第34話 ただの承認欲求だよ

「……フレンディア。さっきの話、どう思う?」


 結局デカルトの依頼を受けることになったスカイたちだが……ショウは妙な違和感を覚えていた。


「デカルトってさ……冒険者でもなんでもない、ただの子供だよな?」

「そうですね。わたくしがブレクトにいた時は簡単な荷物の配達をしてましたね」

「じゃあ、なんでリザードキングの居場所や、勇者の盾を持っている情報なんてものを知っているんだ?」


 そう……のだ。

 これがたまたま居合わせた冒険者という話だったら納得できるだろう。だが……戦闘も出来ない小さな子供が単独でヘビウム山岳やジャハダ洞窟に行くとは思えない。

 ということは、さっきの情報を自力で手に入ることなどできないはずなのだ。


「まあ、第三者があの子に教えたという可能性が高いでしょうね。例えば、勇者の盾の情報を勇者様に知らせるため……とか」

「だとしたらだ。なぜそいつは直接勇者に会わない? 別に人伝いで情報を提供しなくてもいいはずだ」

「デカルトくんの父親がリザードキングに殺されたというのをお忘れですか? 『その仇を討ちたい』――ほら、彼にもきちんとした理由があります。情報提供した方は、それを知った上でデカルトくんに話したのではないでしょうか?」

「仇……ね」

「あら。ショウさんは復讐することに反対派ですか?」


 わざとらしく口に手を当てるフレンディアに、ショウは「別に」と返す。


「そんなんじゃないよ。寧ろ復讐には賛成派だ」



***



 ――翌日。


「それじゃ、行くぞ」

「えぇ」

「は、はいっ」


 リザードキングの討伐……デカルトからの依頼を達成する為、朝から出発するスカイ一行の姿があった。


「――待て」


 城壁門を越え、プライ森林を突き進もうとしたその時……城壁で待ち構えていた一人の男に呼び止められる。


「……なんだお前は?」


 壁に背中をつけて立っていたのは……青透明の戦士。腰には不思議な形のバックルをしたベルトのようなものを付けている。


「てめぇら、今からリザードキングを狩りに行くんだろ? 助っ人が必要なんじゃねぇか?」

「……断る。悪いけど俺、勇者なんだ。お前みたいな実力もわかんないような奴を連れて行っても足手まといになるだけだ」


 冷たい態度をとるスカイだが……彼は承知済み。


「じゃあこう言えばわかるか? 俺――デュアルって言うんだ」

「「「っ!!」」」


 『デュアル』。その名を聞いた瞬間……スカイたちの顔が強張った。


「さ、最近噂になっているドラゴンライダー、ですか!?」

「暴走化した魔人にも、単独で倒したっていう……あの!?」


 この街で噂になっているドラゴンライダーのことは、この三人も知っているようである。


「……何が目的だ?」

「おいおい、何言ってやがる。目的なんてただ一つじゃねぇか。強そうなモンスターをぶっ潰す。ただそれだけよ」

「…………」


 なんとも単純な理由だが……自分の欲に忠実なその姿勢は信用に値するだろう。


「……わかった。だが、お前は正式な依頼を受けていない。報酬は期待するな」

「いらねぇよ、そんなもん」


 ――いや、そこはちょっとでも貰っといて欲しかったなぁ。


 さらりと受け流すデュアル――いや、アルダートにショウは心の中でツッコミを入れていた。



***



「勇者達の獲物を横取りする? ……面白そうじゃねぇか、やってやろうじゃん」


 ――わお、単純。


 昨晩。

 スカイたちの後をついて行くことにしたショウはアルダートに話を持ち掛けていた。


「で、どうやって奪うよ? こっそり後をつけるか?」

「デュアルに変身して、堂々と接触する……ってのはどうだ?」

「いいねぇ、そういうの嫌いじゃないぜ。けどよ、それならデュアルに変身しなくてもいいんじゃねぇの? お前、勇者に関わりたくないのか?」

「……いや」


 アルダートにしては鋭い指摘に、ショウは思わず口ごもる。


「一つは信頼性だ。Eランクの俺がついていくって言っても、スカイは納得しないだろう」

「あー、確かにEランク冒険者だもんな。雑魚は連れていくわけないか」

「うっせ。……そしてもう一つは、お互いウィンウィンの関係だからだ。スカイは勇者の盾が欲しいだけ、リザードキングはどうでもいい。アルはリザードキングを倒したいだけ、盾はどうでもいい……ほら、利害の一致だろ?」

「はっ、利害の一致だぁ? んなもんどうでもいいね。俺は暴れられればよぉ、それでいいんだよ」

「……そうか」


 原始的な理由が最も共感性を持つ。アルダートの目的に疑問を持つ者はいないだろう。


「それより聞きてぇのは俺の方だ」

「ん?」

「ショウ、なんでお前はこの件に関与する? お前にとっちゃリザードキングなんかどうでもいいだろ。勇者の盾なんかいらない、ましてや俺のように暴れてわけじゃない……今回、お前の目的はなんなんだ?」

「…………」


 ショウの目的。それは……。


「……なんか、嫌な予感がするんだ。リザードキングの討伐だけじゃない、何かが起こりそうな……そんな気がする」

「……ふーん、それで? まさか嫌な予感がするだけで、幼馴染のためだとか、街のため、小娘たちのため……なぁーんて、つまんねぇ理由じゃねえだろうな? あぁ?」


 ジロリと睨んでくるアルダートにショウはふっと笑う。


「まさか。その嫌な予感をいち早く解決して周りから褒められたい、ただの承認欲求だよ」

「あ? 承認欲求? なんだそれ?」

「えーと……誰かに褒められたり、認められたり、かっこいいと思われたい……って願望、かな?」

「……はっ! くっだらねぇな。そんなことの為に欲望が湧くのか、人間ってのはよぉ」


 と、彼は最初こそ鼻で笑うものの……「だが」と付け加えた。


「慕われるっていうのは……悪い気分じゃねぇ。それがショウの目的なら――俺も手ェ、貸してやるよ」

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