第25話 怖がってちゃ、何も始まらない

 ベルトの可動域を押し込むショウの身体に変化が起きる。

 そして、アリアの目の前に姿を現したのは……。


「青透明の、戦士……!」

「はあっ――!」


 魔人まで一気に肉薄し、拳を打ち付ける。


「逃げろ!」


 とショウが必死に叫ぶが……アリアはまだ動けずにいた。


「逃げるんだ! 早く!」

「――!」


 ようやくアリアの足が動いた。ビクリと体を震わせ、一目散に逃げていく。


 ――よし。


「さぁーて……せっかくデートを邪魔してくれたんだ。そのお礼は、しないとな!」

「助かったぜぇ……今日は小娘にさんざん連れ回わされて、丁度飽きてきた頃なんだ。いい暇つぶし程度にはなってくれよ――な!」

「「おらぁっ!」」

「――!」


 鋭い突きと蹴りが魔人に襲いかかる。


「ひっ……ひっ……!」


 と。

 ハイリザードマンの魔人が声を上げた。


「ひ――秘宝! 秘宝秘宝秘宝!」

「秘宝……?」

「あ? 何言ってんだこいつ?」

「秘宝は、俺のものだっ!」


 ――こいつ……。


「秘宝ぅぅぅっ!」

「――っと!?」


 相手の拳を慌てて躱し、バックステップする。


「ショウ、ボーっとしてんじゃねえぞ! 死にてぇのか!」

「っ、悪い!」


 ――今は戦闘に集中しないとな。


 考え事は後でも出来ること。ショウは思考を切り替え、ハイリザードマンと向き合う。


「あぁぁぁっ!」

「ふっ――!」


 何も考えない突進を冷静に躱す。


「――おらぁっ!」

「ぐおっ!?」


 そして隙だらけの敵の腹にカウンターを食らわせた。


「おらっ、どうしたどうした!? もっと楽しませてみろよ!」

「っ! っ!!」


 止まらない。ショウたちの連撃は一向に止まらない。


「くっ――くそっ!」


 肉弾戦ではショウたちの方が上回ると判断した魔人は……自ら体内からコアを取り出す。


「こうなったら――!」

「っ! 馬鹿、やめろ! !」


 魔人が何をするのか――予測できていたショウが慌てて止めようとするが……間に合わず。


『ハイリザードマン!』

『アウェイキング!』

「――ぉぉぉおおっ!!」

「――!」

「なっ……!?」


 コアが妖しげな光を放ち……魔人の身体に変化が起きる。

 背中から大きな翼が生え、爪も凶悪化したのだ。


「ぐっ――遅かった!」


 覚醒。

 コアが心臓に繋がり、魔人の力を更に強めるモードである。


 ただ……一度覚醒してしまえば最後。生きたままコアを摘出することは――不可能!


 ハイリザードマンは翼を大きく広げると、一気に上空へ飛び上がった。


「! 待て!」


 ショウも壁をキックし跳び上がるが……それでも届かない。


 更にここは街中。キャプチャできるモンスターがいない。


 つまり――今のショウたちには、空中の敵を倒すことは不可能!


「てめぇ、降りてこいや! ビビってんじゃねぇぞ!」


 ――ビビる?


 ぶちギレるアルダードの言葉に、ピクリと反応したのはショウの方だった。


 ――ちょっと怖い、かも。


 そして同時に蘇る、先程のアリアの言葉。


「そうか……怖かったんだな、俺」

「は?」

「アル。今、あいつを倒す方法は――こいつだ」


 とショウが取り出したのは――グリムドラゴンのコア。


「お前……それ、使えねぇやつじゃん」

「違う。俺は怖かったんだ」


 そう……彼はあの時、怖がっていたのだ。

 エネルギー剣から溢れ出していた力を。また殺されるんじゃないかという自我のもつエネルギーを。


 ――そうだ、怖がることなんかないじゃないか。


「こいつはもう――俺のものだ!」

『グリムドラゴン!』


 エネルギー剣にセットしレバーを握りしめると、柄をポイッと宙へ放る。


 すると――禍々しい紫のエネルギーが溢れ出し……へ変化した。


「ハッ、こいつぁ丁度いい!」


 すかさずドラゴンへ飛び乗り、首に刺さっている柄を握る。


「頼むぞ」


 レバーを握り締めると……ドラゴンは翼を羽ばたかせ、空高く飛び上がった。


「――!」


 その飛翔力は――あのハイリザードマンの魔人とは比べ物にならない!


「――おらぁっ!」

「がっ!?」


 そして空中に安心しきっていた魔人に一瞬で追いつき、一撃。


「なっ……!?」

「さぁ――空中戦といこうじゃねぇか!」

「――!」


 魔人はその後も逃げるが……スピードもパワーも段違い。


「おらっ!」

「ぐぅっ!?」

「――そこぉっ!」

「がふっ!?」

「もう一発、食らいやがれ!」

「ぁぁあっ!」


 どんなに逃げようと即座に追いつき追撃を与えていく。


「これで――どうだぁぁぁ!」

「――がぁぁあっ!?」


 ボロボロになった魔人は、逃げる力も失われ遂に地面へ叩きつけられた。


「トドメだっ!」

『エネルギーチャージ!』

『グリムドラゴン!』


 レバーを握り締めるとドラゴンが牙を剥き、魔人へ突進を仕掛ける。



「秘宝、秘宝は――ぁぁぁぁあああああっ!」



 渾身の一撃を真正面から受けた魔人は……勢いよく吹き飛び、爆散した。


「……終わったか」


 戦闘が終わり、変身解除する。


「…………」

「ん? どうしたショウ」

「いや……覚醒した魔人ってのはさ、心臓とコアが結びつかれてるんだ」

「へぇ、そうなのか」

「だから………今の一撃で、俺は………」

「………ハッ! なんだ、人一人殺したくらいで。それに、殺されそうになったからやり返した――ただそれだけのことじゃねぇか」

「………………」

「それとも、なんだ? 『人殺しなんてできない』だなんて甘えたこと抜かすわけじゃねぇだろうな?」

「………いや、そんなことは言わないよ。むしろ素顔は見てないから、普通にモンスターを倒した気分だ」


 そう、ここは弱肉強食の世界。

 どんな日常にも死の隣り合わせ。こんなことで落ち込んでいるわけにはいかない。


 ただ………気になる点があるとすれば、一つ。


「なあ、アル」

「今度はなんだ?」

「さっきあの魔人が言ってたこと……ちょっと気になるんだよな」

「……あー、『秘宝』がどうとかってやつか?」

「あぁ」


 あの魔人は秘宝を求めていた。だが、ショウたちは秘宝なんか持ってない。

 本来なら海の秘宝、『真実の水晶』を手にしているはずが――何者かに奪われていたから。


 ――どういうことだ?


 ショウの知らないところで、今、物語が動きつつあった。

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