第23話 彼女のこんな一面、ゲームになかった

 ――まさかこんなことになるとは。


 予想だにしない展開にショウは未だ信じられなかった。


 なにせ相手はあのアリアなのだ。勇者であるスカイにお熱なはずの女性である。

 それがどういうわけか……モブキャラどころか、序盤で出番が終わるショウのお誘いに、快くオッケーしてくれたのだ。

 これが驚かずにいられるだろうか。


「――ショウさん」

「っ!」


 と。

 後ろから声をかけられ、思わずビクリとする。


 振り返ってみると……そこにいたアリアは、いつもの格好ではなかった。


 ――えっ、おいおいおい……めちゃめちゃオシャレしてきてんじゃん。知ってるぞ、その服装。


 アリアの服は……ゲームで勇者とデートイベントの時に着てくる勝負服だった。


「すみません、待たせちゃいましたか?」

「い、いやいや、全然全然!? 超全然待ってないよ!!?」


 あまりの衝撃に思わず声が上ずってしまう。


「と、ところでさ、アリア」

「はい?」

「初めて私服姿見たけど……えと、その。超可愛いね」

「えっ、あっ……ありがとう、ございます……」


 思考が回らずドストレートな感想を述べると、いつもは軽く流すアリアも流石に頬を赤らめた。


「これ、自分でもお気に入りの服だったので……ショウさんに気づいてもらえて、嬉しいです……」


 ――いやいやいやいやいやいや! 気づくよそりゃ! これで気が付かない方がおかしい!


 いつもなら流れるように言えるはずのツッコミ。だが、いつもとは違うアリアを目の前にすると何も言えなくなってしまう。


「じゃ、じゃあ……行こうか?」

「……はい」


 ――ヤバい。このゲームは知り尽くしてるけど……実際のデートなんて初見プレイだ。


 こうして色んな意味でドギマギしながら、二人のデートが始まった。



***



「こんなオシャレなレストラン、あったんですね」

「そ、そうそう。割と知られてない穴場なんだよ、ここっ」


 ――ヤバい、気まずい。


 決して悪い雰囲気ではない。むしろ想像より良すぎるため、ショウは逆にやりにくさを感じていた。


 ――えっ、なになに? アリアってゲームでもこんな可愛かったっけ? 俺、ルーナ一筋だったんだけど……おかしい。めちゃくちゃ可愛い。今まで見てきたアニメキャラの中で一番可愛い。ヤバい、無理、死ぬ。


 未だ私服姿のアリアに脳がバグっていく。

 ゲームでは何度も見てきたはずの衣装。だというのに……ショウ視点になると、見方がこうも変わるのだろうか。ふとした仕草でもつい目を追ってしまう。


「……ショウさん」

「えっ、な、なにっ?」


 やけに艶っぽい声にさらに高鳴る心臓。


 そんな彼に、アリアはそっと顔を寄せ――





「――えいっ」


 と。

 ショウの右頬を突っついてきた。


「えっ、あっ……は、はいっ??」

「……ふ、ふふっ」


 そしてテンパるショウを見てクスクスと笑いだす。


「もしかして、緊張してます?」

「うっ……!」


 図星も突かれ、言葉を詰まらせた。


「あぁー、やっぱり緊張してるー。案外ショウさんにも可愛いところ、あるんですね」

「……いや、緊張するでしょそりゃ」


 アリアにからかわれ、なんだか緊張している自分が馬鹿らしくなってきたショウの肩から力が抜ける。


「もともと可愛い子が華々しい格好をしてるんだから、俺の反応は正しいでしょ。男だったらドキドキしないわけがない」

「あれ、口説かれてる? 今、口説かれてます?」

「……もうちょっと自覚した方がいいよ、自分が可愛いってこと」


 いつもの調子を取り戻し、さっきまでの雰囲気がぶち壊しになってしまったが……むしろ今の方が居心地の良さを感じていた。


「あぁ、肩の力抜けたら腹減っちゃったよ」

「ここのオススメはなんです?」

「あー、ここはね。お化け貝のパエリアがめちゃくちゃ旨いんだ」




 ……それから、二人はとりとめのない雑談を続けた。


 休日はなにしてるとか、趣味はとか、好きな料理とか……。


「あ、そういえばさ」

「はい?」

「最近やたらとギルスが俺に突っかかってくるんだよ、なぜかアリアと話してる時に限って。なんか理由知ってたりする?」

「あー……」


 少し気になってたことなので訊いてみると、アリアは微妙な表情をする。


「これ、自分で言うのもなんですが……ギルスさんって、私に……その、好意を抱いているみたいで」

「……あぁー」


 ――言われてみれば、確かに。


 ゲームでは各地を旅する為、あまりギルスの出番はないのだが……よくよく思い返してみれば、そんな設定だったんじゃないかという心当たりはあったりする。


「でも、正直ああいうタイプ、苦手というかなんというか……なので、ショウさんがいてくれるとすごく助かるんですよ。あまり長く話さずに済むし」

「……これも前々から思ってたんだけどさ。君って結構いい性格してるね」

「でもお互い様じゃないですか?」

「……ははっ、そうかもな」

「ふふっ」


 こんな彼女の一面、ゲームでは見れなかった。

 決して印象良い一面ではないのに……ゲームより自然体に感じるその性格には、惹かれるものがあった。


「あっ、そうだ。お話といえば。ショウさん今朝話してたじゃないですか。青透明の戦士の話」

「……あー」


 そういえばそんな話もしたなあ、と今朝のことを思い出す。


「あの戦士、魔人なんじゃないかという噂もあるんですよ」

「みたいだねー」

「ショウさんも気をつけてくださいね。魔人って、普段は普通の人にしか見えないらしいので」

「……アリアは、さ」

「はい?」

「その青透明の戦士……怖い?」


 ショウの問いに、アリアはうーんと唸り……少し困った笑みを浮かべ一言。


「ちょっと怖い、かも?」

「……そっかぁ」


 正直、ルーナ以外の人にはどう思われてもいいと思っていたショウだが……。


 ――アリアには嫌われたくないな。


 ……とも考えるようになっていた。

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