第32話 宴会ほど本音が飛び交う場はない
――勇者パーティーが帰ってきた。
そのことを知ったのは、ギルド内のテーブルで昼間から宴会を開いてる時だった。
「所詮俺なんてよぉ……Aランク冒険者でも、ここら辺じゃただの飾りなんだよぉ……ショウ、お前の方がよっぽど役に立ってるぜ……」
「おいおいおい、どうしたんだよ急に。いつもの威勢はどうしたよギルちゃん」
いつもとは違うしおらしい態度のギルスが、呻き声をあげながら愚痴をこぼし始める。
「結局よぉ、冒険者っていうのは『どれだけ強いか』じゃなくて、『どれだけ役に立つか』になるんだよなぁ……そこにくると、この近辺のモンスター退治もできて、面倒な薬草調達にも嫌な顔せずにこなすお前の方が、オーディのみんなに人気者ってわけよ」
「人気者って……失礼な。俺、別に人気取りでやってるわけじゃないぞ」
「お、どうしたショウ。まだ酔い足りねぇんじゃねぇか? 飲め飲め、もっと飲め!」
「お姉さーん! キンキンに冷えたやつ3つ!」
まだ素面らしいショウに、酔っ払いたちがビールを目の前に置いていく。
「そもそも冒険者ってのは、モンスターを倒してナンボでしょ? そのAランクの称号は伊達じゃないだろ」
「そうだそうだ!」
「強さこそ冒険者の証だ!」
「でもよぉ……いくら強くたってアリアはぁ……」
「あー……うん、それは諦めろ」
「諦めた方がいいぞ」
「次があるさ」
「ちくしょおぉっ!」
――うわ、なんか居づらいわ。
泣き出すギルスの背中をさする冒険者たち。そのアリアと特別仲がいい本人は、気まずそうに樽ジョッキを口につけた。
「じゃあ、フレンディアとかどうよ?」
「あー……最近やってきた冒険者か……てかフィルフィト、例の幼馴染みはどうした」
「……あいつなら、別の男と……」
「………………なんか、ごめん」
「いや、謝るな謝るな。なんならフレンディアの方が可愛いし」
「まぁ……可愛いよなぁ、彼女」
「なにせ……おっきいもんな、フィルフィト!」
「だよな! わかってるじゃんラムルも! ショウもそう思うだろ!?」
「フレンディア……あぁ、うん。いいんじゃないかなー」
――俺は絶対嫌だけどな。
「そういや知ってるか? プライ森林の向かい側のジャハダ洞窟で、モンスターの動きが活発になってるらしいぞ」
「おぉ、聞いた聞いた。なんかBランク以上のモンスターがいるらしいな?」
「あれ、街に来たらあぶねぇよ。早めに対処しねぇと」
「……そうだな」
――おかしいな、こんなイベントなかったはずなんだけど。
その情報の信憑性はまだ低いが……ジャハダ洞窟といえば、せいぜいDランクがいる程度の難易度。Bランクモンスターなんているはずがないのだが……?
「でもまあ、そういう時こそギルスの出番じゃん!」
「そうだそうだ!」
「えっ……そうか? 俺の出番、来ちゃうか?」
「おー来るよ、来る来る」
「Aランク冒険者の出番だぜ!?」
「「「ギ・ル・ス! ギ・ル・ス!」」」
「へ、ヘヘヘっ……やめろよ、そんな期待されちまうと照れるって。でもま、この街の平和は俺は守ってやるぜ!」
「「「うおおおぉぉぉっ!」」」
「そして、アリアを俺のものにしてみせる!」
「「「それは諦めろ」」」
「ちくしょぉぉぉっ!!」
――うはは、なんか面白いなこいつ。
ゲームでは描かれなかったギルスの一面に、ショウは思わず笑みを溢した。
……一方。
「――おらぁぁぁっ!」
「だぁぁぁっ!」
「勝者、アルダート! 20連勝目!」
「す、すげぇ……! あのマクトニーが負けただと……!」
「アルダート最強すぎだろ!」
「ヘっヘっヘ……じゃあ、ミノタウロスのリブロースは奢ってもらうぜ!」
「く、くそっ! 好きなだけ食え!」
アルダートは皿一枚分の料理を賭け、腕相撲で勝負していた。
「それにしても、よく食うなあ……これも食え食え!」
「お、いいのか? もらっちゃうぞ?」
「おうおう、どんどん食え!」
「俺たち飲み過ぎて、もう腹に入んねーしな」
「でもあんた、スライムのくせに貫禄あるなあ……今いくつよ?」
「あ? そんなことを数えたことねえ。多分100年くらいは生きてんじゃねぇか?」
「おいおいおい……大先輩じゃねぇか!」
「アルダート先輩!」
「今日もお疲れ様です、アルダート先輩!」
「……お、おぉ。慕われるっていうのも悪い気分じゃねぇな」
――あっちはあっちで楽しそうだな。
「――じゃあちょっくらモンスター狩ってくるぜ!」
「おう、頑張れよ!」
「やれやれー!」
「いや、待てや。あいつ、酔ってるよね? 足フラフラじゃん。あんなんでモンスター倒せるの?」
「いや、死ぬんじゃね?」
「あれは死ぬな」
「ギルスはいいやつだったよ……」
「待て待て待て待て。ダメっしょ。行かせちゃダメっしょ」
意気揚々と受付に向かおうとするギルスをショウが慌てて止めようとする。
……と。
「――」
「っとと!?」
ちょうどギルドに入ってきた人にドンとぶつかった。
瞬間――。
「てめぇ――ぶべらっ!?」
ギルスが何か言う前にぶつかった人物に殴り飛ばされ、大きく吹き飛んでいく。
「あーあ……ほら、人に迷惑かけちゃダメだろうが。あーすいませんね、こいつがアホで――」
ショウが代わりに謝り、顔を上げたところで――ぶつかった人物と目が合った。
「………………え? スカイ?」
「…………」
そこにいたのは……魔王討伐を目標に旅立ったはずの勇者、スカイだった。
「……よ、よう、スカイ。久しぶりだなあ」
予想外の人物に驚きつつも、軽く手を上げ挨拶を交わす。
「…………」
が対するスカイは黙ってギルド内を睨みつけるように見回していた。
よく見ればスカイだけじゃない。後ろに居るリーリアとシアもまた、見たことないような暗い表情をしていた。
何かあったのだろうかと考えていると――とあることに気がつく。
「……おい。メルサはどうした?」
「「――っ」」
ショウの問いかけに、後ろ二人の身体が強張った。
あの金髪の戦士。ギルスと同じAランク冒険者にて王宮護衛隊長だったメリサの姿が見当たらない。
「…………」
黙りこくる三人に――ショウの酔いは完全に冷めていた。
ふと思い返されるのは……フレンディアから聞いたという、あの噂。
――勇者パーティーの中の一人が、旅先の道中で死んだそうですよ。
そんなわけないと思っていたが……この状況から察するに――
「………………お前は気楽でいいよなぁ、ショウ」
どす黒い感情が込められたスカイの言葉が……その答えを示しているようだった。
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