第31話 子供には見せられない時間が始まる……!

「……えっ? えっ?」


 なんとも後味の悪い依頼を終えた後……部屋に戻ったショウを待っていたのは。


「……おかえりなさい」

「ア、アリア……?」


 制服姿のままのアリアだった。


「……なんで、うちにいるの?」

「ルーナちゃんと話して、泊めてもらうことにしたんです。今日は私もここで寝ます」

「あ、あぁ……そう……」


 ――だからギルドに戻っても、アリアが見当たらなかったのか。


「…………」

「…………」


 お互い沈黙。微妙な雰囲気がショウの胸を締めつける。


「……ショウさんは」


 最初に沈黙を破ったのは、アリアだった。


「ショウさんは――ああいう、おっぱいが大きい人が好きなんですか?」

「なっ……!?」

「おっぱいが好きだから……そんなにも触ってみたいんですか?」

「待て待て待て! 違う違うちがーう!」


 潤んだ瞳で見つめてくるアリアに、慌てて首を横に振る。


 ――こ、こんな時に限って、アルはルーナの部屋に連れていかれ……あっ、ルーナ! こうなるとわかってて、わざとアルを連れ込んだんだな!?


「違くないですよね? だって、実際はおっぱい好きですよね?」

「ぐ、ぅう……!」

「好き……ですよね?」

「………………ぅうっ……!」


 彼は今、かつてのグリムドラゴン戦より絶体絶命のピンチに追いやられている気分だった。


「……そうだよ、好きだよ。でも、あいつのことは嫌いだよ……」

「でもおっぱいは触るんですか?」

「触らないよぅ! 嫌いな人のおっぱい触ったところで、何も嬉しくねぇもん!」


 嘘はついていない。実際フレンディアだとわかった途端、ショウの欲求は一瞬で引っ込んだのだから。


「……本当ですか?」

「あぁ、本当だよ」

「フレンディアさんのおっぱい、触ってないんですか?」

「あぁ、触ってないよ」

「それはフレンディアさんが嫌いだからですか?」

「あぁ、大っ嫌いだよ」

「じゃあ――私のことは好きですか?」

「あぁ、大好きだよ………………ん?」


 ――あれ、何か今別の質問がされたような?


「じゃ、じゃあ……」


 シュルリ、と。


 アリアが首元のリボンを引っ張る。


「――わ、私のおっぱいなら、触りたいですか?」

「……………………」


 フリーズ。

 予期せぬ出来事に思考が停止する。


 アリアが黙ってブラウスのボタンを上から開けようとしたところで、ようやく体が動いた。


「ちょちょちょ、ちょちょいちょいっ!? ストップ、一旦ストップ!」

「なんですか?」

「そういうのよくないと思うよ!? 自分の身体、大切にしよう!?」


 慌てて止めるショウだが……彼女は止まらない。


「なんでですか?」

「なんでって……!」

「私のおっぱい……見たくないんですか?」

「それは、見たいけど!」

「私、ショウさんの本音が知りたいです」

「ほ、本音……」

「……今日、ショウさんとフレンディアさんが一緒にいるの、ちょっと嫌でした。だって……だって私、ショウさんのことが好き、ですから」

「……!」

「ショウさんともっと一緒にいたいです。色んな所、行きたいです。共に笑いあって……共に人生を歩みたい。これが、私の本音です」

「ア、アリア……」

「だから――私も知りたいです、ショウさんの本音。どんなことでも……私、受け入れますから」

「お、俺の本音は……」


 ショウの声が震える。


「この前後ろから抱きつかれた時……あの時は何も言わなかったけど……本当は、その……背中越しに伝わってくるおっぱいが柔らかいなぁと思っていましたっ!」

「…………」

「あの時は真面目な顔をしてたけどぉ! 本当はぁ、頭の片隅におっぱいのことも考えていましたっ! 『おっぱいが見たいから』っていう理由でフレンディアに会ったけどぉ! 本当は、誰でもいいわけじゃなくて……アリアのおっぱいを見たかったんですっ! あわよくば触りたいとも思ってましたぁっ! 聖人君子じゃなくてすみませんっ!!」


 やはり彼はラノベ主人公のようにはなれなかった。

 きちんとした性欲がある、健全な男子だった。


「……いいですよ」


 頭を下げるショウに、アリアが優しく返事をする。


「本音言ってくれたお礼に……私のおっぱい、触っても……いいですよ」

「……う、うん」

「あっ……誰にでもこんなことするわけないですから。その……ショウさんだけ、ですよ……?」

「……!」


 ドクリ、と鼓動が高鳴る。

 アリアはボタンに手を伸ばし――。


「………………ショウさんが、脱がしてください」

「っ!?!?!?」


 特大級の爆弾を投下した。


「ちょ、あの、そ、それは……!」

「……私のおっぱい、見たいんですよね?」

「そ、それは………………はい」

「触りたいんですよね?」

「………………はい」


 もう観念するしかない。


「ほら、ショウさんも……こっち、来てください」


 ベッドにストンと座るアリアに促され、ショウも横へ座った。


 ――きょ、距離が近い!


「じゃあ……どうぞ」

「…………」


 もう少しでも近付けば聞こえてしまうのではないかというくらい、鼓動が早くなっている。

 そろそろと手を伸ばし……まずは、そっと彼女の両腕に触れた。


「っ……」


 ビクッとアリアの身体が震える。

 当然、彼女だって緊張しているのだ――改めて認識すると、頭が沸騰しそうになった。


 腕から肩へ。ゆっくり、ゆっくりと手を這わせていく。


 腕から肩へ、肩から腕へ……何往復かしていくうちに気がついたことが一つ。


 ――あれ? この触り方、エッチじゃない? ちょっとエッチ過ぎない??


 びびりのショウとしては、いきなりボタンを外す勇気なんてないので、腕からゆっくり沿わせるだけだったのだが……身体を優しく触る方が、却って如何わしさを引き立たせている。


 手が彼女の小さな肩まで再び登った時……遂に胸元のボタンに手を掛けた。


 ビクリ。またアリアが反応する。


 一つ、また一つとボタンを外していく。


「んっ……」


 アリアの艶かしい吐息に、鼓動は更に加速する。


 だんだんと白い柔肌が現れ――ブラウスのボタンを全て開けきった。


 しっかりとある胸の膨らみに、目が釘付けとなる。


「あっ……下着は、自分で取ります」

「う、うん……」


 アリアが背中に手を回すと、桃色の下着を外す。

 外した瞬間――美しい胸の放物線がまた一段と強調されたように見えた。


 半脱ぎ状態であるため、特徴的な桃色の突起物は見えないのだが……むしろ見えない方が、ショウの情をそそった。


 真っ赤になるアリアの顔を見るだけで、頭がクラクラする。


「じゃ、じゃあ……いきます」

「は、はい……どうぞ」


 お互いおかしなやり取りをしあい。



 ショウはゆっくりと手を伸ばし。



 ――ついにアリアの胸に触れた。



「あっ……」

「――っ」



 瞬間――彼の頭の中がスパークする。


 広がる宇宙。感じる生命。響く超新星。


 彼は今、光の速度にいた。


「ショ、ショウさん……?」


 約0秒で広がる走馬燈。最後に思い浮かぶのは――アルダートの言葉。


 ――なんていうか微妙だな……触ってもなんとも思わん。



 ――アルの……嘘つきっ……!!


「ちょ、ショウさん!?」


 ついに限界を超えた彼は……そのまま意識を失った。



***



 朝。

 目が覚めたショウはリビングへ向かう、と。


「あっ……お、おはよう、ございますっ……」

「……はよ」


 ショウの顔を見るなり、顔を真っ赤にするアリア。そしてなぜか冷たい目線を送ってくるルーナ。


 ――うわ、気まず。


「? 何突っ立ってんだよショウ? 朝ごはん食わねぇのか?」


 何の事情も知らないアルダートがムシャムシャとご飯を食べてる状況が、更に気まずさを加速させている。


 とりあえず朝食を食べようと席に着いた瞬間……後ろを通りかかったルーナが、ショウの脛を軽く蹴った。


「ヘタレ」

「…………」


 蔑むような妹の発言に、情けないことに兄は何も言い返せなかった。

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