第19話 ベルトは喋るものだろ

「さあ――」

「――来いよ!」


 最初に動いたのはアウルベアの方だった。

 圧倒的な腕力を駆使し、二人に襲い掛かってくる。


「ふっ――!」


 その攻撃をいなすと――アウルベアの顔面を抑え込む。


「暴れる、な!」


 藻掻いて逃れようとする。アウルベアだが……それよりも強力な腕力によって動けない。


 アウルベアのキャプチャーの方法は至極簡単。自分の実力がアウルベアより上だと思わせればよいのだ。

 次第にアウルベアの抵抗する力が弱まっていく。


 ――今だ!


「【キャプチャー】!」


 意を決してスキルを放つと……果たしてアウルベアの全身が黄緑色の光に包まれた。


「よし、成功」


 と――アウルベアの体に変化が起きた。

 体長2メートルにもなる巨大な身体が……アルダートのようにモンスターのコアへと変形したのだ。


 これぞコア・デュライヴの力。キャプチャーした相手をコアに変化させ、その力を借りて自分の力へと変えるのだ。


 ショウはアウルベアのコアを空いている左の窪みに嵌め込む。


『アウルベア!』


 そしてベルトを押し込むと――青透明のパーツに変化が起きる。

 

 頭部がフクロウを模した形になり、複眼が金色に。

 水色のクリアパーツは全体的に茶色へとスタイルチェンジした。


 ――予想通り!


 これぞ、ショウが求めていたもの。


 コア・デュライヴの効果がプレイヤー自身にモンスターの能力の付与だとしたら……アルダートと一体化している今なら、その力をさらに発揮できる!


「……なるほどな」


 ショウの意図を理解したアルダートはニヤリと笑みを浮かべた。


「ところで、ショウ」

「ん? どうした?」

「ちょっと前から気になってたんだけどよ……コアを嵌め込んだりする度に、なんでこのベルト喋るんだ?」

「えっ、そりゃお前、ベルトは普通喋るものだからな。なんなら歌ってもおかしくないぞ」

「ふぅん?」

「まあ、あんま深くは考えるな」

「おう、そうさせてもらうわ。さぁーて、獲物は――っと」


 黄金に輝く複眼で周囲を見回していく。


 ……と。


「――!」

「そこかっ!」


 草木に紛れて蠢く存在を発見し――一気に肉薄した。


 迫り来る二人に気付いたゴブリンたちは一目散に逃げ出す……が。


「なんだぁ? それで、隠れてるつもりかよぉ!?」

「――!」


 まずは一体目。

 アウルベアスタイルになったことにより、アームに付いた鉤爪でゴブリンの身体を引き裂く。


「――もう一丁!」


 次に草むらにに紛れ込んだ二体目へ一撃。


 そう簡単に逃げ切れないことに判断したゴブリンたちは二人を囲っていく。


「ようやく戦う気になったか! ……ほら、来いよ!」


 アルダートの挑発に……一斉に飛び掛かってきた。


「おらおらおらぁっ!」


 一撃、また一撃。


 アウルベアの腕力でゴブリン達を次々とねじ伏せていく。


 そして残り四体となった時……もはや勝ち目がないと理解したゴブリンたちは、慌てて背を向けた。


「「――逃がすか!」」


 すかさずエネルギー剣を取り出す。


「アル! エネルギー剣にコアを嵌め込め!」

「よぉし、こうか!」


 ショウの指示通り、アウルベアのコアから取り外すと、エネルギー剣にある窪みへ嵌め込んだ。


 このエネルギー剣はコア・デュライヴを模したオリジナル武器。


 ということは――ベルトと同じく、コアを嵌め込めるようにしてあるのだ!


『アウルベア!』

『エネルギーチャージ!』


 レバーを握ってエネルギーチャージし、一気に解き放つ。


「「はぁぁぁ――!」」


 突進。


 全力疾走で逃げるゴブリンたちの背中に横薙ぎすると――剣の形が変化した。


 まるで鉤爪のような剣先が緑色の身体を捉える。


 そしてゴブリン達の体は――真っ二つに引き裂かれ、あっという間に全滅した。


「……ふぅー」


 コアを引き抜き変身解除すると、アウルベアのコアを宙へ放る。


「――力貸してくれて、ありがとな」


 すると……コアはたちまち元の身体に戻り、野生のウルベアは何処かへ消えていった。


「これでクエスト完了か」

「あぁ、ゴブリンたちのコアを持っていけば昇格だ。……あっ、それと……はいっ」


 と。

 突如手を構えるショウに、アルダートは不機嫌な顔をする。


「なんだ? やんのかこら?」

「違う違う。ハイタッチだよハイタッチ」

「……なんだそれ?」

「こう、手を合わせるんだよ。パチンと」

「はあ。一応訊くんだが……その行為に意味はあるのか?」

「もちろんっ。二人で協力して勝利した時、共に喜びあう証だ」

「……ハッ。案外くだらねぇこと考えるんだな、人間って」


 と彼は鼻で笑うが。


「――だが。それも悪くねえ」


 身体を手の形にさせると、ショウとハイタッチを交わした。

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