話し合いを進行していく。その近くには皇帝陛下がいて、なにかこの世界について質問があった時に答えてくれるらしい。副担任の東先生は部屋の隅の方で静かに座っていた。
こうして総勢50名弱による会議が始まった。
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