第21話 噂の青透明の戦士

「「――変身!」」

「さて――今日もやるか」

「おうよっ」


 闇が支配するプライ森林の中、ショウたちは今宵も変身していた。


 ――まずは。


「【キャプチャー】!」


 木の上にいたナイトキャットに手をかざす。


『ナイトキャット!』


 頭部のクリアパーツが藍色に染まり、複眼が水色に変化。ナイトキャットスタイルにチェンジした。


「よっと」


 ショウは助走なしで木から木へ軽やかに飛び移っていく。

 ナイトキャットの身体能力、そして暗闇でも対象物が見える夜行性の目のおかげで、夜の森を難なく移動しているのだ。


「……よし、このスタイルも大体動きは掴めてきたな。ありがとう」


 森林の中腹部に来たショウはナイトキャットを解放する。


「前々から気になってたんだけどよ……なんでキャプチャーしたモンスターにお礼言ってるんだ?」

「そりゃそうでしょ。俺たちに力を貸してくれてるんだぞ? お礼はちゃんとしないと」

「……変なところで律儀なんだなショウって。それとも、人間は全員そんな感じなのか?」

「……いや。多分、俺だけかもしれない」


 普通、モンスターは敵か食料扱い。テイマーでさえ、自分の使役する以外のモンスターにお礼なんて言わないだろう。


 ――っと。いたいた。


「【キャプチャー】!」


 次にキャプチャーしたのは――シャドウウルフ。


『シャドウウルフ!』


 今度は漆黒のパーツが取り付けられ、風のように森の中を駆けていく。


「あぁ、これよこれ! やっぱ、さっきの猫よりこっちの方が速くていいぜ!」

「でも、シャドウウルフスタイルはあくまで平面的な速度だからな。立体的な動きと隠密行動なら、ナイトキャットスタイルの方が有利だ」

「わかってるよ、んなこと」


 ショウたちは今、コア・デュライヴの力を最大限に引き出す為、様々なモンスターをキャプチャーしているのだ。

 二人は主に夜間活動しているのだが……その理由は、他の冒険者に見つからないようにする為である。

 見た目は人型と言えど、動きや能力はまるでモンスター。ギルドに新手のモンスターや魔人だと間違えられては困るからだ。


「むっ……」

「なるほど、シャドウウルフだと洞窟内は見えないか……よし、ありがとう」


 シャドウウルフを解放した二人の目の前に広がるのは……森林の最深部に続く洞窟。


「【キャプチャー】!」

『ナイトキャット!』


 そして先程とは別個体のナイトキャットの力を借り、洞窟内へ侵入していく。


 洞窟内となると生息するモンスターも一変。初心者向けのモンスターという総評だが……この洞窟はCランクモンスターなどもそれなりに生息している。

 厳密に言うと、この洞窟自体、そもそもプライ森林で見つからなかった場所なのだ。スカイが勇者として森林を探索していたところ、勇者の力が反応し、洞窟を切り開いた……というのが、正規のシナリオ。

故に、洞窟内はオーディの冒険者にとって未開の地なのだ。


「おっと」

「――へっへっへっ。腕自慢野郎のお出ましか」


 そして本日の目的。


 洞窟内を歩き数分。Cランクモンスターのミノタウロスに遭遇する。


 対するナイトキャットはEランクモンスター。それでも二人なら勝てなくはないが……。


「今回はお前と一緒に戦うか――【キャプチャー】!」


 視界内に捉えていたゴーレムを即座にキャプチャーする。

 二人に向かってミノタウロスが斧を振りかぶってくる……が。


『ゴーレム!』


 ゴーレムスタイルとなった二人は、攻撃を素手で受け止めた。


 ゴーレムはDランクモンスターだが、防御力だけはBランク級。いくら腕力が自慢のミノタウロスでも、一撃だけでは倒せない。


「どうした? もっと来いよ」


 挑発するアルダートに対し、ミノタウロスは怒涛の猛攻を仕掛けるが……。


「――甘ぇんだよっ!」


 鋭いフックにより、持っていた斧を吹き飛ばした。


 ――今だな。


「【キャプチャー】!」


 ミノタウロスのキャプチャー条件は斧を吹き飛ばすこと。

 その証拠に武器を失ったミノタウロスは、たちまち緑の光に包まれコアへと姿を変えた。


「……よし」


 続いてショウが取り出したのは、エネルギー剣。


『ミノタウロス!』


 スタイルチェンジはせず、剣の方にコアを嵌めこむと……エネルギー剣は斧の形と変化する。


 ――アウルベアと同じ武器変化型か。


「……ん、よし。コアを二つ同時にキャプチャーできてる」

「あぁ、どうやら問題はなさそうだな」


 今回の趣旨は『コア二つの同時使用』。

 通常、キャプチャーやテイムは一人一体が原則なのだが……このコア・デュライヴの力を使えば、ベルトと剣で二つ同時にモンスターの力を発揮できる。


 一度も試したことがなかったが……どうやら問題なく動けるようだ。


 もともとショウは序盤で死ぬキャラ。これ以上スキルを獲得することはできないので、こういった戦闘方法の確認こそが、今の彼にとっての生命線なのだ。


「――さてと」


 そして……ここからが本題にて難題。


「ありがとな、ゴーレム」

『ミノタウロス!』


 ゴーレムだけを解放し、代わりにミノタウロススタイルへチェンジする。


 取り出したのは――グリムドラゴンのコア。


 本来、コアとはモンスターの心臓。キャプチャーしたモンスターを直接コアにする方法なんて前例になく、モンスターを倒してコアを摘出する方が正攻法なのだ。


「ふぅーっ……よし!」

『グリムドラゴン!』


 意を決し、グリムドラゴンのコアをエネルギー剣に嵌めこむ。


 本来ならコアのエネルギーを媒体とした武器に変わる――はず、なのだが。


「――っ!」


 出てきたエネルギーは……邪悪なドラゴンの頭。


「ぅ、ぐっ……このっ……!」


 ミノタウロスの腕力で抑え込もうとするが……あまりのパワーの強さに、剣そのものが持っていかれそうになってしまう。


 ――ダメだ!


 制御できないレベルの強さに、慌てて柄からコアを引き抜いた。


「くそっ……やっぱダメかー……」


 そう――ショウはこのグリムドラゴンのコアの使い道について、実に困っていた。

 コア・デュライヴに差し込んでも勝手に外れてしまうし、エネルギー剣に差し込むと今のように暴れる。


「お前が弱ぇからじゃねぇの? なめられてんだよ」

「うっせ」


 アルダートから辛辣な一言。


 だが……それも正しい気がする。何せユニークスキルなしの万年Fランク冒険者だったショウに、Sランクモンスターのグリムドラゴンを制御できる方がおかしい。



 傷一つないコアなので、マスターに売るか新しい武器などにもできる手があるだろうが……。


 ――せっかくコア・デュライヴの力があるんだし、別の方法で活かしたいんだけどなあ。


 はたして使える日が来るのだろうか――と、紫色に妖しく輝くグリムドラゴンのコアを見つめた。



***



 夜が更ける頃。二人はルーナを起こさないよう、こっそりとドアを開けた。


「ショウ、明日はなに倒す?」

「ん、あぁ、そうだな……別の場所に行くというのも――」

「――【ライト】」

「「――!?」」


 と。

 唐突に二人の前から光の玉が出現する。


 思わず身構えるが……光の先にいたのは見知った顔。


「……どこ行ってたの?」

「ル、ルーナ……寝てたんじゃなかったのか……?」


 ――やべ、見つかった。


「最近夜やけに静かだなって思ってたら……そういうことだったんだね」

「あー……いや、これはだな……」


 なんて言い訳しようか考えていると、アルダートがショウの肩に乗っかってきた。


(ここは俺に任せろ)

(あっ……すまん、頼む)


 いい案が思い浮かびそうにないので、やけに自信ありげな彼に任せることにした。


「おい小娘。なんでてめぇに教えなきゃいけねぇんだよ。俺たちがどこで何しようと――」

「アルちゃん。それ以上言ったら明日食事抜き」

「すみませんでした」

「弱っ!」


 まさかSSランクモンスターが食事に負けるだなんて思わなかった。


 ――ダメだ、こいつは使えない。


 ならば自分でどうにかするしかない――と考えているうちに、ルーナは素早くショウの後ろに回り込んできた。


「ちょっ――!?」


 慌てて隠そうとするが……もう遅い。


「……ほら、やっぱり!」


 ルーナはショウが持っていたコア・デュライヴを取り上げた。


「どっかで見たことあると思ったの! お兄ちゃんとアルちゃんだったんだね、最近噂の正体!」

「「噂……?」」


 声を荒げるルーナに、二人はきょとんとする。


「なんだ、噂って?」

「さぁ……? 最近、スカイたちがヘビウム山岳の攻略を始めたってことぐらいしか知らないんだが」

「俺は最近オープンしたミノタウロス専門料理店が旨いってことしか知らねぇな」

「はぁ……」


 世間知らずにも程がある二人に小さな少女は頭を抱えると、びしりと言い放った。


「知らないようだから教えてあげる。二人とも最近噂になってるんだからね――!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る