第24話 ごめん、実は俺……

 昼食を摂り終えた後、アリアが行きたい場所があるということで、案内してもらうことにした。


「――ここです!」


 と紹介されたのは……街全体が一望できる高台。

「あー、俺もここ好きだわ」

「ショウさん、ここ知ってました?」

「うん、まあ」


 ――だって、ゲームで何回も来てたし。


「ちなみにさ、この真下のことは知ってる?」

「えっ?」


 とショウが高台ののすぐ近くにある広場を指さす。広場には陽気な若者たちがダンスを踊って楽しんでいる姿が見えた。


「この広場さ、不自然に窪んでるでしょ? 理由知ってる?」

「……いえ、知らないです」


 そう――高台周辺の広場は2つ存在し、中でも高台に近い方の広場は他の土地より標高が低くなっているのだ。まるで何か抉り取られたみたいに。


「昔、オーディの街づくりの最中に石が足りなくなることが結構あったんだよ。当時ここから近い採石場って、二日も歩かなくちゃいけないヘビウム山岳だったんだ。でも、そんなん待ってられないって人もいてさ。だから……」

「……あっ。この広場を採石場として、利用した……?」

「正解。まあ、正確には採石場として使ってたポイントをそのまま生かして広場とした、って流れなんだけどね」

「へぇー、そうなんですか……」


 ――確かそんな設定だったよな。


 ショウの豆知識にアリアは興味深そうに聞き入るが、やや不満そうに頬を膨らませる。


「私がそういうの紹介したいのにっ。ショウさんってば何でも知ってるから、なんかちょっと悔しいなぁ……」

「いや、どこに悔しさ感じてるんだよ」


 その反応がなんだか可笑しく、思わず苦笑してしまう。


「私、この街……オーディが好きなんです」


 と、アリアが手すりに手をかけて語り出す。


「もちろん王都だからって言うのもあるんですけど……ここには色んな人が来て、また別の街に離れていく。そういう人たちも含めて、住民たちが街を回してるんだなぁって感じることが多いんです。だから、この街全部が好きで、この場所によく来るんです」

「この街全部……」


 アリアにつられて、ショウも街を見渡す。


「……ねぇそれ、東側にあるやべーやつらしかいない繁華街も含まれてる? あそこ、娼婦まがいの行為を売りとしてる店、かなりあるよ??」

「……………………。…………………………そ、そういう人たちも含めてっ、この街を回してるんですっ」


 ――今、めっちゃ考えてたな。


 まあ、そんなことはともかく。


「街を回している、ね……」


 確かにそうかもしれない。

 モンスター討伐に励む冒険者一同。それを抱えるギルドの面々。装備や道具を売る商人、加工する鍛冶屋、作物を作ってくれる農民、ロガーディアン通りの荒くれ者たち。


 良い奴も悪い奴も、この街が好きだから住んでいるのだ。オーディを生かしているのは、ここで暮らし、賑わせている人たちだといえよう。


「俺もさ……この街の住民のおかげで、今でも生きているんだ」

「……ポエムですか? 意外とロマンチストな一面もあるんですね」

「あぁいや、冗談じゃないんだって」


 突然語りだしたショウにアリアがからかうが、彼にとっては真意なのだ。


「俺さ……本当はすぐ死んじゃうレベルで弱い人間なんだ。今、生きてることだって奇跡に近い」

「……そんな」

「いや、本当なんだ」

「で、でも成長してるじゃないですか。この前だって、Eランク冒険者に昇格しましたし!」

「そう……そうやって俺を成長させてくれたのは、ここの住民たちなんだ」


 誰か一人でも欠けてたら――なんて言い方は大げさだが。人は間接的に繋がっているので、間違ってはないだろう。


「まあ、後悔しないように今を全力で生きてるから。死んでも悔いはないんだけどさ――おっと」


 なんて冗談めかしく言ってみたショウの手を……突然アリアがギュッと握ってきた。


「どうした?」

「……いえ。ショウさんがなんか馬鹿げたことを言ってるので」

「馬鹿げたって」

「本当に馬鹿げてます……ショウさんが死んだら、ルーナちゃん悲しむじゃないですか」

「……………」

「あと……私も悲しいです」

「……ありがとう、そう言ってくれて」


 まさかアリアからそんなことを言ってもらえると思わず、ショウは彼女の頭を優しく撫でる。


「大丈夫。死んでも後悔しないようにはしてるけど、別に死にたいわけじゃない。死んじゃったらこの景色、もう見れないしな」

「……そう、ですね」


 死ぬつもりはない――彼のはっきりとした意向にアリアも笑顔を向けた。


「……ショウさん」

「ん?」

「もし……もし、都合が合えば、なんですが。また、こうして――」


 と――そこまで言った時。


 アリアの背後からが迫ってきていた。


 どこか見覚えのあるシルエットを見た瞬間……ショウの身体が強張る。


「――!」

「きゃっ……!?」


 咄嗟にアリアを巻き込み地面に転がる。

 シルエットの鋭利な爪がショウの藍色の髪を掠めた。


「な、なんですか……!?」


 アリアが襲撃者を見ると……さっと顔が青ざめる。


 見た目は人型。だが、頭はドラゴンの形をしていて、身体も人間なんかより肥大化している。


 ハイリザードマン……いや、世間一般が知るハイリザードマンとは違う形態。尻尾はあんなに短くないし、身体のサイズも一回り大きい。そして何より……動きがどことなく人間らしい。


 どちらかというと、当てはまるのは……ただ一つ。


 ――魔人!


「逃げるぞ!」

「っ!」


 アリアの手を引き、魔人から離れていく。


 ……が。


 ――は、速い!


 足が尋常じゃなく速い。人間のステータスでは簡単に到達できないような速度である。


 ――おかしい……魔人が出るのはおかしい!


 魔人はモンスターのコアを人間が直接体に取り込み、モンスターとしての能力を得る存在。例えそれがCランクモンスターのコアだとしても、魔人となれば何倍もののパワーに膨れ上がってしまう。


 ただ……この魔人という存在、登場するのにはまだ早い。ストーリー後半に差し掛かってきた頃、主人公たちの前に突如として現れるのが初登場のはずなのだ。


 それが――まだ中盤にもなってないこのタイミング、そしてオーディに出現するだなんてこと、聞いたことがない!


「そこ、曲がるぞ!」

「は、はい!」


 二人は大通りに並ぶ店と店と間の裏道へ。さらに左へ曲がり、細い道を通る。


 どんどん入り組んだ道へ逃げていき。姿を眩ませようとする。


 ……だが、しかし。


「なっ……!?」


 上から跳んできた魔人が、二人の目の前に降り立ってきた。


 ――なんてジャンプ力だ!


「くっ……!」


 入り組んだ道を諦め、再び大通りへ逃げていく。


「な、なんだあれ!?」

「モンスター! モンスターだ!」


 広場まで逃げると、たまたま広場にいた住民たちも魔人の姿に気がついた。


「お、ハイリザードマンか?」

「どうやって入ってきたこいつ!」

「まあ、そういうのはまた後で。今はこいつを倒すのが先決っしょ」

「そうだな。この街で好き勝手できると思うなよ?」

「――! ま、待て、戦うな! 逃げろ!」


 逃げ惑う住民たちの中にたまたま居合わせた冒険者達が果敢に武器を構える。


 が――今回は相手が悪い。


「なっ……!」

「がっ!?」

「て、てめ――ぁぁあっ!」

「……!」


 一人、また一人と。


 鋭利な爪で体を真っ二つに引き裂かれていく。


「ヒッ……!?」


 あっさりと死んでいく冒険者たちを見て、アリアの脚が竦んでしまう。


 ――くそっ!


 こうなれば、自分も戦わなければいけない――そう思った時。


「――ショウ!」


 と、彼の元に駆けつけてきたのは。


「アルダート!」

「なんか嫌な気配がすると思ったら……なんだあいつ?」

「説明は後だ。行くぞ」

「……おい。俺はいいけど、お前はいいのか?」

「いいのかって、何を……!」


 コア・デュライヴを装着するショウに対し、アルダートが珍しく乗り気じゃない。


 彼は後ろに居るアリアとショウの顔を交互に見ていた。


「………………いいんだ。この子は死なせたくない……だから!」

「……そうか」

「ショ、ショウ、さん……?」

「……ごめん、アリア」

『スライム!』


 コアをセットし――ショウは魔人と対峙する。


「「変身!」」

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