第18話 戦う合図、決めようぜ

「――なにやってんだよ、お前は!」

「うるせぇ、もう少しだったんだ! この森全部を破壊すれば――!」

「いや、させねぇよ!?」


 結局……ゴブリンを一体も見つけられなかった二人は、一度変身を解き、作戦会議――という名の、言い争いをしていた。


「あのなぁ、俺らは森を破壊にしたきたわけじゃないの! ゴブリンが近隣を荒らして住民が困ってるっていうから、その助けとしてこのクエストやってるんだからな!? それを俺たちが破壊してどうする!」

「んなこと知るか! 要するにゴブリンをぶっ倒せばいいんだろ!?」

「だから、違うつってんだろこの脳筋! あぁ……だから、最初は一人で戦うって言ったんだ……!」

「なんだとてめぇ! 俺がいねぇとグリムドラゴン一匹も倒せねえくせによ!」

「いや、あいつSランクモンスターだぞ!? あれ一人で倒すって相当だからな!?」


 判断基準をSランクモンスターにしないでほしい。


「だいたいなぁ! 俺の指示に従えよ!」

「はあっ? そんなもん、契約に入ってねぇな!」

「いや、そうじゃなくてっ! ……あーもうっ! このわからずや!」

「へっ! てめぇの気持ちなんか、ぜんっぜんわかんなくてもいいんだよ!」

「……!!」


 突き放すようなアルダートの言葉に、流石のショウもカチンとくる。


「そうかいそうかい! じゃあ勝手にすればいいじゃねえか!」

「あぁ、勝手にさせてもらう! 最初からそのつもりだったしな!」

「じゃあルーナが作ってきたこの弁当、いらねぇよな! 俺が全部食ってやる!」

「――おい、待てや!」

「今度はなんだよ!?」


 さっさと去ろうとするショウの背中に、アルダートが大声を張り上げる。


「その弁当は――俺も食うに決まってるだろうが!」

「…………」


 訪れる沈黙。


「……そう、か」


 ――そこは素直なんだな。


 すっかり毒気が抜かれたショウは、怒鳴る気力もなくなってしまった。



***



「…………」

「…………」



 お互い黙ったままの昼食。時折流れるのはウイングバードのさえずり。


 ――き、気まずい……。


 すっかり怒りが収まってしまったショウは、少し言い過ぎたことに反省していた。


 ――けど、どうやって切り出そう?


 ……なんて考えていた時。


「……なんか、味がしねぇな」


 ふと、アルダートがそんな独り言を呟いた。


「あの小娘……味をつけ忘れたのか?」

「……いや、ちゃんと味ついてるよ、それ」

「……あ? どういうことだ?」


 ショウはぽつりぽつりと語り出す。


「ルーナが料理を作る理由ってさ……『美味しい』って思ってほしいからなんだ。その人のことを笑顔にさせたくて……でも今の俺とお前はどうだ? お互い怒ったまま、背を向けて食事。そんなんじゃ味しないのも当然だよ」

「…………」


 そうだ。

 ルーナがショウにこの弁当を持たせた理由も……きっと『アルダートと仲良く食べてほしい』という願いから、持たせたのだろう。


「このコア・デュライヴもそうさ。これはモンスターを倒すための道具じゃない。モンスターと心を通わせるために作られたベルトなんだ」

「……モンスターと」

「もちろん、お前も含まれてる」


 仲間割れしていたところで……このベルトの本領は発揮できない。

 それに、アルダートがいてくれたおかげで……ルーナも自分も、無事生きているということをすっかり忘れていた。


「その……ごめんな。さっきは言い過ぎたよ」

「………………ちっ。先に謝られると、こっちが悪者みたいじゃねぇか」


 頭を下げるショウを見て、アルダートは気まずそうに目を逸らすと……。


「……あぁ。俺も悪かったよ」

「……!」

「ああは言ったけどよぉ……俺一人で戦ったところで、多分なんにもできやしねぇんだ。ショウみたいになんでも知ってるわけじゃねぇからよ」


 まさかアルダートが素直に謝ってくれると思わず……ショウは少し彼のことを見直した。


「……次は一緒に戦おっか」

「……あぁ。俺は暴れまわることしかできねぇからよ……作戦は、お前に任せるわ」

「じゃあ、さ。合図決めようぜ、合図」

「は? 合図? なんだそれ?」

「俺とお前が一緒に戦うってことはさ、心を一つにしなきゃいけないだろ? じゃないと、100%の力は出せないし」

「……みたいだな」

「だからさ――」



***



 太陽が傾き始めた頃、森の中を徘徊するモンスター。

 フクロウのような頭にクマのような図体――アウルベアである。


 彼の恐るべき点は、敵を恐れぬ心にもあるが……一度相手を見つけたら、どんなに逃げても補足する視力。一度ロックオンされれば逃れることは難しく、対策としては木の上などの高い所に登ることくらいである。


「……!」


 そんなアウルベアの前に――二つの敵が立ちはだかった。


「いくぞ――アル」

「あぁ――こいショウ」


 スライムはコアになり、男によってベルトに嵌め込まれる。


『スライム!』

「すぅー……ふぅー……」


 そして大きく深呼吸すると――二人は同時に合図を叫んだ。



「「――変身!」」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る