第26話 ドラゴンライダーデュアル

「あっ……待ってて、くれたんだ?」

「……はい」


 無事、戦闘も終わり家へ帰ろうとすると……アリアが家の前で待っていた。


「……先、入ってるからな」

「あ、あぁ……」


 二人の微妙な空気を読み取ったのか、アルはそれだけ言うと家の中へ入っていく。


「…………」

「…………」

「……その、大丈夫だったか?」

「あっ……は、はい。おかげさまで、なんとか」

「そ、そっか……それは、よかった」

「…………」

「…………」


 沈黙が訪れる。


 いつもは軽口を叩けるショウだが……今はそんなことできない。


 青透明の戦士の正体がショウだとバレた以上――もう元の関係には戻れないと思っているからだ。


 彼女は知ってしまった。

 恐怖の対象が――今目の前にいるこの男なのだと。


 ――この子には、嫌われたくなかったんだけどな。


「……じゃあ、帰りも気をつけて」


 アリアの顔もまともに見れず、去ろうとショウ。


 ……その背後から。


「っ……!」

「ま、待ってください……」


 アリアが彼の身体をぎゅっと抱きしめてきたのだ。


「……………………」


 ショウの動きがピタリと止まる。


「……俺の正体、もう知っただろ?」

「はい」

「今、街で噂になっている青透明の戦士だぞ?」

「はい」

「……怖いんじゃ、ないのか?」

「…………」


 ――青透明の戦士は魔人かもしれない。


 確かにそう囁かれるのもおかしくないだろう。姿形は変わるし、身体能力も人間とはかけ離れている。

 実際、アルダート及び他のモンスターのコアの力で変身している姿。ほぼ魔人と変わらないはずだ。


 彼女は今日、見たはずなのだ。魔人が冒険者たちの命をあっさり奪っていく瞬間を。


 魔人が怖くないわけないのだ。


「……私が怖かったのは」


 ぽつりぽつりと、アリアが語りだす。


「私が怖かったのは……青透明の戦士がどんな人なのか、わからなかったからです」

「…………」

「味方なのか、それとも敵なのか……それがわからなくて怖かったんです」


 そう……青透明の戦士に流れてる噂は怖いものではない。


 『最近、プライ森林に現れる』……ただ、それだけ。

 人を殺しただの、襲い掛かってきたなど……悪い噂なんて一つもないのだ。


「でも……今日、やっと正体が分かりました」

「……味方だった? それとも……敵、だったか?」


 正直、訊くのが怖かった。


 ここで『敵だった』と言われれば……今までの関係が完全に崩壊すると感じたからだ。


 ――嫌われたくない。


 だが、訊かなければいけなかった……いや、訊きたかったという方が正しいだろうか。


 今の関係がなくなってしまったとしても……異形の戦士として戦うショウを、彼女はどう感じたのか。

 妹と自分を救った、この力を。

 妙に気が合う奴と一緒に戦う、この姿を。


 彼女の目にはどう映ったのか――訊きたかったのだ。


「…………」


 しばらく沈黙が続き……やがて、アリアが答える。


「敵でも味方でもありません……ショウさん、でした」

「……そっか」


 ようやく振り返ろうとするショウに、アリアが身体から離される。



 そこには――目を赤くさせて涙目となっているアリアの姿があった。


 『君には涙なんかより、太陽のような笑顔の方がよっぽど似合っているよ』――ふと、『せかふく』の主人公の台詞が蘇る。

 確かアリアのデートイベントの際、そんな甘ったるい台詞を吐いていたはずだ。


 ――バカだな。


 今なら断言できる。かつての主人公はアリアのことをちっともわかってない、ということを。


 ――こんな顔だって……十分魅力的じゃん。


「助けてくれて、ありがとうございます……ショウさん」

「……うん。こちらこそありがとう……アリア」



***



「――おい、聞いたかあの噂」

「あー知ってる知ってる。青透明の戦士だろ?」


 ――あー、やっぱり噂になってるか。


 案の定というか、予想通りというか。

 翌朝、ギルドへ訪れると……ギルド内は、青透明の戦士の話題で賑わっていた。


「なんかすげえ禍々しいドラゴンに乗ってたんだろ?」

「それで町中飛び回ってたって」

「おっかねぇな、おい」

「でも魔人を倒してくれたらしいぞ」

「死んだあいつらの仇でも討ってくれたのかな……」

「ちょっと待て。じゃあいい奴なのか?」

「いや、情報不足過ぎる。わからん」


 ――まあ、あれだけ街で大暴れすれば、目撃者もいるよな。


「ねえ、アリアちゃんもなんか知ってる?」

「えっ、あっ、いや……あ、あははっ……」


 どうやら興味津々なのは冒険者だけではないらしく、知り合いの受付嬢に問われたアリアは、苦笑いをして誤魔化してた。


「……ふむ」


 ――正体がわからないから、怖い……か。


「おはよ」

「おぉっ、いいところに。なぁショウ、お前も今噂の戦士について何か知っている?」

「あぁ、知ってるよ」

「そうだよなぁ、お前が知るわけ……え、知ってるの?」


 突然のカミングアウトに周囲がどよめく。


 ――まあ、名前も知らないような相手は怖いだろうな。……だから。せめて


「デュアルだ」

「……え? ディア……なんだって?」

「デュアル。かm……いや、。それがあいつの正体だよ」



***



「くそっ……!」


 一方。


 魔王討伐の為、ヘビウム山岳を旅をしていた勇者スカイ一行の前に立ちはだかったのは……三本の首がある、三つ首ドラゴン。


「――ス、スカイ! バリア、張れました!」

「今のうち! 逃げましょう!」


 必死に退路を確保する二人に……スカイは吐き出すように叫んだ。


「こんなことが……こんなことがぁぁぁっ!!」




 勇者パーティー、ヘビウム山岳の攻略失敗……及び――

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