第28話 じゃんけん大会って、絶対参加したくなるよね

 『一人死んだ』――にわかに信じがたい情報だった。


 なにせ相手はあの勇者スカイ。とんでもないチートスキル思った上に主人公補正が効く、チートミルフィーユのような奴が……仲間を殺すような失態を犯すはずがない。


 ましてや……味方というのは女の子のみ。

 『せかふく』は女の子が死ぬシーンなど、ワンシーンもないのだ。


 考えられる要因とすれば……。


 ――俺が生きているから、か?


 ショウの死亡フラグの回避。これが正規ストーリーに何か大きな影響を及ぼしているのだろうか?


「ところで……わたくしにプライ森林を案内してくださる殿方はいらっしゃいますでしょうか?」

「「「――はいはいはいはいはいっ!!」」」

「えっ、あっ、はいはいはいはいはーい」


 元気よく手を挙げる周囲に釣られ、ショウも思わず手を挙げる。


「うーん……案内役は一人いてくだされば結構なのですが」


 ちょっと困ったように微笑むフレンディア。

 そして、火花を散らしあう男たち。


「ここは、なぁ?」

「そうだな、対等に――」


 ――おっ、じゃんけんか? じゃんけん大会か?


 余った給食は別にいらないけど、じゃんけん大会には参加したいクセのあるショウは手をウキウキさせる。


「――一人ずつフレンディアさんにアピール大会だ!」

「「「おぉーっ!!」」」

「……えぇー」


 他の面子が盛り上がる一方……ショウだけは微妙そうな顔をした。


「ルールは簡単! 誰が一番フレンディアさんの心を掴むか、だ!」


 ――えー……なにそれつまんな。なんかやる気なくなったわ……。


 じゃんけん大会じゃないことを知り、一気に興味が失せていくショウ。


 だがアピール大会はちょっと面白そうなので、傍観者として見学しておくことにする。



 ――そこから、男たちの猛アピールが始まった。


「『女の子には優しくしなさい』と教わりまして」

「ごめんなさい」

「困っている人を助けるのがモットーです!」

「ごめんなさい」

「か弱い女の子を一人にしてはいけないので」

「ごめんなさい」

「プライ森林は詳しいので!」

「ごめんなさい」


 一人、また一人と斬られていく。

 その断るまでの速度は見事なまでであり、まるで百人斬りRTAを目の前で見ているかのような気分だ。


「えっと……これで最後か? まだやってないのは誰だ?」

「あー……ショウじゃね? お前、やってないだろ」

「えっ? あぁ……」


 正直、乗り気じゃない。

 何故なら……彼はあのリーリアとは、フレンディアのことが嫌いだからだ。


 ――でもまあ俺も名乗り出ちゃったし。一回ぐらい記念に参加してみるか。


 ぶっちゃけ勝たなくていい……というか、勝ちたくない。

 なので、彼は敢えて嫌われるような理由を述べようと考えた。


 ――確か、本来のルートでスカイについていく理由は……どんなに誘惑してもなびかない、その下心のなさからだっけ? あ、じゃあ、逆に下心満載でいけばいいじゃん。うん、そうしようそうしよう。俺がここに来た理由を、そのまま正直に話せばいいんだ。



 意気揚々とフレンディアの前に立つと――ショウは心からの本音を言い放った。




「おっぱいが大きいから」

「……あら」

「「「…………」」」


 ――あ、落ちたな。

 ――落ちたなこりゃ。

 ――はい、ごめんなさい一枚入りました。

 ――てか、オッケー貰う気ないだろ、あいつ。


 堂々と言い放つショウに周囲も斬られることを察するが……それこそショウの望み。


 ――さあ、断れ。『ごめんなさい』と言え。なんならちょっとドン引きしながら言え。フレンディアをドン引きさせられるシーンなんてゲームではできないんだから。ほら、断れよ。



「わかりました」

「はい、ごめんなさいですね。ありがとうございましたー」


 フレンディアの言葉を聞いたショウは即座に後ろへ振り向き、さっさと去ろうとする……が。


 ――はて? 今、違う返事が聞こえたような……?


「えっと……ごめん、聞いてなかった。もう一回言って?」


 念のため再確認してみる。


「ですから、わかりましたと」

「うん……うん? なにを?」

「あなたのアピールが一番惹かれました。あなたに案内してもらいます」

「「「は――はぁぁぁあああっ!!?」」」


 ニコリと微笑むフレンディアに、この場にいた全員がどよめきの声を上げた。

 もちろん……ショウも叫んでいることを忘れてはいけない。


 ――あれ? なんかこの展開……既視感があるぞ??



***



 ――き、気まずい……。


 こんな予定ではなかった。

 ネタ枠として参加し、フレンディアに見事フラれる役目だったはずだ。


 だが……実際はどうだろう? ギルドの受付でフレンディアとショウは仲良く横に並んでいるではないか。


 そして――目の前には妙にニコニコしているアリア。一見いつも通りの……いや、いつも以上の笑顔のはずなのに、なんだか恐怖を感じる。


「初めてお越しになった方ですか?」

「ええ、この街に訪れるのは初めてですわ。わたくし、フレンディアと申します」

「アリアです。隣に居るショウさんとはやらせてもらっています」


 なぜか『とても仲良く』の部分を強調して自己紹介している。


 ――いやまあ……理由は大体わかってるんだけどね。


 あれだけのことがあったのだ。流石にショウもラノベ主人公なんかではない。

 アリアが怒っている理由など、なんとなく察しがつく。


 ――この前だって割といい雰囲気だったし、うん。だからこいつとは関わりたくなかったのに……。


 一体誰のせいだろうか? ふと思い浮かぶのは――勇者スカイの顔。


 ――あいつが攻略をちゃんと進めてればよかったんだ。そしたら、こいつはこんな所に来ることなかったんだ。


 その勇者の攻略が手こずっている理由に、ショウがストーリー改変の原因を作った可能性があるのだが……今、そのことは棚に上げておいた。


「今日はプライ森林の調査に行こうと思いますの」

「なるほど。そんなことより、フレンディアさんとショウさんはどういったご関係で?」

「『そんなことより』? 今、自分の仕事を『そんなことより』って言った?」


 仕事より私情を優先してしまったアリアに思わずツッコミを入れるが、華麗にスルーされる。


「どういった関係……? いえ、特にこれといってありませんわ」

「……そうですか?」

「そ、そうそうそう、たまたま! たまたま会っただけだから! 流れでこうなっただけで!」

「そう、ですか……?」

「はい」


 決して嘘はついていない。

 二人の反応にアリアの目が少し優しくなる。


「ただ……少々熱烈なプロポーズを受けまして」

「ほほう、プロポーズ?」


 アリアの顔が元に戻った。


「な、ななななんのことだか」

「――曰く、わたくしのおっぱいが大きいからと」

「ちょっと黙ろうかフレンディアさん!?」

「今黙るのはショウさんの方ではないでしょうか?」

「えっ、あっ……ご、ごめん」


 ニコニコと反論するアリアの目はちっとも笑っていない。


 ――違うんだよアリアー……こんなつもりじゃなかったんだよー……。


 必死に目で訴えかけるが……今のショウは、どう抗っても言い訳にしか聞こえなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る