第27話 性欲があるってのはむしろ健全な証だろ

「――なぁ、マスター。魔人になる用のコアって売ってたりするのか?」

「……なに?」


 ふとしたショウの問いに、普段寡黙のマスターはピクリと反応した。


「お前やめとけよ? 魔人になるだなんてバカな考え、しちゃいけない」

「あぁいや、そういうわけじゃないんだ。ほら、最近街中で魔人出てきただろ? もしかしたら闇取引とかで流通してて、手に入れたのかなーって」

「あぁ……なんかそういうことか」


 ショウが魔人になりたがっているわけじゃないことに、マスターはほっと胸を撫で下ろす。


「いや、俺の知る限りは取引されてない」

「そっかぁ……そうだよなぁ……」


 ――だとしたら、ちょっとおかしいんだけどなぁ。


 先日の魔人襲撃事件。確かに魔人が出現するという展開はあるのが、それはもっと先の話なのだ。


 ましてや、あの敵はハイリザードマンのコアを使用していた。

 Cランクなので決して強力なコアというわけではないが……この近辺にハイリザードマンは生息していない。

 わざわざハイリザードマンのコアを自力で手に入れて、この街だけを襲った――だなんて回りくどいやり方はどうも納得いかない。


 もしかしたら闇取引で流通しているのかと思ったのだが……。


 ――じゃあ、あのコアはどうやって手に入れた? あいつは何が目的だった?


 ……わからない。シナリオではまだ中盤にも差し掛かってないはず。

 それに……あんなハイリザードマンの魔人だなんて、ショウは知らない。


 ――海底神殿に秘宝がなかったことも関係してるのかな?


「まあ、魔人について何かわかったら教えてくれ」

「……わかったら、な」

「それにしても、マスター……俺、おっぱいが揉みたい」

「真面目な話からの落差激しすぎだろ。どうした突然」


 いきなり下らない話題転換となり、若干引き気味になるマスター。


「いやさ、男なら誰しも思うじゃん? 仕方ないことじゃん?」

「俺にはわからんが」

「……あー」


 ――確かに。マスター、硬派そうだもんな。


 名前と性別以外は一切謎の男。ゲームでも売り買い以外の会話は存在しないため、そういう話を聞いたこともない。


「……あ、そうだ。代わりと言ったらなんだが。ここら辺の奴らが食堂に集まってるの、知ってるか?」

「え? ……あぁー、そういや見た気がする。なに? 新作の料理の評判でもいいの?」

「違ぇよ。この街にめちゃくちゃ可愛い美少女が来たらしくてな。みんな一目見ようとしてんだよ」

「はっ……なんだ、美少女ね。みんな好きだね、そういうの。『一目見たい』? いやいや、下心満載でしょそれ。はー、やだやだ。これだから単純な男は」

「……ちなみに。胸はかなり大きいらしい」

「よし行こう」


 マスターの追加情報にあっさりと手のひらを返した。


「いや美少女とか全然興味ないんだけどね? おっぱいが大きいなら仕方がないね。行くしかない」

「……さっき、下心がなんだって?」

「俺は悪くない。おっぱいが悪い」


 ――最低の責任転嫁だ。


「ってことでちょっとおっぱい見てくるわ! またな!」

「……はぁ。男って単純だな……」


 再び静まり返った店内に、マスターは独りでにため息をついた。



***



「なんだショウ」

「ここはお前なんかが来るとこじゃねぇよ」


 急ぎ足で食堂にたどり着くと、ロガーディアンの住民たち(全員男)は走ってきたショウを邪険そうに追っ払おうとする。


「うるさい黙れ。お前らに用はない」

「はあ……どうせお前も、あの子に興味あるんだろ? このミーハーめ」

「『一目見たい』って口実で仲良くなろうという算段だろ? はー、考えてることが手に取るようにわかるわかる」

「いや、ぶっちゃけ美少女かどうかなんて興味ない」

「……じゃあ、なんで来たんだよ?」

「おっぱいが大きいと聞いて来ただけだ。揉みたい以外の他意はない」

「「「俺らより最低だこいつ!?」」」


 驚愕する連中を無視し、人混みをかき分けて、食堂の中に入った。


「さて、と。どいつが………………えっ」


 噂のおっぱい……もとい美少女はどんな姿だろうと見た瞬間、ショウは思わず絶句してしまった。


 マスターの情報が間違っていたわけじゃない。確かに見たこともないような美少女だし、ゴスロリ風の黒いドレスからはこれでもかと胸が強調されている。



 ただ――そこにいたのは、ありえない人物だったのだ。


 透き通るような白い髪、金色に輝く瞳。儚げに紅茶を飲む姿は絵に描いた人形のよう。


「お、お前……もしかして、フレンディアか?」


 思わず声をかけると、白髪の少女はショウと目を合わせる。


「……あら。どちら様でしょう? なぜわたくしの名前を?」

「あっ、えーっと……その、風の噂で聞いたんだ。ゴースト系統のモンスターを専門とするテイマー、『ゴーストテイマー』のフレンディアだろ?」

「あらあら。わたくしの名も、王都の方々に知れ渡ってしまうくらい有名になりましたか」


 ぶっちゃけなってない。

 正直、他のキャラの方が実力が上だし、フレンディアはあくまで主人公の攻略対象として覚えていただけである。


だが、一番気になったのは――だ。


「……君さ、ブレクトっていう小さな村で活動しているはずだよね? ほら、サンディル渓谷の奥にある」

「ええ、よくご存じで。今日はちょっとした気分転換で、王都まで」

「あれ? 勇者一行に会わなかった? たぶんそっち向かっていると思うんだけど……」

「? いえ、会ってませんが?」


 ――どういうことだ?


 旅に出た勇者一行がまず一番最初に向かう村がブレクト。そこでフレンディアは勇者一行のパーティーに加わるはずなのだ。


 ――まだ着いてないのか?


「あぁ、勇者といえば」


 ふと何かを思い出したかのように、フレンディアが顎に手を当てた。


「私が村を出て行く際、ちょっとした噂になってましたよ」

「噂?」

「ええ」


 そして……次に彼女が発した言葉は、俄に信じがたいものだった。



「………………え?」

「勇者パーティーの中の一人が――

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