第17話 楽々脳死プレイはなろう系なんだってば

 Eランク冒険者への昇格試験――ということで、ショウたちはフォワン密林に訪れていた。

 密林にいるゴブリンの群れ10体の討伐――それが今回の昇格試験の内容である。


「このフォワン密林を越えた先にあるのがコルガレってところで、ミオネ海岸の隣にある街なんだ。昇格試験っていうのは、別の街でも報告すれば昇格できることになってるから――」

「……なるほど。帰り道も確約されていることから、一旦その街に寄りつつミオネ海岸に向かうってことだな?」

「そういうことだ」


 つまりEランクの昇格試験は完全なオマケ。二人の目的は、その先にある魔王城の観光だ。


「そういうことならちゃちゃっと終わらせちゃおうぜ。ゴブリンくらい、朝飯前だろ?」


 簡単に言うアルダートに、「そりゃお前ならな」――と返そうとした時。


 大きな影が二人に向かって突進してきた。


「「――!」」


 咄嗟に身を躱すと……二人に向かって突進してきたのは、Cランクモンスターのアウルベアである。


「【キャプチャー】!」


 アウルベアに向かって手をかざしてみるが……反応なし。キャプチャーできてない証拠だ。

 仮契約と言っても、キャプチャーできるには条件がある。無条件にキャプチャーできるのは、テイマー自身がモンスターより実力が上回ってないといけないのだ。


 ――ちょうどいい。タイミングバッチリだ。


 普通、Fランク冒険者がアウルベアに遭遇した時の対処法はたった一つ……逃亡だ。

 実力的に勝てるわけがない相手。逃げる選択肢は恥なんかじゃない。



 だが――ショウには。


 懐から取り出したコア・デュライヴを装着すると……可動部を押し込み、変身する。


「さて、と」

「おい、ちょっと待て」

「ん?」


 銀の戦士となったショウが改めてアウルベアと闘おうとした時……アルダートが割って入ってきた。


「何一人で戦おうとしてんだ。俺も一緒に戦わせろ」

「え、今回はいいよ。やりたいことがあるんだし」

「うるせぇ、そんなこと知ったことか! いいから戦わせろ!」

「えぇー……じゃあ、仕方ないな……」


 コアとなったアルダートを掴み、ベルトの右の窪みに差し込む。


『スライム!』

「よっと――」


 再び押し込むと、銀の鎧の上に、水色のクリアパーツが装着されていった。


「いくぜ!」


 アウルベアの攻撃を軽く躱し。


「――おらぁっ!」


 腹に一撃を与える……のだが。


「ちょ、おまっ……!?」


 あまりにも強烈すぎる一撃により、アウルベアは後方へ吹っ飛んでいった。


「バカバカバカ! 強すぎるわ! 加減しろ!」

「は? 敵に情けなんかいらねえだろ! なめてんのか!」

「いや、そうじゃなくてな? このベルトの使い方は――うおぉっ!?」


 なんて言い合っているうちに、アウルベアが反撃とばかりに突進してくる。


「へぇ……いい度胸じゃねえか、てめぇ」


 全体重を乗せた突進を真正面から受け止めるアルダート。


「――うぉらっ!」

「――!」


 そしてアウルベアの腹目掛けて、思いっきり蹴りを入れた。

 強力な蹴りにアウルベアの巨躯が持ち上がる。


「っしゃぁ! トドメだ!」

「いや、ちょ、トドメじゃねえよ!?」


 慌てて抑え込もうとするショウだが――アルダートのパワーが強すぎて抑え込めない。


『アルティメットチャージ!』


 エネルギーがチャージされ、必殺技モーションとなる。


「――どらぁぁぁっ!!」

「――!!」


 そして落下してきたアウルベアに向かって回し蹴りを放つと――再び巨体は宙を舞い、遥か彼方で爆散していった。


「ちょちょちょ、なにしてんの!?」

「あ? 敵倒しただけだが?」

「いやいやいや! だから倒しちゃダメなんだってば!」

「……? てめぇ、さっきからなに言ってるんだ?」


 ショウが慌ててる意味がわからず、首を傾げていると。


「――左! ゴブリンだ!」

「――!」


 全身が緑色の人型モンスター……ゴブリンの群れを発見する。


「っしゃ! 俺と勝負しろ!」


 見つけた本命のターゲットに、アルダートは意気込む。


 ……が。


「なにっ……!?」


 あろうことか――ゴブリンたちは彼の姿を見るなり、一斉に逃げ出した。


 ――あぁ、やっぱり……。


「待てやごらぁ!」


 一目散に逃げていくゴブリンに慌てて追いかける……が。


「くそっ……どこ行きやがった!?」


 ゴブリンの肌と草木が同じ色なので、すぐに見失ってしまう。


「出てこいや卑怯者! 勝負しろ!」

「ほらー、だからダメなんだって……」

「あ? どういうことだ?」

「俺たちのパワーが強すぎるから、戦う前に逃げちゃうんだよ」


 ゴブリンはモンスターの中でも比較的知性が高い。

 どんな相手でも突っ込んでくるアウルベアとは違い、「勝てない」と判断した相手には逃げ出すこともあるのだ。


「……あぁ、じゃあよ――?」


 と。

 アルダートは、エネルギー剣を顕現させる。


「えっ……あの、なにする気?」


 とてつもなく嫌な予感がした。



 結果……ショウの直感は正しかった。




「おおおぉぉ――らぁっ!!」



 レバーを握り、エネルギーをチャージさせると――木々に向かって全力で振りかぶったのだ。



 瞬間――たった一撃だけで何十本ものの木が吹き飛んでいった。


「おらっ――おらおらおらぁっ!」

「おいおいおい! おま、この森林全部なぎ倒す気!? 密林、ハゲちゃうよ!?」

「おらおらおらおらおらっ!」

「やめてぇ! 止まってぇ! こういうパワーで解決するの、なろう系っぽくて嫌いなんだよぉ!」

「どこだぁぁぁっ! どこにいやがるっ!? さっさと――出てこいやぁぁぁ!!」

「い――いやぁぁぁあああああっ!」



 アルダートの暴走は、フォワン密林が半壊しかけるまで続いた。

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