第22話 勇者の攻略ヒロインが俺とデートするわけ……

「『青透明の騎士』……? はい、知ってますよ。今話題じゃないですか」

「あ、あははー……だよねー……」


 ――マジか。


 アリアの当然だという反応にショウは冷や汗をかく。


 ルーナの言ってることは本当だった。



***



「――最近、夜のプライ森林で青透明の甲冑を着た騎士が目撃されてるから! 見た目はただの人間なんだけど……なんか姿形が変わるって! ベルトのバックルが変な形なのも特徴的だって聞いて、ピンと来たの!」

「あちゃーバレちゃったかー」

「バレちゃったかー、じゃないでしょう!? 一部では魔人なんじゃないかなんて噂もされてんだからね!?」

「そうか、もう俺たちの姿は知れ渡ってるのか……おい、やったなショウ。これからばんばん変身していこうぜ!」

「いいわけないでしょうがっ!」


 あまりにも楽観的に考えている二人に、ルーナは思わず頭を抱える。


「これ下手したら討伐クエストが発行されるかもしれないんだからね。そこらへんわかってる?」

「おう、向かってくるやつは全員ぶっ飛ばす」

「いい練習相手になりそうじゃん」

「~~~っ! 二人ともっ!!」


 まあ、そういう冗談はともかく……アルダートは冗談じゃなさそうだが。


 確かにクエストが発行されればかなりまずい事になる。人間の身でありながら魔物の力を使えることがバレれば、人類の脅威である魔人扱いされ、最悪処刑されるだろう。

 せっかく死亡フラグを回避したのに、そんなことになってはシャレにならない。


「あとお兄ちゃん最近働きすぎ。ちょっと休みなよ」

「えっ? いやいやいや、そんなことないって。俺が働かないと。ルーナも困るだろう?」

「それが最近余裕なんですぅー、ありがたいことに! どこかの働き者さんのおかげで、ねっ!」

「え、そうなの……?」


 冒険者と言えば平民。中世ヨーロッパの平民といえば奴隷。Eランク冒険者となれば、更に奴隷の中の奴隷。

 てっきりショウが必死に働かないと、この家の家計は崩壊すると思っていたのだが……どうやらそこはゲームの世界。そこまでシビアではないようだ。


「えぇー……じゃあたまには休むか。アル、なにして遊ぶよ?」

「じゃあ久々に俺と戦うか? 俺がいた洞窟だったら力も多少戻るし、誰にもバレないし」

「あぁ、いいね」

「それ休んでるって言わないからね!?」

「えっ、これもダメなの……? そしたら本気でやることなくなるんだが……」


 不満げに口を尖らせるショウだが、ルーナは「あるじゃん」と反論する。


「お兄ちゃん、アリアさんと出掛けて来なよ」

「……えっ? アリア? なんでアリア?」


 予想だにしない人物の登場に、ショウは思わず目を丸くさせた。


「なんでって……最近お兄ちゃん、アリアさんと仲いいじゃん?」

「えっ、そうか……? ただ、ギルドで軽く世間話する程度なんだけど……」

「それが仲いいって言ってんの! デートでも誘ったら、アリアさん絶対オッケーしてくれるって!」

「いやないない、ありえない」


 流石に言い過ぎだと思った。

 なにせアリアはスカイの攻略対象キャラ。ルーナだけは死んでも渡さないと誓っているが……アリアが自分に好感を持つはずがないと、彼の脳内で完結していた。


 明らかに自信なさげなショウの発言に、なぜかルーナがムッとする。


「それがありえるかも……いや、絶対そうだって! なんなら――賭けてもいいよ!?」

「……ほう」


 『賭け』という言葉にショウの眉がピクリと動いた。

 別に前世で賭博をしていたわけではないが……男子は『賭け』とか『頭脳戦』といった言葉に、妙な魅力を感じる生き物なのだ。


「もしアリアさんがお兄ちゃんとのデートを断ったら、その日好きなように過ごしていいよ。アルちゃんと遊んだっていいし、働いたっていいし」

「へぇー、いいんだ?」


 あまりにも自信ありげなルーナの条件。


「そこまで言うなら、やってやろうじゃん?」

「もしアリアさんがオッケーしたら、お兄ちゃんは絶対デートするんだからね?」

「おうおうおう、別に構わないぜ。街でもぶらぶらして、旨いもんでも食ってやるよ」

「待て、旨いもんだと? それは聞き捨てならねぇな。俺も連れて――ムグッ」

「はぁーい、アルちゃんはぁ、私と遊んでようね~?」


 食欲センサーが反応し一緒についていこうとするアルダートの口を、ルーナはニコニコした笑みで塞ぐ。

 いつも通りの優しい口調なのに、どこか威圧感を感じるのは気のせいだろうか?


「ハッ、見てろよ! 見事フラれて、ボロボロに泣きじゃくりながら一人寂しく帰ってきてやるからな!」


 胸を張って宣言するショウだが……そんな自信ありげに発するようなセリフではなかった。



***



 ――というわけで、今に至る。


「それで今日はどんなクエストを?」

「あー……今日は仕事じゃないんだ。働きすぎだってルーナに怒られちゃってさ」

「あっ、それは私もちょっと思ってました。ショウさん、最近は毎日のようにクエストを受けに来てるじゃないですか」


 ――あぁ……他の人からしても、そんな風に見えていたのか。


 決してルーナが過保護だったわけではなく、どうやらギルド側から見ても、ショウは働きすぎだったようである。


「おい、ちょっと待ってや! じゃあ、なんでお前、ここにいるんだよ!?」


 と後ろにいるギルスがショウに突っかかってきた。


 いちいち文句が多くてうるさいギルスだが、今回ばかりは彼の言う事も分かる。

 クエストを受ける気がない。だというのに、受付嬢と話す理由がどこにあるというのだろうか。


「用がないならとっとと失せろや! アリアはお前だけのものじゃねぇんだよ!」


 ――安心しろってギルス。要はすぐ済ませるから。


「というわけで、今日一日フリーになっちゃったわけなんだけどさ――アリア、今日デートしない?」

「は?」


 さらりとお誘いするショウに、ギルスの口があんぐりと開く。


「はあ、デートですか?」

「そうそう。昼からでもいいからさ。一緒にご飯食べたり出かけたりとか」


 ――そらみろこの反応。明らかに困ってるじゃねぇか。この世界のことは、俺が一番よく知ってるんだよ!


「いいですよ」

「うわはははっ! どうだ、見たかルーナ! 賭けは俺の…………………えっ?」


 本人がいないのに、その場で悲しき勝利宣言をしようとしたショウの動きが止まった。


「い……今、なんと?」

「だからいいですよ、デート。今日のお昼からですね」

「えっ、マジ?」

「マジです」



 この賭け……勝ったのはルーナだった。

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