第30話 お前のことが嫌い

「っしゃあ! 行くぜ!」


 デュアルに変身したショウたちは、迫りくるモンスター達と拳を交える。


「――おらぁっ!」


 オークの巨体に拳を打ち付けると、拳が腹部を貫きコアを破壊する。


「まずは一体! 次は――」


 ……が。


「――なにっ!?」


 コアを砕かれたはずのオークが……


「ちっ……!」


 棍棒が当たるギリギリのところで躱し、集団で群がってくるゴブリン達も蹴散らしていくが……。


「こ、こいつら……死なねぇぞっ!」


 コアはモンスターの心臓。破壊されれば、それだけで活動を停止する――はずなのだ。


 だが、実際はどうだろう。デュアルにコアを破壊されたはずのモンスター達は、今尚も攻撃を仕掛けているではないか。


「どうなってやがる……!?」

「――これが悪霊の特性だ」


 ……そう、悪霊はあくまで身体を借りているに過ぎない。

 例えコアを破壊されようと……悪霊自体にダメージが行かない限り、動き続けることができるのだ。


「――【キャプチャー】!」


 ショウも試しにモンスターに手をかざしてみるが……反応なし。


 ――やっぱり。


 今、モンスターたちは悪霊に取り憑かれている。要はキャプチャーと同じような状態なのだ。


 既にキャプチャーされているモンスターを……キャプチャーすることはできない!


「……ならよぉ、動けなくなるまでバラバラにすればいいってことだなぁ?」


 とアルダートがエネルギー剣を取り出す。


「てめぇら、バラバラに斬り刻んでやるよぉ! おらおらおらっ!」


 斬る、斬る、ひたすら斬り裂いていく。胴を腕を足を頭をバラバラにしていく。


「――どうだ! これでも動けるってか!?」


 勝ち誇ったようにアルダートが叫ぶ……が。


「! アル、後ろだ!」

「っ!?」


 振り返ると……ミノタウルスの腕のみが斧を振るってきていた。


「う――ぉぉぉおおっ!」


 斧を受け止め、思いっきり弾く。


「な――なんだと!?」


 刻んだところで動きは止まらないどころか……むしろ逆効果。

 宙を舞う部位は自在に動き、結果的に敵をどんどんと増やしていく形となってしまっている。


「おいショウ! こいつの攻略法はなんだ!?」

「浄化させるしかない! そのためにはフレンディアの力が必要なんだ! けど……!」


 フレンディアの方を見てみると――彼女もまた、別のモンスター達と対峙していた。


「1体ずつしか浄化しきれない! 数が多すぎるんだ!」

「……くそがぁっ!」


 物理は効かない。浄化するにも数が多い。……まさにお手上げの状態だ。


 ――それなら!


「フレンディア!」

「はい、なんでしょう?」


 絶体絶命のピンチだというのに、やけに落ち着いた口調のフレンディア。


「ジャイアントスパイダーだ! スパイダーを一体だけ浄化してくれ!」

「一体で構わないのですね?」

「あぁ、頼む」

「わかりました――フララ」

「――」


 ショウの指示にフレンディアは頷くと、フララを動かす。


「――【ディスコネクト】」


 フララがジャイアントスパイダーの体に触れると……光に包まれ、禍々しいオーラが消え去っていく。


 ――今だ!


「【キャプチャー】!」


 即座に手をかざし、浄化されたジャイアントスパイダーは緑色の光に包まれた。


「……よし!」

『ジャイアントスパイダー!』


 キャプチャー成功。


 コアを嵌め込むと――デュアルの目が六つに増え、腕が黒く染まる。

 ジャイアントスパイダースタイルだ。


「いくぜ!」

『ジャイアントスパイダー!』


 エネルギー剣にコアを嵌め込んで振るう。

 剣は網目状となり、網目状に引っかかったモンスターたちはいとも簡単に身体が裂けていく。


「おいショウ! 俺とやってたことが一緒じゃねえか! 意味ねぇだろ!」


 アルダートの言う通り、いくら斬ったところで意味がない。ただ単に敵が増えていくだけだ。


「いや――


 しかし――ショウの目的は、


「ただ斬ってるだけ? ……違うね。斬り刻みながら

「――!」


 そう、彼はただ斬っているだけではない。ジャイアントスパイダーの糸を別々の部位に繋げている。


「そぉ――らっ!」


 ショウが糸を引っ張り上げると……それぞれ糸を付けられた部位たちが形を作っていく。


「お、おいっ!? なんかすっげぇ気持ち悪い見た目のモンスターばっかになったぞ!?」


 そうして作られたモンスターは……まさにキメラ。ゴブリンの頭、ミノタウロスの腕、オークの胴体、ゴーレムの右足などなど……異形な形のモンスターが生成されていく。


 目の前にいるミノタウロスの頭をつけたキメラが、デュアルに向けて攻撃を仕掛けようとする。


「くっ……!?」


 慌てて防御するアルダート。




 瞬間――遠くにあるミノタウロスの腕が、ゴブリンの身体を斬り裂いた。


「……は?」


 一体何が起こったのか……アルダートにはわからなかった。


 だが、これで終わりじゃない。

 モンスターたちは――デュアルに殺意を向けるが、不思議なことに次々と仲間へ攻撃を仕掛けていくのだ。


「霊力により、身体をバラバラにされても動けるようだが……?」

「――!」


 つまり――ミノタウロスに憑いた悪霊の中では、デュアルに斧を振り上げたつもりなのだ。

 だが、斧を持った腕は別のところにあるため……結果、意図せぬ仲間討ちをしてしまう。


 数が多すぎる故に部位の数も増える――今のキメラたちは、デュアルとフレンディアに攻撃ができない!


 ――よし、全員繋いだ!


「集まりな!」


 デュアルが糸を引くと、キメラたちが一転に集まっていく。


「フレンディア、今だ!」

「……なるほど、そういうことですか」


 デュアルによって集められた肉塊にフレンディアは杖を向ける。


「――【ディスコネクト】」


 瞬間――肉の塊は白い光に包まれ、全ての悪霊を浄化していった。


「俺たちも決めるぞ!」

「っしゃぁ!」

『アルティメットチャージ!』


 ベルトを押し込み、必殺技モーション。

 デュアルの手から糸が放たれ、肉塊を包み込んでいく。


 糸を引っ張り、肉塊を引き寄せたところで――渾身の回し蹴りを放った。


「「らぁぁぁあああっ!!」」


 蹴りをまともに受けた肉体は、大きく吹き飛び……爆散する。


「……あー楽しかった!」

「ええ、とても刺激的でした」


 変身解除し元に戻ったアルダートの感想に、フレンディアもニコニコと同意。


「それにしても……まさか、お二人が最近噂になってるドラゴンライダーだとは思いませんでしたわ」

「知ってたのか、その噂」

「ええ。有名ですので」

「……怖いか? 魔人になってる俺が、普通の生活を送っていて」


 恐る恐る訊くショウに対し、フレンディアは「あら」とさも可笑しそうに笑う。


「怖がる必要、ありますの? 例えショウさんが魔人で害を為す存在であろうが――わたくしには関係ありませんわ」

「……そう」



***



「――これでよし、と」


 最深部の壁に魔法陣が描かれた札を貼った。


「もう悪霊が集まることはありません。お二人とも、協力してくださりありがとうございます」


と依頼達成に微笑むフレンディアだが……。


「…………」

「どうしたショウ?」


 何故かショウは浮かない顔をしていた。


「……あのさ、フレンディア」

「はい、なんでしょう?」


 問いかけに、フレンディアは小首を傾げる。


「お前の目的さ――?」

「…………」


 彼のの指摘に……フレンディアはニコニコした表情を崩さぬまま答えない。


「あ? どういうことだ?」

「こいつはな、ぶっちゃけどっちでもよかったんだよ。ここで俺らが悪霊を倒そうが……逆に俺らが倒されようが」


 ゲームでも――フレンディアはそういうキャラクターだ。


「俺らがここで倒され、街の住民が全員殺されて……悪霊が増えようと。こいつ的にはそれで良かったんだ」


 フレンディアの目的はプライ森林の調査。ただそれだけに過ぎない。

 結果がどうなろうと、どうでも良かったのだ。


 ――例えショウさんが魔人で害を為す存在であろうが、わたくしには関係ありませんわ。


 先程の返答で確信した。

 アリアと似てるようで、正反対の反応。怖がらない理由は――信頼してるからなんかじゃない。死を恐れてないからだ。


「人もモンスターもいずれは死にます」


 淡々とフレンディアは語り出す。


「でも……死んだところで幽霊になるのだから、いいじゃないですか。それが――悪霊になったとしても」

「…………」

「私のようなゴースト系モンスターを専門とした冒険者は数多くいるんです。浄化してもらい、幽霊として存在し続けられますよ」


 彼女は人の命を大切にしていない。

 


「幽霊として存在し、誰かに認知され続ければ――それでいいと思いませんか?」


 そう――フレンディアという女は、最初から誰にも心を開いていないのだ。


「……やっぱ俺、お前のこと嫌いだわ」

「あら、残念」


 突き放すショウの言葉にクスクスと笑うフレンディア。

 だが、その目は一切笑っていなかった。

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