第26話 ……………………。

あれから何も無い牢屋に俺はいる。

水も食料もなく、ただ空腹と渇きに耐えながら。

時折、小窓が開くと

「早く、魅了魔法を解け!」

「人間の罪を償え!」

「リリーの痛みを味わえ!」

そんなに声が聞こえた。

俺はそんなに声に

「水を…。食料を…。」

「魅了魔法ってなんだ?」

「リリーって誰だよ!?」

特に食べ物等を要求すると

「一食ぐらい抜いたくらいで喚くな!」

「お前の罪を数えろ!」

「ジャッチメントです!」


声の数は3つ。

少なくとと三人はいるが全てにおいて話にならない。


空腹に耐えているが最後に求めたものは水だった。


とにかく喉が乾いた。

体から水分が抜けていくのがわかる。

何日たったかもわからず、俺は牢屋の中で暴れだした。

壁を殴り、鉄格子を蹴飛ばし!

流した血をすすった。


きっとエリーが来てくれる。

マリー御姉様も助けてくれる。

俺は頑張ったんだ!

死ぬ一歩手前まで頑張ったんだ!


意識が朦朧とするなかで俺はある決断をする。

魔法で水を作る。

気持ちの悪さや痛みよりも渇きが越えたのだ。

それは苦渋の決断。

生存本能。

魔力を使おうとすると激しい吐き気。

しかし俺は

「水よ!」

そうすると目の前がスパークしたような激しい痛みと共に水が生まれる。

「うぎぃ!」

最早、自分が何を言ってるのすら、わからない。

ただ激しい吐き気を抑えて水を一口飲みほす。

結果、俺は意識を失った。


何度目かの気絶を味わい、

水を飲んだが…。

あぁ、限界だ。

なんで、なんで助けてくれないんだ。

俺が何をしたんだ。

なんで…。

なんで…なんで…

なんで…なんで…なんで…なんで…

どうして?

どうして?どうして?どうして?

助けてくれ、エリー!

助けてくれ、マリー!

助けてくれよ、神様………。




…………………る。

…ん………………。

………つ…………。

せ…………………。

………つ……や…。

せん…………やる。

……め…し……る。

せ……つ……やる。

せんめつしてやる!

殲滅してやる!

センメツシテヤル!


エルフなんてくそだ!

正義なんて何にも役にたたない!

偽善なんてゴミだ!

他人なんて信用しない。

優しくしてやれば付け上がり!

善意が当たり前になる。

優しくて当たり前、

奉仕して当たり前!

んな訳あるか!


俺はなんで優しくした?

俺はなんで殺される?

俺はなんで狂っているんだ?

俺はなんでここに居る?


全てを憎めばいい!

全てを壊せばいい!

エルフを殲滅すればいい!


破壊こそ!この世の真理だ!


俺の中で何かが爆発した!

「ウゥゥゥリリリリリリリリーーー!」

ついでに両手首と両足首も爆発した。

壁も牢屋も爆発した。

痛みは心地よく、仰向けになって魔法で水を飲む。

血を流しながら、涙を流しながら、

痛みに耐えながら、

そして嗤った。

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