序盤で死ぬ最弱の幼馴染に転生してしまったので、最強の裏ボスと力を合わせて【変身】する

第36話 『これくらい普通だろ？』は絶対普通じゃない

　ナイトキャットの視力と聴力を以てすれば、位置の特定は簡単。

　なので、勇者パーティーへの合流は割りと簡単だった……のだが。

「なにやってんだあいつら……？」

「はあっ――！　【クイックスラッシュ】！」

　スカイたちの戦闘を見て……唖然とする。

「消えなさい！　【ウインドアロー】！」

　リーリアの作り出された風の矢がモンスターを射貫いていく。

　が、それだけでは致命傷に至らない。

「くっ……！」

「【クイックスラッシュ】！」

　追撃を与えるように、スカイがモンスターたちの身体に剣撃を入れていった。

「スカイ、囲まれてる！」

「――！」

「――ま、任せてください！　【フルバリア】！」

　四方を囲まれた三人は全体バリアを張り、背中合わせになる。

「よし、これなら……！　【クイックスラッシュ・ラッシュ】！」

　スカイはスキルを発動させると……目に止まらぬ速さでモンスターたちを斬り裂いていく。その動きは、Aランク冒険者でも全て見切ることさえ難しいだろう。

　【勇者の加護】……このユニークスキルのみで、今まで手も足も出なかったモンスターたちを蹂躙、熟練の冒険者たちを圧倒する実力になるのは流石とんでもないチートスキル。

　――なんだけど……なんだかなぁ……。

「ふぅ……終わったな」

「流石スカイ！　多勢でも関係なしね！」

「は、はい！」

「ありがとう、二人とも……ところで、君はいつまでそこで見てるのかな？」

　スカイは途中から気づいていた。三人が必死に戦っている中、デュアル……というかアルダートは助けもせず、壁にもたれてボーッと観賞してたことを。

「助けに来てくれたっていいんじゃないか？」

「あー……いやお前、選ばれし勇者なんだろ？　ちょっと戦闘を見ておこうと思ってな」

「ふぅん……まあ、この程度ならまだまだ本気じゃないけどな」

　――イラッ。

「で？　ドラゴンライダーの君としては、俺たちがどう見えた？」

「あぁ。案外、大したことねぇんだなって」

「「「なっ――！？」」」

　正直すぎるアルダートの感想に、スカイたちは絶句した。

　――よぉし、よく言ったぞアル！

　そして、心の中でショウがガッツポーズを取っていた。

「まずは、そこの赤髪。確かに洞窟内で炎系の魔法は厳禁だが……旅してるんならよ、それくらい想定済みだろう。他の属性はてんでダメなのか？」

「ぐっ……！」

「次にオレンジ髪のチビ。お前は無駄にバリアを張りすぎだ。パーティーでタンクが重要なのはわかるが、お前も戦わなくちゃ数的に不利になるだけだぞ」

「ぅっ……！」

「そして極めつけはお前だ――勇者。なんだ、さっきから【クイックスラッシュ】しか撃ってねぇじゃねぇか。斬撃耐性のあるモンスターが出てきたらどうすんだ？　それに『本気じゃない』、だぁ？　てめぇ、舐めてんのか？　脳死プレイも大概にしろや」

「……！！」

　――いいぞ、もっとやれ！　正直、説教する展開はあんま好きじゃないが、こいつらになら許せる！　もっと言ってやれ！　『本気じゃない』とか、どや顔してるスカイの鼻をへし折ってやれ！

「いいか？　本当の戦い方っていうのはな――」

　――ん？　おや？　雲行きが怪しいぞ……？

「！　後ろ！」

　話を続けようとするアルダートの後ろから、オーガとマジックゴーレムの群れが現れた。

　オーガの爪がデュアルを引き裂かれる――その直前。

「――こうやるんだよぉっ！」

　一閃。

　腕のパーツに備わった鉤爪がオーガの体を切り裂いた。

　――あぁっ！？　やっぱり！

「おらおらおらおらおらっ！」

「……は？」

　切り裂く、ひたすら切り裂く。

　鉤爪でオーガの体をいとも容易く真っ二つにしていき、一人群れの中に突っ込んでいくアルダート。

　本来なら一斉に囲まれて即死……なのだが。

「おらぁっ！」

　ナイトキャットの身体能力を活かし、軽やかに躱していく。

「で……マジックゴーレムには、こいつだ。【キャプチャー】！」

　と、手をかざした先は……一体のオーガ。

『オーガ！』

　エネルギー剣を取り出し、オーガのコアを嵌め込む。

「マジックゴーレムってのは、魔法面に防御力が高いモンスターだ。もちろん斬撃耐性もあるが……打撃には弱い」

　――いや、それ俺が全部教えたやつ。

「どぉ――らっ！」

　エネルギー剣は拳のような形へ変化し、マジックゴーレムを次々と潰していく。

「こいつでトドメだ」

『エネルギーチャージ！』

『オーガ！』

　と。

　エネルギー剣の拳が巨大化し――一気にオーガたちの群れを押し潰した。

「「「……は？」」」

　一掃。

　放たれた拳は大地を揺るがし、一体足りとも逃すことなく殲滅させる。

「ふぅ……とまあ、こんな感じだ。わかったか？」

「い、今……」

「あ？」

「今、なにをしたんだ……！？」

「……？　なにって？」

　驚愕するスカイに、きょとんとする。

「オーガを倒しただけだぞ？」

「に、20体はいたぞ……！？　それを、今の一瞬で全部倒したのか！？」

「……え？」

　あまりのオーバーリアクションに、アルダートは首をかしげ一言。

「これぐらい、普通だろ？」

　――いやあああああああああ！！　禁止ワードぉぉぉぉぉぉぉ！！

「なんだお前ら、まさかこの程度も――いてっ！？　いてててっ！」

　更に続けようとするアルダートにショウが必死に左腕だけを動かし、右腕を叩いた。

（なんだよショウ、今いいところなんだ！　邪魔すんじゃねえ！）

（だーかーら！　そのなろう主人公っぽい言い方やめようよ！　イキってても楽しくないよ！？）

（なんだよ、なろう主人公って！　大体よぉ、今回の件は俺に任せるってそっちが言い出したんだろう？　なら俺の好き勝手しても構わないよな？）

（……！）

　――こ、こいつ……自分が好きに動けることをいいことに！

「……お？　おかわりの敵が来たみたいだな。まだまだ行くぞてめぇら！」

　――や、やめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ！！

　結局……リザードキングに辿り着くまで、アルダートの無双劇は続いた。

＊＊＊

「あれがリザードキングだな？」

　数時間後。

　空洞の奥に見える二足歩行の竜人……リザードキングを確認したアルダートは構えを取る。

　……と。

「よしっ……いくぞ！」

「おっ？」

　スカイの掛け声に、三人が我先にとリザードキングの元へ一直線に突っ込んでいく。

　――ちょっ……！？

　あまりにも無謀すぎる行為にショウは唖然としてしまう。

「ハッ、馬鹿正直に突っ込むか……面白そうじゃん」

　対してアルダートは楽しそうに笑い、スカイたちの後を続こうとする……が。

　――あれ？

「ストップだアル！」

「あぁ、もう！　今度はなんだよ！？　まさか狩るなとか言うんじゃ――」

「違う！　様子がおかしい！」

「……あ？」

　ショウの言う通りだ。スカイたちが一直線に進んでいるというのに、リザードキングは何一つ反応しない。

　――どういうことだ？

「【クイックスラッシュ】！」

　スカイの一閃がリザードキングの首を狙う。

　すると対象は……避けもせず。

「「「………………え？」」」

　そのままスカイの剣撃を食らい……なんの抵抗もなく、首が落ちていった。

「な、なぜ避けなかった……？」

　ここでスカイも疑問に思い、ゆっくりとリザードキングに近づいていく。

　そしてわかる衝撃の事実。

「！！　こ、こいつっ――既に死んでいたのか！！」

「「――！？」」

　――やっぱり。

　そう……リザードキングは背中から鋭利なもので突かれ、コアを砕かれていた。

「い、一体誰が……？」

　予想外の事態に、スカイたちが放心状態となる。

　――と。

「――！」

　ゆらりと――三人の背後に何かが動いた。

　狙いは――

「シア！　後ろだ！！」

「え――」

　慌てて叫んだ。デュアルの警告は……遅く。

「…………………………え？」

シアの小さな左腕は――ポトリと、地面に落ちた。