第33話 フラグがずれた結果

 スカイ達が帰ってきて数日が経った。


「……で、あいつらは何してんの?」

「さあ……今はCランクのクエストを主にこなしつつ、仲間を探してるみたいで……」

「……Cランク?」


 アリアの報告にショウは首を捻る。


 ――あいつにしちゃ、ちょっと低すぎないか? しょっぱなからSランクモンスターを倒せたスカイだぞ? Aランククエストだって楽勝だろうに。


 スカイの真意が掴めない。


 ――仲間が一人死んで、日和ったか?


 だが、そもそも仲間が一人死ぬ時点でおかしすぎる。【勇者の加護】とかいう超チートスキルさえ使えば、序盤の敵に苦戦などするわけがないのだ。


 ――もし。もし俺が死ななかったことにより、イベントが大きく変わったとしたら……あいつがここに帰ってきた原因は……。


「……ショウさん?」

「えっ……あぁ、ありがとな。あいつの幼馴染だからさ、ちょっと気になっちゃって」

「そうですよね……スカイさん、なんか変わっちゃいましたよね」

「……そう、だな。あんなスカイの姿、俺も見たことがない」


 アリアもまたスカイのことは知っているからだろう。少し心配そうな表情をしていた。


「今日は……このクエストで」

「わかりました」

「あっ、そうだ。ジャハダ洞窟の変なクエストとかまだ出てない?」

「ジャハダ洞窟、ですか? いえ、主に普通の討伐クエストのみですが……」

「そっかぁ……じゃあ自分の目で確かめるしかないな」

「……あの、ショウさん。ジャハダ洞窟に行く際は気をつけてくださいね? 最近モンスターの動きが活発になっているらしいので」

「あぁ、聞いてる聞いてる。でもほっとくわけにはいかないっしょ? あそこ抜けた先に農家が多くあるんだからさ、うちのルーナが困っちゃうよ」

「でもショウさんはEランク冒険者です。もし本当にBランクモンスターが棲んでいるとしたら……普通、相手にできるわけがありませんからね?」

「……まあ、そうだね。でも、最近噂のドラゴンライダーならなんとかしてくれそうだよな」

「……彼ばかりに頼るのもどうかと思います」


 冗談めかすショウだが……デュアルの正体を知っているアリアは、あまりよくない顔をしていた。



***



「ごきげんよう、ショウさん」

「…………」


 ギルドからでてきたところ……背中から聞き慣れた声が聞こえてくる。


「……なんの用だ?」

「あら怖い。声をかけただけで、そんなに敵意を剥き出しにしなくてもよろしいんじゃないんでしょうか?」


 冷たい反応を示すショウだが、フレンディアはいつも通りの反応。予想の範疇といったところだろうか。


 彼女がこんなところまで来ているのは珍しいが……問題はそこじゃない。

 どうせまたろくでもないお願いをされるのだろうと考えるだけで、正直関わりたくないのだ。


「言っとくけど、お前のお願いなんて聞かねえぞ?」


 最初から断っておくが、意外にも彼女は「いえ」と否定した。


「今回は私がお願いするわけじゃありませんし、あなたにお願いするわけでもありませんの」

「……?」


 どういうことだろう――と、後ろを振り返ると。

 彼女の隣には……色黒の少年が怯えたような目で見てきていた。


「君は……」

「この子……デカルトくんが、かの有名な勇者パーティーに用事があるらしく」

「…………」

「確かショウさん、勇者様の幼馴染でしたよね?」

「なんでそれ知ってるの?」

「あら。知っていてはまずいことですの?」

「お前に利用されるのが嫌なだけだよ」

「あらあら」


 明らかに拒絶しているのに、フレンディアはクスクスと笑うのみ。


「あ、あのっ……」


 と、しびれを切らしたのか、色黒少年……デカルトがショウに直接頭を下げてくる。


「お願い、しますっ。勇者様に、どうしても会いたくてっ」

「……はあ。あいつに会わせればいいんだな?」


 これがフレンディアなら即座に見捨てていたところだが……少年の無垢なお願いは無下にできず、ショウは小さなため息をついた。



***



「――僕のお父さんを殺した、リザードキングの討伐をお願いしたいです」


 スカイたちがどこで活動してるのか、大体の目処が立っていたショウは、彼らと合流するのにそう時間はかからず。


 全員集まったところで食事処ドロウニングへ集まり……現在。


「リザードキングって……Aランクモンスターのか?」

「はい。普段はヘビウム山岳に生息しているモンスターなのですが……どういうわけか、ジャハダ洞窟に現れるようになったらしくて」


 ヘビウム山岳という言葉を聞いた瞬間……スカイの眉がピクリと動いた。

 スカイだけではない。リーリアも眉をひそめたり……シアに至っては、顔が青ざめているではないか。


「お願いします。頼れるのは勇者様しかいないんです」


 ――まあ、この情報はほぼほぼ正しいだろうな。


 完全なモブキャラだが……デカルトという少年には心当たりがあった。

 この少年、実はブレクトという町に住んでいる子供である。

 本来ならば、勇者パーティーにフレンディアが加わる際、この少年の父親をリザードキングから助けるシナリオのはずなのだ。


 だが、勇者パーティーは戻ってきていて、フレンディアも王都オーディに移動している。

 この改変から、デカルトの父親は死ぬ運命へ変わってしまったんだろう。


 ――だとしたら結構厄介だなぁ……なにせ相手はあのリザードキングだし、絶対リザードマンの群れだって引き連れてるだろうし。でもま、スカイさえいれば普通に倒せるだろ。


「――悪いけど。君からの依頼は受けられない」

「――!」


 と。

 意外にもスカイは断った。

 緑神龍を軽く一捻りした、あのスカイがだ。


「俺たちは魔王討伐を目的としている。君の個人的な復讐に割ける時間はないんだ」

「そ、そんな……!」


 ――まあ、言いたいことはわかる。


 魔王討伐は王様からの勅命。なによりも優先されるべき事なのは確かであるのだから。


 ――だが……そんなに余裕ないのか?


 【勇者の加護】を得たスカイなら、リザードキングの討伐など余裕でこなせるはず。優先どころか、素材を集められるチャンスではないか。


 ――そして、気になる点はもう1つ。


「あ、あの、スカイ……」


 おずおずとシアが声をあげる。


「確かにシアたちの目的は魔王討伐ですが……その、困ってる人の助けをするのも――」

「……シア」

「ひっ――!」


 シアの言葉を遮るスカイ。鋭い目付きと威圧感に、口を開いていた彼女も萎縮してしまう。


「スカイが駄目だって言ってるんだから、駄目なのよ。それとも、なに? あんたがこのパーティーのリーダーなわけ?」

「……す、すみません……」


 ――……? 随分仲悪いな?


 ゲームでもリーリアとシアは良く言い争っていたが……ここまで険悪ではなかったはず。


「というわけですまないが、他の冒険者をあたってくれないか?」

「ま、待ってくださいっ!」

「……お前、止めないの?」

「わたくしは『紹介してほしい』としか言われてませんので」

「……ほんと嫌なやつだよな」

「あら。そう思うのなら、あなたが止めればよろしいのでは?」


 とフレンディアが反論を見せるが、ショウも止める気はない。 


 だって……知っているから。

 ということを。


「――勇者の盾!」


 去ろうとするスカイの背中にデカルトが叫ぶと……ショウの予測通り、三人の動きがピタリと止まった。


「そのリザードキングは、勇者の盾を持っているんです! だから、勇者様がこの依頼を受けるのには大きなメリットがあるんです!」


 勇者の盾。あらゆる攻撃を防ぐというチートアイテムであり、魔王退治に必須なアイテムでもある。


「…………」


 勇者の盾が手に入る可能性がある――それを聞いたスカイは、踵を返し椅子に座った。


「……詳しく話を聞こうじゃないか」

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